市内の清泉女学院大学(上野)と長野保健医療大学(川中島町)が計画しているH31年4月の看護学部(看護学科)新設に対し、長野市は両大学からの支援要請に応え、計7億3,250万円を支援する方針を固め、12月議会に関連補正予算案を提出すると発表しました。
両大学は県に対しても支援を要請しており、市としては、市と同額の補助を県に要請するとしています。
清泉女学院大学には、国交付金1億円を見込み、総額で9億6,500万円を、長野保健医療大学には総額6億円、合計で15億6,500万円を支援するものです。
大学整備基金はゼロに
市が負担する支援額7億3,250万円のの財源は、大学整備基金から2億6,700万円、一般財源から4億6,550万円を見込みます。
新県立大学に対し、大学整備基金から10億円を出資することから、看護学部開設支援で、大学整備基金はゼロとなります。
20日に議会側に説明があり、21日の市長定例記者会見で発表するとされていましたが、21日付の信濃毎日新聞朝刊では1面トップで報じられました。議会に対しては、事前説明時の資料を回収し情報管理を徹底したいとしていたのですが…。
2大学の看護学部新設の計画概要
清泉女学院大学は定員75人(4年間で300人)で、JR長野駅東口の東急駐車場の敷地をながの東急から賃借し、大学が学部施設を建設します。
長野保健医療大学は、定員80人(4年間で320人)で、現在、JR今井駅近隣で市から賃借しているグランドに、別会社が建設した大学施設をリースする手法となっています。
大学としての初期投資を抑制する意図なのでしょうが、土地は市から賃借、建物は別会社とのリース契約という手法は、複雑な権利関係を生じさせないのか、いささか疑問が残ります。
*掲載資料は長野市側からの議会への説明資料から抜粋したものです。
2大学での看護学部総定員155人で並存が可能なのか?
医療現場における看護師不足は解消すべき課題であることは間違いありません。
しかし、長野市内で2大学の看護学部の開設は乱立になりはしないか、並存が可能なのか、受験者や実習施設、就職先の確保が難しいのではないかといった観点から、市側は慎重に検討してきたとします。
市は、2大学の看護学部並存について、両大学の教育方針、学部運営の見通しについて検証し、教育方針では、それぞれが特色ある看護職養成教育を実施し、時代に求められる看護職養成に適応した教育内容となっていること、また、学部運営の見通しでは、北信地域には4年生看護師養成大学がないことから、進学希望者の受け皿となり、学生確保が見込めるとともに、実習先の確保も見通しが立っており、今後の在宅医療や介護などのニーズの増加により就職先の確保も見込まれるとし、並存は可能であると判断したとします。
この点については、両大学自身の調査やヒアリング結果に負うところが多い点が気がかりではあります。
見通しに甘さがないことを信じたいと思います。
県内及び北信の看護学部の状況
県内には信州大学医学部看護専攻(松本市・定員70人)、佐久大学看護学部(佐久市・定員90人)、県看護大学(駒ケ根市・定員80人)の3つの大学看護系学部があります。
県内高校生の上記県内大学への進学は143人で、県外大学への進学は212人だそうです。
北信地方には、4年制で看護学部を設置している大学は確かにありません。
しかしながら、看護専門学校が二つあります。
一つは、長野日赤病院に附属する長野赤十字看護専門学校(定員40人・3年制)です。
長野日赤病院では、病院施設の移転・新築計画があり、全国的に看護専門学校の大学への移行を進めていることから、市内に看護学部が新設されれば、看護専門学校を直ちに廃止する方針を示しています。このことについては、10月の福祉環境委員会の日赤病院視察の際にも、吉岡院長が明言していました。障害にはならないものと思えます。
もう一つは、長野県立の須坂看護専門学校(定員40人・4年制)です。
「4年制看護専門学校」は卒業時に「大卒と同様の資格」を有する「高度専門士(医療専門課程)」の称号が付与されるそうです。H26年度に3年制から4年制に移行し、今年度末に初の卒業生を送り出すことになります。
長野県須坂看護専門学校の存在と影響は、市側の説明では全く触れられていません。県として県看護大学や県立看護専門学校の今後の在り方をどのように考えているのか、影響はないのか、さらに検証が必要です。
受け皿足りえる可能性は十分にあるということになるのでしょうか。
財政支援する長野市にとっての効果は?
長野市としての二つの看護学部の必要性、支援の必要性については、進学や就職が市外への転出の契機となり15歳から24歳で男女ともに転出超過となっていること、北陸新幹線沿線の中核市・松本市と比べ大学収容率が低く、6割以上の高校生が進学等で長野市を離れる傾向にあることなどから、➊国・県のみでなく本市並びに周辺市町村にとって時代に適応した専門性の高い看護師の輩出が期待できること、➋特色ある高等教育機関の整備によって、高校生の選択肢が増え、地元進学につながることが期待できること、➌地元大学で就学し、地元医療機関で実習を積むことにより、地元医療機関への就職につながることが期待できることから、「本市の施策と合致することから、看護学部の設置は必要であり、設置に対し支援していく」としました。
具体的な支援額
清泉女学院大学には、「補助対象経費の合計額の1/2以内かつ予算の範囲内とし、要望額に応じて交付」。
要望額が補助上限枠内となる要望額9億6,500万円を支援することとし、国交付金1億円程度を見込み、県と市がそれぞれ4億3,250万円を負担するものです。
長野保健医療大学には、「補助対象経費の合計額の2/3以内かつ予算の範囲内で、要望に応じて交付」。校舎建物がリース契約であり、リース分は維持管理費で補助対象外となるものの、時代に見合ったPFI的な建設手法であることを勘案し、過度に支援とならない範囲として「2/3」という割合を算定したようです。???ですが…。
要望額が補助上限枠内となる6億円を支援することとし、県と市がそれぞれ3億円を負担します。
また、市有地の賃貸借について、不動産鑑定により貸付料を算出したうえで、1年間減免するとしています。
加計学園問題の長野版にならないよう、透明性の確保が重要です。
看護学部の新設支援…基本的に「了」とするが課題残る
一点目は、長野県須坂看護専門学校の存在と影響、すなわち、北信地域における新たな看護学部の新設が将来にわたり持続的な経営を担保し得るのか、さらに検証が必要であるということです。
二点目は、学部新設認可の見極めです。
大学側は、市と県の支援決定を踏まえ、来年3月に看護学部設置申請を文科省に行う予定です。設置認可はH30年8月を想定しています。
全国的に看護学部の新設が進んでいる中で、設置認可が順調になされるのか、全国的な状況を見極めることも必要でしょう。
三点目は、経営が行き詰まり、学部廃止に追い込まれた場合のリスク分担の問題です。
会派総会時の私の質問に対し、企画政策部長は「支援にあたり附帯条件をつける。一定期間の継続を規定したい」としました。一定期間は20年間程度との認識を示しました。
支援に係る条件に、支援金の返還についての規定を明記すべきでしょう。
四点目は、新たな大学立地に対しどのように対応できるのかという問題です。
前記したように市の大学整備基金は底をつきます。新たな魅力的な学部新設等に対し、支援できる財政的な見通しがあるのかということです。
市長は「魅力的であれば、その段階で検討することになる」と述べるにとどまっています。私大の行き詰まり情況を考えると、大学立地の可能性は小さいのかもしれませんが、大学整備基金の今後の在り方は検討する必要があるのではないでしょうか。
因みに、清泉女学院大学はH33年4月の大学院設置(定員75人)を検討していますし、来年4月には人間学部に文化学科を新設する予定です。
現在のところ、市に支援要請がないことから、検討外になっているようです。
また、長野日赤病院の建て替えにあたっても、日赤側から支援要請がされており、移転場所の確保と財政支援が、当面する課題となっています。約300億円と見込まれている建設費をどの程度支援していくのか、差し迫った問題となります。
市全体の財政見通しが必要です。
五点目は、学生のまちづくりを本格化する必要があるということです。
新県立大学で約1000人、2大学の看護学部新設で620人、学生が増えることになります。学生がまちづくりの主役の一翼となりえるまちづくりを本格化したいものです。
金沢市の学生のまちづくり推進条例などを視察して来ましたが、参考にしたいものです。
12月議会の焦点の一つに
看護学部新設の支援は12月議会の論点の一つに浮上しています。支援額を盛り込んだ補正予算案の審査は大学立地を所管する総務委員会になるようですが、看護師養成という観点からは福祉環境委員会マターでもあります。
12月議会は一般質問に立ちませんが、解明に向けたアプローチは考えたいと思います。
また、関連して長野赤十字病院の移転問題もあります。このことは別稿でまとめてみたいと思います。