2月に会派で視察した京都府京丹後市の公共交通政策の報告です。
4月の交通政策フォーラムで加藤教授からも紹介された京丹後市です。
京丹後市は、H16年4月に6町(峰山町・大宮町・弥栄町・丹後町・網野町・久美浜町)の合併により誕生した新市で、人口57,198人、面積は501.43㎢。京都府の最北部に位置します。
視察の大きなテーマは、京丹後市における公共交通空白地有償運送=「ささえ合い交通」を中心とした公共交通施策。
市内丹後町で、公共交通空白地有償運送として、アメリカのウーバー社の配車アプリを導入、NPO法人のボランティアドライバーが運転する自家用車により移動手段を確保する取り組みが最大の関心事です。
京丹後市は、ライドシェア特区提案で白タク解禁の動きの震源地となった自治体です。
企画総務部企画政策課公共交通係の野木主任からお話を伺いました。
主任の説明は、「交通空白地有償運送であるささえ合い交通は、問題となっているライドシェアーではなく、法に基づきタクシー業界の合意も得て取り組むく交通空白地域の交通システム。誤解のないようにお願いしたい」との発言から始まりました。
全国から「批判的」に注目されているが故の防波堤?でしょうか…。
野木主任は合併前から公共交通施策一本で取り組んでいる強者です。
まずは京丹後市が取り組む公共交通施策全体のポイントからお話を伺いました。
注目すべき施策が展開されています。事前のチェック不足、自らの視野の狭さを反省しました。
【京丹後市の公共交通施策・その1】として報告です。
➡【参考】京丹後市HP「公共交通」のページ
「200円レール」と「200円バス」
京丹後市の交通軸は、京都丹後鉄道(WILLER TRAINS株式会社が運営する民鉄=通称「丹鉄」)の鉄路と、鉄道駅等を起点とする丹後海陸交通株式会社の路線バス(丹海バス)により形成されています。
過疎化で高齢化と人口減少が進み、公共交通の利用者数が減少の一途をたどる中、「このままでは路線バスが廃止されてしまう」との危機感から抜本的な打開策として打ち出されたのが、「200円レール」と「200円バス」です。
この施策展開で、公共交通が便利になり、市民に喜んでもらえる好循環の輪が広がったと自負します。
交通事業との折衝ではかなりのタフさを要求されたと思います。「あっぱれ」です。
➡「200円バス物語」…京丹後市サイトからYouTubeへ 200円バス導入の背景と意義がよくまとめられています。
地域鉄道=「高齢者利用3倍増」を設定し、最高1,530円を上限200円に
地域鉄道である京都丹後鉄道の抜本的な利用促進策が「高齢者200円レール」です。
65歳以上の市民が対象で、往復400円の往復切符商品で鉄道を楽しめるというもの。最初の乗車駅が京丹後市内の駅に限定されていますが、最大運賃1580円(久美浜⇒福知山)が片道換算で200円になります。
別途発行されているパンフレットから切符(乗車駅・降車駅・利用日を記入)を作成し、65歳以上であることが確認できる免許証などの提示で利用できる仕組みになっています。
H23年から始まった取り組みは、当初の「高齢者利用3倍増」を達成し、現在は3.5倍の利用増になっているとのこと。市は高齢者利用2万人分の1,000万円を負担しますが、「生きた公費負担に改善された」とします。高齢者の外出を支援し歩いて元気を実現する施策として展開されています。
「高齢者利用3倍増」の目標設定は損益分岐点だそうです。
京都丹後鉄道は、国鉄から京都府や兵庫県が出資する第三セクターに移行した「北近畿タンゴ鉄道」が鉄道事業再構築事業の認定を受け、上下分離し、2015年4月からWILLER TRAINS株式会社が鉄道運行事業社(第二種)として運営する民鉄です。
WILLER TRAINSは、高速乗合バス(元ツアーバス運行大手)を運行するWILLER EXPRESS(ウィラーエクスプレス)グループを傘下に持つWILLER(ウィラー)の完全子会社です。
ウィラーが鉄道にまで進出していることには驚きでした。
過疎地域で定額運賃を導入「上限200円バス」
H17年に大規模な市民アンケートを実施し、200円の運賃要望が最多であったことから、H18年に実証運行を開始しH19年には市内全域に拡大し本格運行に移行し、さらに路線が拡大されています。
区間運賃最大の1,150円が200円になるもので、年齢制限はありません。上限が大人200円、小人100円の運賃設定です。
輸送人員は年間で2倍超に増え、運賃収入も年間30%増になっているとのこと、行政負担も1,800万円減少しているそうです。
200円の上限設定は、一人当たり平均運賃385円を約半分に設定したもので、利用者数を倍増することで採算がとれるようにしたとされます。
「700円×2人」ではなく、「7人×200円」にしようとの挑戦が実ったものです。
長野市では、70歳以上の高齢者を対象とした路線バス利用運賃上限200円の「お出かけパスポート」事業を展開していますが、これを全市的に年齢制限なしで実施していることになります。
中山間地域における公共交通ネットワークの再構築を考えるとき、上限運賃制の導入は避けて通れないと考えます。
パブコメ中の「長野市地域公共交通網形成計画(案)」では、路線バスの上限運賃制の導入が検討課題として打ち出されていますが、交通政策課によれば「まだまだ調査・研究の域を超えない課題」とされています。
交通事業者を交え真剣に検討すべき課題でしょう。
乗合タクシー…人だけでなくモノとサービスを運ぶ新たな輸送サービス
民間タクシー撤退後の移動手段の確保…EV乗合タクシーの導入
民間タクシーが撤退したタクシー空白地で、移動手段の確保が喫緊の課題となる網野町と久美浜町で導入されたのが「地方創生型・EV乗合タクシー」です。
日産の電気自動車「リーフ」を使用するもので、ドアー・ツー・ドアのデマンド乗合タクシーです。
この乗合タクシーの最大のポイントは、モノ(小荷物)とサービス(買い物代行等)の新たな輸送サービスの展開を図っていることです。貨客混載の乗合タクシーということになります。
丹後海陸交通㈱が受託する事業で、H27年10月からスタートしています。通称「丹タク」と呼ばれています。
市は、日産リーフ(乗客定員4名)2台を購入し(車両購入費約800万円で国と市が補助)、網野町と久美浜町地域に配置、また運行経費の補助金として年間約800万円を予算計上しているとのことです。
タクシーは、午前8時30分から午後5時30分までの年中無休の予約制です。
運賃は一人500円(小学生は半額)で、3人目・4人目は100円引きとなります。
網野町・久美浜町の区域外で降車する場合は、250円の別途料金となります。
買い物代行など貨客混載の新たなサービス展開
規制緩和により、モノとサービスを運ぶ新たな輸送サービスが可能になっています。
買い物代行サービス(15分ごとに400円)、一人暮らしの後継社宅を訪問し見守り・安否確認するサービス(見積もり料金)、図書館の本の借り受け・返却を代行するサービス(15分ごとに400円)、診察券を預かり病院予約を代行するサービス(15分ごとに400円)、小荷物輸送サービス(15分ごとに400円)などが実現しました。
➡この取り組みが紹介された記事を引用します。
★タクシー撤退の街を快走する、日産リーフの乗合タクシー【ダイヤモンド・オンライン】
このEVタクシーは年中無休で8時30分~17時30分まで運行し、旧網野町と旧久美浜町の全域で乗車可能。電話予約に応じて配車をするフルデマンド方式で、降車は京丹後市の全域および、JR山陰線の特急停車駅のある兵庫県豊岡市の市街地で可能だ。
運賃は1人につき500円(小学生半額)だが、旧町域の境を越えるたびに250円が加算される。つまり、たとえば旧久美浜町域内で利用する限りは500円だが、JR豊岡駅まで行く場合には250円が加算されて750円となる。また同様に、旧網野町域からJR豊岡駅まで行くなら、さらに250円が加算されて1000円となる。もっとも、網野駅から豊岡駅までの列車普通運賃も640円で、ほぼ毎時1本しか走らないから、タクシーの利便性を考えれば競争力は充分にある。
そうした地域住民向けフルデマンド運用に加えて、網野・久美浜両駅に観光列車が到着した際の客待ちも同一の車両で行っている。網野駅に1日3本、久美浜駅に同2本、京阪神方面からの観光客を乗せてやって来る優等列車の到着に合わせて、駅前で10分間ほど待機するようにしているのだ。どちらの駅からも路線バスは出ているが、列車から接続する便がないことも多く、ふと思い立って下車した人にはこのEV乗合タクシーが貴重な足となる。
ただ、それらすべてを旧網野町/旧久美浜町ともに1台だけの日産リーフでこなすとなると、電話をしたら先に予約が入っていた、予約しようと思ったら駅待ちの時間帯と重なって使えなかった、というような事態にはならないのだろうか?取材時に尋ねてみると、「このEVタクシーは乗合となっていますので、同一時間帯に同じ方面への予約が入った場合には擦り合わせをして、相乗りをお願いしております」(丹後海陸交通・業務課長 安達誠氏)とのこと。なるほど、予約制の利便性を逆手にとって柔軟な調整を可能にしているわけだ。
さらに、このEV乗合タクシーの役割はそれだけではない。国土交通省による規制緩和を受けて、「ヒトの輸送サービス」のみならず、「モノ+サービスの新たな輸送サービス」をも担うことになったのだ。具体的には、「買い物代行」「図書館代行」「病院予約代行」「小荷物輸送サービス」がそれぞれ15分につき400円(ただし旧網野町/久美浜町域のみ)で利用可能で、ほかに「見守り代行」(こちらは料金別途見積もり)も設定されている。
せっかく補助金で電気自動車(EV)を導入したのだから、乗客に加えてモノを運んだり、運転手がついでにサービスを代行したりして、最大限に有効に活用しようという発想だ。なお京丹後市のこのEVタクシーは、国交省の規制緩和が実行に移された全国初の事例である。
➡国交省の規制緩和に関する動きの記事です。
★国交省、条件付きで貨客混載認める通達 京丹後市でEV乗合タクシー活用の貨客混載スター【Logistics Today物流ニュースサイト】
国交省が出した通達は「少量の貨物の運送」について、運行車両への乗車を希望する旅客と乗車中の旅客に対し、「貨物の大きさや数量で乗車スペースが損なわれない範囲までの物量」で、「トラック事業の妨げとならないもの」を対象に、「貨客混載」を認めるもの。
路線不定期運行、区域運行の営業区域内で、旅客の乗車中にとどまらず、運行予約のない場合でも、配車予定時刻に遅れるなどの旅客利便が阻害されない範囲で認めている。
また、乗合タクシー事業による買い物支援業務についても、「路線バス事業者、タクシー事業者が存在しない交通空白地域内」で、タクシーが行う救援事業と同程度の水準・範囲であれば条件付きで「買い物支援などの役務提供は問題ない」との判断を示した。
★京丹後市、乗合タクシーで貨物輸送 地域再生計画の一環【物流ニッポン】
同市は14年、国の地域活性化モデルケースとして「グリーン・ウエルネス新公共交通体系の構築とそれを核とした環境調和・健康未来創造スマートコミュニティの実現」を近運局に提案。採択され翌年には改正地域再生法に基づく地域再生計画の第1号として認定を受けた。更に、規制緩和も視野に、地域の活性化につながり、人と環境に優しく利便性の高い新たな輸送サービスの実現に向け、近運局と議論を重ねてきた。4月に国から規制緩和の通達が出されたことを受け、いち早く準備に着手。EV乗合タクシーの運行開始にこぎ着けた。
中山氏(市長)は「全国の先陣を切る形で、人だけでなくモノとサービスを運ぶ新たな輸送が明日から開始される。新たな公共交通体系の構築に向けた大きな一歩を、地域の皆さんと祝いたい」と述べた。
貨客混載の取り組みとして、長野市内でも、長電バスとヤマト運輸が提携し、路線バスで小荷物を運ぶサービスが具体化します。
京丹後市のEV乗合タクシーの取り組みとはサービスの性格が異なりますが、同市の取り組み、成果等を検証し、長野市においても中山間地域に暮らす高齢者・障がい者への支援策として検討を具体化したい課題です。
「ささえ合い交通」は続編で
公共交通空白地有償運送としてNPO法人を作り自家用車を活用する「ささえ合い交通」については【京丹後市の公共交通施策・その2】として、続編とします。
➡170605「京丹後市の公共交通施策【その2】…ウーバー社アプリを活用する自家用車有償運送」へ