3月議会は週明け21日が最終日です。
今議会での質問について、答弁を含めた報告がなかなか出来ずに今に至りました。
まずは、「庁舎・芸術館に686箇所のひび割れ 第三者の専門機関による検証を」をお届けします。
東洋ゴムの免震ゴム偽装により、免震装置の全面交換工事を余儀なくされた新庁舎・芸術館。
この免震ゴム交換工事により、庁舎や芸術館の外壁等に686箇所でひび(クラック)が発生し、ひびの部分に樹脂を注入し埋める補修工事が行われています。
3月議会前に、毎日新聞が「免震装置交換後に数百か所のひび、異常」(2/18付)との見出しで報じた内容は非常に衝撃でした。
➡【関連記事】170219『免震装置交換で「ひび」数百カ所…異常』報道の波紋と議会の責任
免震ゴムは40年から60年のスパンで交換することを前提としています。本来、免震ゴム交換により、建物にひずみが生じクラックが発生することは想定されていません。
防災拠点となる公共施設です。原因を厳正に究明することを通して、市民の不安、疑念を払拭し、市庁舎、芸術館の安全・安心宣言につなげたい、そういう想いで、市の姿勢を質しました。
686箇所のひび割れ、総延長1,139mの発生
市では調査の結果、幅0.3ミリのものが12か所、0.2ミリ以上0.3ミリ未満のものが674か所、計686箇所でひび割れ(専門的にはヘアークラックと言われるもの)が発生しているとしました。
また、庁舎と芸術館の間にあるサンクンガーデンの地下1階では、アルミサッシの枠のたわみが生じ、1階部分では柱にクラックが発生、さらに扉の渋みなど建具にも不具合が生じているとしています。
総務委員会では、0.3mmのひびの長さは約25m、0.2mm以上0.3mm未満が1,114mで、ひび割れの総延長が1,139mにも及ぶことが報告されました。
市は、「ひびはコンクリートの乾燥収縮によるもので、免震ゴムの交換工事が乾燥収縮を助長した可能性は否定できない」、しかし「建物の安全構造上、即問題となるものではない」と説明しています。
「異常な事態ではないのか」…認識を問う
私は、今回のひび割れの発生は不正常な事態であると受け止めています。建物の安全性が揺らいでいるのではないかとの疑念は払しょくできません。
まず、市側に対し、コンクリートの乾燥収縮による通常のクラック発生の範囲内であって、当初から予見されたものなのか、それとも、不正常な事態か、異常な事態として認識しているのかを質しました。
市側は、「一般的にコンクリートの構造物において、コンクリートの乾燥収縮は避けられない現象」であり、「第一庁舎、芸術館の外装は、コンクリートの打ち放しを主な仕上げとしており、施設の特性上、巨大な壁面が多いことから、コンクリートの乾燥収縮に伴うヘアークラックがより発生しやすい建物であると考えられ」と述べた上で、「免震ゴム交換のために建物のジャッキアップ、ダウンを繰り返したことにより、乾燥収縮に伴うヘアークラックの発生が助長されたことが要因の一つとしてあるのではないか」とし、「免震ゴムの交換工事との因果関係の調査を現在施工者などに求めている。現在までのところ、不正常な事態、異常な事態とは考えてはいない」と答弁しました。
「現在までのところ…」という条件付きの答弁です。
免震ゴム交換工事そのものに問題はなかったのか
免震ゴムの交換工事は、必要なジャッキ1,000基を準備できず、半分の500基のジャッキで建物を持ち上げて行われた工事でした。極端なイメージとはなりますが、建物全体が弓なりになってしまう500基のジャッキアップの工事方法が適正だったのか。交換工事において発生するであろう不具合について事前に予告されていたのかを問いました。
独自に建築構造学、免震構造を専門としている福岡大学の高山峯夫教授に問い合わせたところ、高山教授は、一般論と断りながらも、「長野市の庁舎、芸術館というのは、両側に大きな建物、庁舎とホールがあって、それを小ホールの部分、小さな構造体でつなぐような形となっている。もし両側の建物が異なった鉛直方向(水平面に対して垂直なこと)の変形などがあれば、その影響は小ホール部分に現れる可能性がある、こうした点に配慮しながら交換作業を進める必要がある」と指摘しています。
こうしたことが、免震ゴムの交換工事を行うにあたって、しっかり留意されていたのかという点も併せて質しました。
総務部長は、約500基のジャッキを使用した工事方法については、「当初の建設設計にかかわった構造解析の専門の事務所が様々なシミュレーションの中から最適な方法を選定したもの」であり、「建築構造の専門家による構造解析と構造計算によって安全が確認された方法」であるとしました。
認定の無い不正免震ゴムを装着したままという状況を打開するため、安全が確認され、早い時期から交換のできる方法を選択したものとしました。
また、「部分的にジャッキアップをするための構造解析は相当高い技術が要求される」としたうえで、「構造解析の結果、ジャッキアップ時に、各構造部材に過度の力が生じないことを確認しているので、構造上の不具合は生じないものと認識していた」と強調しました。
しかしながら、「施工前の段階では、クラックの発生する可能性についての話までは特に出ていなかった」とし、クラックなどの不具合の発生の予告はなかったとしました。通常起こり得る範囲内の不具合ということなのなのでしょうか。
釈然としません。
第三者の専門機関による原因究明、調査・検証を
市は「0.3ミリ程度のクラックは建物の構造安全上、即問題となるものではない」としつつ、設計者や工事施行者などの関係者から、発生原因の究明、因果関係の究明について調査、検討を始めてはいます。
つまり、槙設計事務所および設計者につながる建物構造専門家の意見ということです。工事関係者で自らの工事で起きた不具合の原因究明が公正に行われる確証はありません。
まずは、建物構造の専門家、設計者や工事施工者などの関係者の意見を聴くことは必要でしょう。しかし、その上で、検証の客観性・信頼性をしっかりと担保するために、第三者機関の専門家による検証が必要だと強く要請しました。
総務部長…「市民に不安あれば第三者の意見も」
この質問に対し総務部長は、「建築構造の専門家からは、コンクリートの乾燥収縮によるものとの見解」が示され、一方、「工事の施工者からは、免震ゴム交換のために、建物のジャッキアップ、ダウンを繰り返したことにより、乾燥収縮に伴うクラックの発生が助長された可能性が否定できない」との見解が示されているとし、「第一庁舎、芸術館の構造を熟知した専門家の知見に基づく見解をいただいているので、これが原因と考えている」との認識を示しました。
この答弁のポイントは、建築構造の専門家と工事施工者の認識が異なる点です。クラックの発生原因について、免震ゴム交換工事に起因性があるとする工事施工者の見解に注目しておく必要があります。
*なお、この点に関して、「日経アーキテクチュア」が『「免震ゴム交換が原因」の報道に構造家が反論』という特集記事を掲載しました(3/15付)。庁舎・芸術館の構造設計者である梅沢建築構造研究所の梅沢良三代表に取材しています。私自身も「日経アーキテクチュア」の記者から取材を受けました。内容は別途掲載したいと思います。
その上で、「第三者による検証については、今のところ考えていないが、建具等の不具合などについて、免震ゴム交換工事との因果関係の調査を現在施工者等に求めていることから、その調査結果を待ちたい」と答弁しました。
この答弁に納得できず、再質問したところ、「市民の皆さんに不安が残らないように対応することが一番大切なこと。一連の経過、対応、考え方をホームページなどでお知らせをしていくが、もし市民の皆さんに不安の声が多くある場合には、第三者の意見を聴くことも検討したい」と答弁しました。
「今のところ考えいない」から、「市民に不安があれば」と条件付きですが、第三者による検証の可能性を滲ませた点は一歩前進でしょうか。
でも、地域で市民の声を聴く限り、市民の皆さんの不安は払しょくできていません。
庁舎・芸術館の安心安全宣言…調査完了段階で市HPで公開
私は、第三者による専門的な検証を行い、客観的に安全性を確認したうえで、「市庁舎、芸術館の安全・安心宣言」を発していくこと、また、全国に先駆けて実施をされた長野市庁舎の免震ゴム交換工事の教訓を明らかにし、警鐘を鳴らしていくことを強く提唱しました。
これに対し総務部長は「市庁舎、芸術館の安全・安心宣言を発すること、免震ゴムの交換工事の教訓を明らかに警鐘を鳴らしていくということについては、諸般の調査が完了して報告できる状況になれば、市民の不安を取り除くために、市ホームページ上でお知らせする」と述べるにとどまり、免震ゴム交換工事の教訓については、「教訓とまでは至らないかと思うが、今後の関係者の参考に資することになればと思われるので、今回の一連の経過、対応について、市ホームページ上で掲載することで情報を全国に発信をしていく」と述べました。
免震ゴム交換工事の設計、施工における瑕疵担保責任について
クラック発生により10年以上にわたる経過観察が必要になると思われます。免震ゴム交換工事の設計、施工における瑕疵担保責任は誰が負うのかとの質問には、「免震ゴム交換工事の原因者であります東洋ゴム工業株式会社が自費での工事実施を申し出ており、今後、経過観察の中で、免震ゴムの交換と相当因果関係が認められる事象が発生した場合には、原因者等と締結した合意書などに基づいて、瑕疵の修補の請求を行うなど、適切に対応していく」としました。
今後の課題
建物構造に関し、専門的な知見があるわけではありませんが、新築した建物で基礎部分の大幅な改修工事により建物にクラックが発生した事態です。素人考えとはいえ、基礎工事に問題があったのではないかと考えるのは自然な成り行きです。
福岡大学・高山教授の庁舎と芸術館のつなぎ目(地下小ホールとサンクンガーデン部分)にかかるであろう負荷に注目すべき」との指摘を重く受け止める必要があると考えます。
このつなぎ目部分でコンクリートの剥離・破損が生じているとの報道(毎日新聞3/17付)に対し、市は「破損は構造を支える壁に発生したものではなく、建物構造上の問題はない」(3/17付議員あてFAX情報)との見解を示しました。
このFAX情報によれば、地下免震層の配管工事についても、毎日新聞の取材が行われているとのことです。免震装置と50センチ以上離れていなければならない付属施設(今回は配管)が、この基準を満たしていないという問題のようです。
市の「建物構造の安全性は確保されている」との判断を信じたい…と思います。
しかし、工事に直接関わっている槇設計事務所や梅沢建築構造研究所の専門家の意見では説得力にかけるといわざるを得ません。
100年持たせようとする公共施設です。
第三者による厳正な検証を引き続き求めていきたいと考えます。
当面、建具等に生じている不具合の調査結果を含め、トータルな調査報告書の提示を待ちたいと思います。