1月19日から21日、市議会の「公共施設のあり方調査研究特別委員会」で、さいたま市、静岡県焼津市、大阪府豊中市を視察してきました。
公共施設の見直しは、すべての自治体にとって避けて通れない最重要課題の一つとなっています。
それぞれ特徴のある取り組みが進められており、長野市が進める公共施設マネジメント指針と指針に基づく公共施設再配置・長寿命化計画の策定に向け、大変有意義でした。
ポイントをそれぞれ報告します。
まずは、19日の「さいたま市編」です。
でも、旗開きや新年会の合間を縫っての取り急ぎのアップです。随時、読み返したうえで補強していきますのであしからず…。
さいたま市
埼玉県の県庁所在地で政令指定都市。人口122万人、面積217.43㎢、人口密度5684人/㎢。10の行政区を設置していて、浦和区にある市役所本庁で都市戦略部行財政改革推進部公共施設マネジメント推進担当の野口主幹から説明を受ける。
次の焼津市もそうでしたが、説明していただく担当職員の皆さんが手馴れていると感じる。いろんな自治体の講師に呼ばれている”ツワモノ”の面々だ。
さいたま市の視察課題は、公共施設マネジメント計画・第1次アクションプランの概要と課題、ワークショップによる市民の合意形成に向けた取り組み。
さいたま市の公共施設一人当たり床面積は2.2㎢…「ワクワクする公共施設に」
さいたま市の公共施設の市民一人当たりの床面積は2.2㎢で、全国平均3.2㎢を大きく下回っていて、公共施設マネジメントに当たっての特異的な条件となっている。
長野市は、全国平均を上回る4.0㎢である。
したがって、施設の長寿命化をはかり建て替え費用を減らす、施設更新に当たっては複合化・集約化を基本にする方針が基本となっている。
公共施設マネジメントとは?の問いに「公共施設の老朽化の問題を切り抜けるための取り組み」を答えとし、「公共施設=ハコモノ・インフラ」を「マネジメント=やりくりする、何とかする」と表現している。
担当者のまとめで、公共施設の老朽化に対応するには膨大な財政負担がかかるため、安心・安全な公共施設のしっかり引き継ぐため、「知恵と工夫」「市民との協働」「民間との連携」をキーワードに、「単に廃止・縮小を推進するのではなく、機能をできるだけ維持しながらワクワクする公共施設に」していくのが公共施設マネジメントであると締めくくった。
「機能を維持しワクワクする公共施設に」という視点はプラス思考の視点として堅持したい姿勢であると考える。
長野市の場合、条件は異なるが、「20年間で20%縮減」というマネジメント指針・総量削減が強く押し出され、統廃合による機能の維持をどう図るか、市民サービスをどう維持するかという視点が欠落気味であることを考えると全庁的な発想の転換が問われていると痛感する。
さいたま市公共施設マネジメント計画(H24年6月策定)…39年計画
H24年からH62年度までの39年間計画で、市が保有間は借り上げている全施設(ハコモノ施設28分野・インフラ施設9分野・土地1分野)を対象とする。土地も含めている点が特徴。
➡さいたま市公共施設マネジメント計画(パンフレット)
改修・更新にかかる将来コストが、H23年度予算における約128億円に対して、今後40年間(H23~62年度)に毎年平均約283億円(約2.2倍)が必要との試算に基づき、マネジメントの全体目標を規定する。
ハコモノ3原則
◆新規施設整備は原則として行わない(総量規制の範囲内で行う)
◆施設の更新(建替)は複合施設とする
◆施設総量(総床面積)を縮減する(この計画の段階では40年間で15%程度の縮減とする)
インフラ3原則
◆現状の投資額(一般財源)を維持する
◆ライフサイクルコスト(LCC)を縮減する
◆効率的に新たなニーズに対応する
第1次アクションプラン(H26年3月策定)…7年計画
H26~H32年度までの7年間計画で、公共施設の改修・更新費用を現状の2.2倍から1.1倍までに圧縮することを基本に、施設分野別方針に基づき、個々の施設について、更新時の方向性(例えば複合化)、配置の考え方(統合・整理の検討条件)、主な機能の考え方をまとめ、工程表を位置づけるもの。公共施設の再配置計画に相当する。
第2次以降は、概ね10年ごとに計画の見直しを行うとする。
この計画段階で、総量縮減目標について、予防保全への転換により20年間の長寿命化を推進することとし、60年間で15%縮減にハコモノ原則を見直す。
➡さいたま市公共施設マネジメント計画第1次アクションプラン(パンフレット)
◆複合化・集約化を基本とするマネジメント
さいたま市の公共施設のマネジメントは「複合化・集約化」を基本とする。例えば、小学校で余裕教室を活用した放課後児童クラブの整備、調理実習室と家庭科室の連結による公民館との複合化、ディサービスセンターとの複合化がに取り組まれている。
◆ハコモノ施設の長寿命化と保全サイクル
計画的な修繕・回収により、もともと60年間で建て替えの時期を迎える施設を80年以上使いきる長寿命化目標のもとに、築20年目で機能回復のための中規模改修、築40年目で機能回復・機能向上のための大規模改修、築60年目に機能回復による長寿命化修繕をおこない、築80年で建て替えるといった保全サイクルを想定する。
◆施設ごとに上限の面積を設定
例えば、コミュニティセンターは、一つの区に2施設以内とし、1施設あたりの規模を2500㎡に設定するとか、公民館は地区自治会連合会のエリアごとに1施設を原則とし、規模は拠点公民館は900㎡、地区公民館は750㎡を前提に検討といった具合。
また、放課後児童クラブは、将来の児童数の動向を踏まえ、アクションプランの進行に合わせ1期末にマイナス0.2%、2期末にマイナス0.8%という縮減目標を設定。体育館は15%削減を設定する。
基準面積の考え方は面白いが、基準の運用が難しいのではと思われる。
公共施設マネジメントシステムの活用と施設整備の事前協議制度
財政と一体化したシステムの構築・運用を目指している。
ハコモノ施設の整備に関して、構想・計画の段階から所管局と都市戦略本部行財政改革推進部とで、施設整備のチェックシートによる事前協議を行い、総合的な検証を行いながら整備内容の最適化を図る制度を導入している。
また、PFI活用指針を、PPPを含めた指針に改定し、PFI等の導入の検討を「公共施設整備事前協議制度」を位置づけている。
公共施設のマネジメントを庁内全体で行うシステムとして確立されているもので、行財政改革推進部が中核となって施設の所管課と一体で検討を進める庁内体制である。
例えば、維持改修による修繕・改修工事について、行財政改革推進部が、所管課による施設の劣化度・危険度・法的要求・機能低下等のチェックシートにより、優先順位マトリックスを用いて、あらかじめ全庁的に優先順位付けし、財政課の査定を経て、全体的な予算を確保し事業化するといったものになるようだ。
公共施設マネジメント基金の創設
計画的な補選・更新への中長期的な財源の確保のために、7年間をサイクルとしてH26年度から27億円を積み立てている。
H25年度当初予算での施設保全・更新費を基準とし、H28~33の超過額を約191億円と試算し、H26年度からH32年度までの7年間で割りかえして単年度の積立額を算出。超過額に対応するため、毎年基金を積み立て、必要に応じて取り崩し、7年間でプラスマイナスゼロとする仕組みである。
基金造成にあたり、個々の施設の中長期的な維持改修・更新計画の積み上げにより、財源の確保の見通しを立てている点が特徴。
毎年27億円の積み立て金をどのように確保しているのか、詳しく調査する必要があるが、さすがに政令指定都市の財政措置といえよう。
長野市でも基金の創設について検討が行われているとされるが、担当課の中長期的な施設の維持改修・更新方針と財政的な視点が不可欠となろう。
市民との協働による推進
情報共有のために、市民との協働でパンフレットの発行、シンポジウムの開催、ワークショップに取り組まれている。
パンフレットは「どうなる?どうする?さいたま市の公共施設…少しずつがまんし合って、上図にやりくり」と銘打ってマンガを交えて市の取り組みを紹介。
市民・NPO・市立大宮北高校漫画研究部などの共同参画で作成している点がミソ。わかりやすいパンフである。
公共施設マネジメントのシンポジウムの開催。
副題は「安心・安全で持続的な施設サービスの充実に向けて」と行政的なスローガンとあわせ、「一緒に考えてみませんか?わくわくするこれからの公共施設」と打ち出されている。
「わくわくする」がミソ。複合化・集約化による施設機能の魅力を前面に出すことがてきているが故の副題と思われるが、「市民の知恵でつくりだす」というところがポイントであろう。
そして、「市民の知恵でつくりだす」ことを具現化しているのが「ワークショップの実施」である。
老朽化する小学校を建て替える場合に、周辺にあるコミュニティ関連施設や福祉施設と一体的に整備し、複合化を図る事例が示された。
与野本町小学校の一部校舎の建て替えにあたり、子育て支援センター、文化財資料室、放課後児童クラブ、地域交流室などを複合化するもので、25名の委員をはじめとした多くの市民が意見交換を行いながら、模型作りを通して、当該地域にふさわしい複合施設を考え、合意形成が図られているとされる。
このワークショップのポイントはおよそ3点。
➡一つは、当該小学校を中心とする複合化の可能性について、①施設規模、②築年数、③更新時の方向性、④耐震化の状況、⑤相性(効果)などを条件として、複合化する施設の絞り込みから市民ワークショップで検討されている点。行政が作った施設の統廃合方針ありきで合意形成が図られていないということである。
➡二つは、ワークショップ委員が、当該地区の自治会やPTA、施設利用者ら13人にとどまらず、公募市民が10人、そして公共施設マネジメント会議市民委員が2人で構成されている点である。
公募市民は、旧与野市民にとどまらず、新市全域から参加している。利用者市民の代表と位置づけられる。マネジメント会議市民委員は納税者市民の立場を代表とする委員と位置づけられる。
長野市の場合は、当該施設の地元の住民自治協議会を対象とする合意形成手法に重きを置いているが、施設を利用する幅広い市民の意見、施設の維持改修費を負担する納税者市民の意見を合わせて合意形成を図る手法は学ぶべきである。
➡三つは、合意形成のファシリテーター(促進者と訳される。会議の目的に沿って段取りや進行・プログラムを考え、問題の解決や合意形成に導く役割を担う人)として、芝浦工業大学や千葉工業大学の教授ら、専門的知見を活用している点である。大学の研究室学生が施設模型作りを担当するなど、行学連携が図られている点も注目である。
長野市の場合、信州大学や長野高専の専門的知見の活用ということになるが、もう少し幅を広げ選任することも考えたいところである。
また、ワークショップの進め方についてマニュアル化されている。大いに参考にしたいところである。
次は焼津市編となります。
さいたま市の取り組みから長野市政に活かしたい点・学びたい点は、各論でコミットしていますが、最終稿で改めてまとめたいと思います。
次は焼津市編です。