7月8日、川中島在住の車いす利用の障がい者、堀内宗喜さんの路線バス利用について、当事者である堀内さん、アルピコ交通長野支社、市障害福祉課の3者が立ち会い現地で実地調査を行い、今後の方向性について、障がい当事者の堀内さんの理解を得つつ合意しました。
6月8日に報告した「車いす使用の障がい者の路線バス利用で実地調査【その1】」の続報です。参院選最終盤といった状況もあり、今頃の報告となりました。
【訂正】この記事をアップ後、堀内さんから訂正のご指摘をいただきました。「ハーモニー桃の郷」の漢字が違っていたこと(かなり情けないミスです)、JRの駅利用や福祉タクシーの利用について誤認があったこと、また堀内さんの近況等について、それぞれ訂正・修正させていただきました。ご指摘ありがとうございます。[7月13日PM8:30]
実地調査の状況
(1)JR川中島駅ロータリーで堀内さんと合流、路線バスに乗車
(2)アルピコ交通が提案する「しみづや呉服店」駐車場前
(3)川中島駅入口バス停で
(4)ハーモニー桃の郷で意見交換
事故誘発の危険と運転手の心理的負担の軽減を図るため代替案を提示
堀内さんは、自宅から900mの場所にある川中島駅入口バス停(篠ノ井北原線)の利用を希望していますが、一方、バス運転手からは、車道幅員が5.5mでバスベイがないため、車両の往来が困難でバス停車時に見通しが悪いため、追突や追い越し時の衝突事故を誘発する恐れが強く、事故や利用者の安全確保における乗務員の心理的負担が増大しているとの理由から、より安全を確保するため「代替案」を提案するに至ったものです。
アルピコ交通側は、川中島駅入口バス停周辺で候補地を検討したが、バス路線となっている市道の幅員が狭く、より安全に停車できる場所がなかったとし、現行バス停から30mほど長野側にある民有地「しみづや呉服店」さんの駐車場を停車場所として利用する案が提示されました。
前回の調査時に私から提案していた場所ですが、信号のある交差点に隣接する場所であることから、交差点から5m以内での停車の可否(道路交通法)、本来のバス停と異なる場所で乗降することの可否(道路運送法)について、それぞれ県警及び国土交通省長野運輸支局との協議を経て、理解が得られたこと。また、しみづや呉服店さんのご理解も得ることができたことから、具体的な提案となったものです。
【160608ブログより】調査のあと、一つの代替策として、川中島駅入口バス停の手前・交差点により近い場所ですが、民地でバスがある程度乗り入れることができそうな場所があることから、Hさん、路線バス、バス利用者の安全の確保が図ることができるのでないか、地権者の理解を求めることをはじめ、物理的にバスの乗り入れが可能か、そのうえで往来する自家用車等が対面通行できる道路幅を確保できるか、検討するよう提案しました。
堀内さんの意見…駅入口バス停がなぜ使用できないのか。高齢者対応と何が違うのか
堀内さん自身にとってみると、「川中島駅入口バス停」を利用できないのは「乗車拒否にあたる」とし、「追突事故等の誘発の危険や運転手の心理的負担の軽減は、利用できない理由としては希薄である」との主張です。
電動車いすでの乗降時間はそれぞれ2分位で、ある意味極めてスムーズです。他の利用者の乗降時間等を考慮すると実際の停車時間は3分+αで、例えば、車内での「くるるカード」のチャージ等でも時間がかかっていることを考えると、「高齢者のバス利用と違いはない」ということになります。
また、心理的負担を感じるというのは「障がい者」に対する特別視につながるのではないかとの問題提起も含まれています。
一方で、城山公園に出かけた際に、突然の雨で、バス停に立ち寄ったところ、予約なしでアルピコ交通の路線バスに乗車できたことも報告され、運転手の皆さんの臨機応変な対応に感謝していると述べる場面も。
さらに、スロープの出し入れは車種によって仕様が異なることから、それぞれ「コツ」が必要なようで、コツをまとめたマニュアルを作るなど運転手の車いす利用のスキルアップが必要なことも指摘されました。
障害者差別解消法…障がいのあるなしを問わず
4月から施行された障害者差別解消法は、障がいのある人もない人も、互いにその人らしさを認め合いながら、ともに生きる社会をつくることを目指しています。
立法趣旨から考えると、高齢者と障がい者に、あるいは小さな子どもに、公共交通利用・バス利用にあたっての差異があってはならないということになります。 堀内さんが指摘していることは、極めて重要なことです。
一方で、バス事業者、運転手としては、高齢者の車内転倒事故等には特段の配慮をし安全運行に努めている現実があります。
高齢者等のバス利用の増大により、運行の安全確保は責務であると同時に、責務であるが故に心理的負担が増しているという現実的側面も見落としてはならないと思います。
運転手が高齢者や障がい者の公共交通利用に心理的負担を感じなくて済むような懐の深い社会環境づくりが問われているということでしょう。
理想と現実の間には深いギャップがありますが、事業者も市民も理想を追い求め、一つ一つ改善していく、クリヤーしていく努力が必要であることを痛感します。
バス事業者にとっては、障害者差別解消法を踏まえ、車いす障がい者の路線バス利用にいかに利便性と安全性を確保していくのか、真剣に考え直すきっかけとになったことは間違いありません。
車いす乗降可能なバス停マップの作製も
アルピコ交通では、現在の路線で、バスベイ等があり車いす乗降の可能なバス停マップ作りに着手していることが示されました。
車いすで利用できないバス停があることを洗い出すことにもなるバス停マップとなります。
長電バスやJR、しなの鉄道、長野電鉄、タクシーなど公共交通機関、公共交通ネットワーク全体の中で「車いす利用マップ」を検討していくことが重要です。
例えば、市が作成した「バスガイドマップ」に車いす利用の可否を落とし込むような検討が必要になります。障がい者用トイレ・多目的トイレの配置もわかるとより良いものになるのではと考えます。 今回を契機に、しっかりと取り組んでいくことが問われます。
「堀内氏の問題提起が事業者を動かした。今後、ステップにして活かしていくことが重要」…相談員の助言
現場での実施調査を終え、障害者支援施設「ハーモニー桃の郷」で意見交換。
これまでに記してきた内容の意見交換が行われ、障害福祉課から「引き続き協議」していく方向性が提案されたことに対し、今回の案件で最初から検討メンバーとして参加されている相談員、仲里謙一さん(長野市差別解消サポートセンター所属)から、早期の合意を図る立場で、「堀内氏の問題提起によって事業者側が代替案を含め真剣に検討することとなった点は、堀内氏の功績である。事業者側の検討努力も多とし、代替案について理解願えないか、他の障がい者の皆さんの公共交通の利用を促進する観点からも、事業者側が今後どう活かしていくかが課題。一つのステップにしていくことが重要ではないか」との、いわば調停案が示されました。
堀内さんもこの提案に理解を示し、「しみづや呉服店」の駐車場を利用して対応することになりました。
事業者に対する宿題を明確にしながら「折り合いをつける」調停ともいえます。
今後、「しみづや呉服店」駐車場での降車に関する堀内さん自身の利用状況や、他のバス利用者の乗降、バス停利用の状況等を踏まえ、検証していくことが大切です。
障害者差別解消法のポイントである「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」について、引き続きチェックし、改善に努めたいと思います。
障がい者が街に出かけられる社会
実は、6月7日に当事者抜きで車いすのバス停利用の実態調査を行ったことから、当事者の意見、生の声をしっかり聞いておきたいとの想いから、6月13日に堀内さん自身と2時間余り意見交換しました。
堀内さんは、「駅入口バス停の利用の問題は僕にとっては2割の問題。8割は家に引きこもりがちな障がい者が普通に公共交通を利用して街に出かけられること、障がい者にとってのバリアー、ハードルをみんなで考えてなくしていきたい、そのための問題提起」と語ります。
「車いす利用可能なバス停マップはすぐにできることではないか」とも指摘しました。
バス停利用の問題では、当初段階で、駅入口バス停が危険であることの理由が明確でなかったこと、代替案が自宅から遠く離れている県道沿いバス停など絞り込まれていなかったこと、いろいろ検討するといいながら事業者も行政も音沙汰がないことなどに不満と不信が募っていることを率直に語ってもらいました。
堀内さんとの意見交換は、行政にも事業者にも伝え、課題を明らかにしながらそれぞれ連携して対応するよう求めてきました。
私は、今回の件で、アルピコ交通が後ろ向きではなく、前向きに検討・対応してきていると受け止めていますが、バス事業者側の初期段階における説明責任の不十分性(曖昧さ)は、反省すべき課題であると考えます。
また、路線バス運行の安全性の確保について、事業者の都合だけでなく利用者の安全確保に必要な対応・措置について、わかりやすく納得してもらえるアプローチが大切であることも反省課題といえます。
堀内さんは、22歳の時のバイク事故で「頸髄損傷」により重度の身体障がい者に。リハビリを続け、電動車いすで日常生活を送っています。
彼の名刺には「美しく生きる 私の人生の指針です」と記されています。
彼のFaceBookでは、公共交通機関を利用してのイベント参加が精力的に綴られています。
「車いすでも街に出かけられるんだよ」との熱いメッセージが込められています。
HPも開設されています。堀内宗喜さんのページへ。
この時には、私がまとめたブログの感想をはじめ、「調査時の乗降で5分はかからない、2~3分位であること。車内の椅子の跳ね上げは事前に行われていること。障がい者が蚊帳の外になっていること」などの問題点を指摘いただくとともに、福祉タクシーの利用は夜間になると対応するタクシー会社が激減してしまうこと、JRの駅利用は午後5時半までで利用時間帯が制限されていること、公共交通機関の障がい者利用割引、JRや長野電鉄など鉄道機関の利用の制限、長電バスの車いす障がい者への対応問題など、多岐にわたって意見交換することができました。指摘のあった課題について改善に努めたいと思います。
いつでもどこでも誰でも利用できる公共交通へ
今回の案件はこれで終わりでは無論ありません。
障がい当事者の声にしっかり向き合うこと、障がい者・高齢者にとって使いやすい公共交通のあり方、バリアフリーといいながら、なかなか進んでいないバリアフリー社会、ユニバーサル社会へ如何に改革していくのか、改めて、その重要性を認識することになりました。私を含めてです。
アルピコ交通をはじめとする交通事業者が、障害者基本法や障害者差別解消法を踏まえ、障がい者や高齢者の声にしっかり向き合い、自ら課題解消に向けた取り組みを促進していくことも重要です。
これからが大事であることを肝に銘じ、今後に臨みたいと思います。