1月23日に訪問した日立市の報告です。
日立市
(1)茨城県の北部に位置し、東は太平洋、西は阿武隈山地に連なる。日立鉱山から発展した鉱工業都市で人口193,129人、面積225.55㎢。総合電機メーカー・日立製作所の創業の地、日立グループの企業城下町で、就労人口の約6割が日立関連企業に従事するとされる。水戸藩主徳川光圀が「日の立ち昇るところ領内一」とたたえた故事から日立市となる。
(2)廃止鉄路をバス専用道として整備・活用する「ひたちBRT」、パートナーシップ協定による地域公共交通の維持確保策が視察テーマ。日立市都市建設部都市政策課から説明を受けるとともに、「ひたちBRT」に乗車体験。
鉄道廃線後のバス専用道…ひたちBRT
➊廃止鉄路をバス専用道に
日立市内、JR常磐線の「鮎川」駅(日立駅の南)から隣接の常陸太田市の「常北太田」駅まで、2市にわたる総延長18.1kmを運行していた「日立電鉄線」がH17年3月に廃線されたことにより、日立電鉄㈱から日立市内13.1kmの線路敷跡地を無償で譲渡取得し、H21年3月に「跡地活用整備基本構想」を策定、鮎川駅から久慈浜駅間の8.5kmを公共交通専用空間、久慈浜駅から行政界までの4.6kmを道路空間として活用するとした。
H23年1月に策定された「新交通導入計画」で、日立駅から日立港都市再開発用地間を結ぶ約13㎞のバス路線を新設し、久慈浜~鮎川間の鉄道敷は単線のバス専用道路(4m)と歩道(3.5m)を併設で整備、日立港再開発用地内の「道の駅・日立おさかなセンター」脇に整備する新しい交通ターミナルと久慈浜駅間、鮎川~日立駅間は一般道を走るバス路線として整備する方針としたもの。
日立電鉄線の利用者減は、日立製作所の通勤定期券現物給付の廃止、現金給付方式への転換によりマイカー通勤を助長してしまった結果とも言われている。皮肉な結果である。
【写真】は、運行されているBRTバス、車内から専用道路の走行中で・右側が歩道、専用道のバス停
➋Ⅱ期工事までで55億円
現在は、日立おさかなセンターからJR大甕駅の第Ⅰ期区間=約3.2キロメートルの整備が完了しH25年3月から運行が始まっている。JR大甕駅から鮎川方面の約5.0㎞のバス専用道整備がH28年度までの第Ⅱ期区間工事として進められているところだ。
整備方式は上下分離の公設民営方式。全区間運行時の需要は約2,800人と予測している。第Ⅰ期工事の総事業費は5億円、第Ⅱ期工事は橋梁の架け替え等があるため約50億円とされる。社会資本整備交付金などの国補助金の活用を見込む。
【写真】Ⅱ期区間のバス専用道の整備現場
➌BRTを新たな生活軸に
BRTとは、「バス・ラピッド・トランジット」の略。日本語に訳せば「バス高速輸送機関」。専用の道路やレーンを走行し、渋滞知らずで高い定時運行性と高速性を備えるバス交通システムとされる。東日本大震災で津波被害を受けたJR大船渡線・気仙沼線に鉄道の「仮復旧」として導入されている。
日立市はひたちBRTの導入を新しいまちづくりへの第一歩と位置付ける。ひたちBRTを生活軸とするまちづくり計画に連動させていく考えだ。
鉄道廃線後のバス専用道による公共交通ネットワークの維持存続、バス専用道を生活軸とした新しい展開の今後に期待したい。
➍「時すでに遅し」の感…今からでも遅くないか!?
屋代線廃線後の跡地利用について、私は茨城県石岡市の鹿島鉄道廃止後のバス専用道化事業(H22年8月供用開始)の調査に基づき、バス専用道路の整備による有効活用を提案してきた一人であるが、旧屋代線跡地は老朽化した橋梁やトンネルの整備に多額な経費を要することから、整備案としては捨象となり実現には至らず、「自転車道の整備」となったものだ。
日立電鉄線廃止跡地の活用は、屋代線の跡地活用と比べ、日立市の地勢や南北縦断の幹線軸になりえるといった条件の違いによるものと考えられる。
ひたちBRTの視察は、「時すでに遅し」の感が否めないものの、鉄道に替わる新規バス路線を新しいまちづくりの一歩としていく発想は共有したいものである。「今からでも遅くない!」との思いも募る。
バス専用道の整備という考えは、バス専用レーンの拡充や連接バス導入につなげていきたい。
【参考】20110518「鹿島鉄道・廃線式を活用したバス専用道の試み」(旧HP)
地域公共交通の維持・確保策…パートナーシップ協定
➊住民主体で取り組む2つの課題
日立市は、山側住宅団地における利用者減による路線バスの確保維持と山間地域である過疎地の移動手段確保を課題とする。
交通事業者は「長年の経験と勘」でニーズを把握するだけで利用者のニーズにマッチできない、このことから出発し、住民の意見を聴き当事者意識を持ってもらうことで公共交通が地域の共通課題であり「ニーズに合った交通」をつくりだしていくことが重要とする。
➋移動手段は地域の財産、責任と費用の分担
移動手段は「地域の財産」という考えに基づき。地域公共交通を位置づける。地域公共交通の導入にあたっては「責任と費用の分担」を前提とする。
こうした考えでH19年には、対象地区の全世帯が2000円/年を負担して運行経費の一部に充てる乗り合いタクシー「みなみ号」を導入している。
➌パートナーシップ協定
バス利用者の減少によるバス路線の廃止・縮小等が懸念される地区において、地区住民とバス事業者のパートナーシップ協定により乗車促進活動を行うことで、バス路線の維持・確保・拡充を市が支援する仕組み。
地区が組織する運営委員会とバス事業者が事業主体となるもので、一定の目標(運行収入)達成を条件とした運行継続、路線の拡充について締結する協定で、協力して目標達成を図るものとされる。ただし、目標達成できない場合は、未達成額を地域と事業者が負担し、協定を継続するか、路線の廃止・減便を受け入れるかを地域が判断するとされ、かなりシビアーな条件となっている。
山側住宅団地の諏訪地区で、既存のバス路線を現状維持したうえで、買物・通院など日常生活の足として確保するため、地域内循環線とする実証運行が行われ、110%の運賃収入目標に対し108%を達成し、本格運行となっている。月~金の6便/日、200円の定額運賃。
団地内のフリー乗降や最終便の増便などが実施されるとともに、バスの利用促進活動がまちぐるみで展開されたことによる。
➍山間地域では過疎地有償運送へ、全世帯で年2,000円の負担
日立駅から路線バスで約45分の中里地区という1300人、600世帯が暮らし、高齢化率40%を超える山間地域における取り組み。
社会福祉協議会での試行から1年以上の検討・住民合意によってNPO法人が立ち上げられ、デマンド型の乗り合いタクシー事業が実施されている。
1外出300円の運賃で、4便/日、8人乗りワゴン車2台で運営される。
全住民世帯から年会費2,000円を徴収。約600万円の経費に対し、世帯負担金86万、運賃収入80万で、市と国が200万ずつ補助するスキームである。23.8人/日の利用状況。
高齢者の外出支援、生きがい対策につながっているとされる中、区域外への運行拡充が課題とされる。
「住民主体」、「リーダーの存在」が、この取り組みにおいても光っている。
➎公共交通の協働・支援のあり方…平日日中4便を行政責任
日立市は、乗合バス事業に対する協働・支援の基準として、「市民の移動機会を最低水準とした平日日中4便分は行政が赤字補てんして維持する」ことを制度化している。
9時から16時までの日中において最低4便・4往復分は行政が欠損補助するというものである。
ただし、交通事業者に対し経営体質改善を求めていくことが条件で、事業者の経営改善計画期間の5年間限定とされる制度である。
不採算バス路線の維持存続にあたり、行政がどこまで財政負担するのか、バス事業者に対し市行政が経営改善にとこまで踏み込むのか、といった点から示唆的な取り組みと思われる。