ごみ焼却施設…灰溶融炉建設を改めて考える

 9月30日、会計検査院が環境大臣に対し、「溶融固化施設の運営及び維持管理並びに溶融スラグの利用について」是正改善の処置を求める意見を表示しました。
 ごみ焼却施設における灰溶融炉について、1997年から2012年までに建設された22都道府県の102施設の内16施設がコスト高等を理由に稼働を停止している実態をまとめ、国費約31億円が有効に活用されていないとして改善を求めたものです。
 長野広域連合が計画するごみ焼却施設では、長野市大豆島のA焼却施設及び千曲市に建設するB焼却施設において、それぞれ灰溶融施設を建設する予定です。
 しかし、灰溶融から生成されるスラグの有効利用の目途が立たないまま、『基本計画』通りの溶融施設建設が進められています。
 A焼却施設で建設費は15億円から20億円、維持費には3億円から4.5億円とのかなり幅のある試算が示されていますが、「無駄な投資にならないのか」を問い直し、「灰溶融からの勇気ある撤退」を含め、改めて考え直したいと思います。
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ごみ焼却施設・整備計画

注目すべき会計検査院の指摘

会計検査院の意見書全文

「溶融固化施設の運営及び維持管理並びに溶融スラグの利用について」

報道からポイントを紹介します。

「使える溶融炉、各地で停止=高コスト課題、補助無駄に-環境省に改善要望・検査院」(時事通信2014/09/30)

 1300度以上の高温で廃棄物を溶融させ、燃えかすを「スラグ」という固形物にする「溶融炉」のうち、全国16施設が高コストなどを理由に、運用計画の途中で稼働をやめていることが30日、会計検査院の調査で分かった。完成後約1年で使わなくなった施設もあり、検査院は環境省に実態把握や活用促進を要望した。
 溶融炉はダイオキシン発生を防ぎ、焼却灰の体積を減らすほか、スラグを資材に再利用できる利点がある。国は1997年以降、ダイオキシン対策やごみ減量のため、自治体に補助して整備を促し、約200施設が建てられた。
 検査院が22都道府県の102施設を調べたところ、静岡県磐田市で2011年5月に完成した施設が1年1カ月で停止するなど、全国で16の溶融炉がほぼ使用できる状態で稼働を停止。国は事業費計約163億円の約3分の1を補助し、いずれも15年以上使う計画だったが、最長でも9年しか使っていなかった。
 検査院や環境省によると、溶融炉は燃料代などが普通の焼却炉より多くかかる。普通の炉でもダイオキシンを防ぐ技術ができ、埋め立て処分場に余裕があったり、財政が厳しかったりした自治体が処理方法を切り替えているという。

「ごみ減らす溶融施設の稼働不十分 環境省の交付金31億円」(47NEWS2014/09/30)

 ダイオキシン削減やごみの減量を見込んで国が設置を促進している廃棄物や焼却灰の「溶融固化施設」のうち、静岡県磐田市などの自治体や広域事務組合など11道県の16事業主体が設置した施設が1年以上稼働せず、環境省の交付金計約31億円が有効活用されていないことが30日、会計検査院の調査で分かった。
 これらの施設は、焼却灰を減らす効果がある一方、生成されるガラス質の「溶融スラグ」は道路の路盤材などとして活用できるとして環境省が財政支援を進めてきた。
 検査院は「環境省は施設の稼働状況を把握し、対応を検討するよう事業主体に促す必要がある」と指摘した。

「ごみ焼却灰リサイクル:16施設31億円無駄 検査院指摘」(毎日新聞2014/09/30)

 ごみの焼却灰を加熱後に冷却しガラス状の固化物「溶融スラグ」にしてリサイクルする「溶融固化施設」について、静岡県磐田市や千葉県八千代市などの16事業者が施設を1年以上使用していないことが会計検査院の調べで30日、分かった。光熱費などの運転資金が年1億~数千万円かかるのに、スラグの買い手が見つからないのが主な原因。検査院は補助金や交付金計約31億円が有効に活用されていないとして、環境省に改善を求めた。
 スラグは、道路の路盤材やコンクリート用骨材などに利用される。環境省がダイオキシンの発生防止やごみの再利用のため建設を推進してきた。
 検査院が1997~2012年度に建設された22都道府県の102施設について、3月時点の運用状況を調べたところ、16事業者が16施設の稼働を停止していた。事業費約163億円のうち約51億円は国の補助金や交付金で、検査院は有効活用されていない国費を約31億円と算定した。
 16施設のうち、磐田市が運営するクリーンセンター(事業費約8億3000万円)は11年度、1050トンのスラグを作り、1トン当たり200円で売ったが、その後売却先が見つからなくなり、12年6月、稼働を停止した。市の担当者は「多額のコストがかかる。販売先がないと施設を止めなければならない」と話す。今年度に入り、販売先が見つかり運転を再開したという。
 環境省廃棄物対策課は「指摘を踏まえ、対応を検討したい」とコメントした。【武内亮、戸上文恵】

“無駄な投資への懸念”示したことが重要

 検査院の指摘は「廃棄物の減容化や溶融スラグの利用を促進することによる最終処分場の延命化等のために、引き続き溶融固化施設の整備事業を進める環境省の立場」を容認しつつ、交付金が無駄な投資にならないよう「循環型社会形成に向け、溶融固化施設の適切な運営及び維持管理、溶融スラグの利用促進を図れ」と注文を付けるもので、おのずと限界があります。
 しかし、少なくとも全国16施設で稼働停止している現実を指摘し、無駄な投資となる懸念を示した意義は大きいものがあります。

長野市大豆島のごみ焼却施設建設の「今」

 長野市大豆島地区に建設が計画されているA施設は、焼却施設規模を450トンから405トンに縮減し、建設及び運営管理について「DBO方式」という事業方式で進めることを決定しています。
 8月27日の長野広域連合議会・福祉環境委員会では、DBO方式による事業契約に向け公表された「実施方針」と「要求水準書」について審議しました。
 「(仮称)長野広域連合A焼却施設」整備及び運営事業の実施方針」
「(仮称)長野広域連合A焼却施設」整備及び運営事業の要求水準書(案)」
ごみ焼却施設

主灰・焼却飛灰の50%以上を溶融

 「灰溶融」に関しては、「主灰及び焼却飛灰の合計量の50%以上を溶融・有効利用することとし、溶融分以外は運営事業者によって外部資源化(資源化方法問わず)する」とし「運営事業者にその責任を課す」ことを基本的な考えとしています。

スラグの有効利用は事業者任せ

 「スラグの有効利用」は「運営事業者から提案された分」は運営事業者ですが、それ以外は広域連合が引き止り、有効利用・埋め立て処分を行うとします。ただし、スラグの品質がJIS基準を満たさない場合は、ペナルティとして運営事業者で処理処分することになります。

展望なき見切り発車

 スラグ有効利用の実現可能性について問うたところ、「道路資材への利用など県における有効利用のガイドラインに期待」みたいな答弁が繰り返されるだけで、担保は何もありません。
 結局のところ、広域連合が引き取り、県外に運搬し民間業者に引き取ってもらう、または埋め立てることになり、コスト増の大きな要因になってしまう懸念が募ります。
 市の環境部長は「全国都市清掃会議」でも「国の責任で有効利用の施設整備を図る要請をしているところ」とし国の取り組みに対する期待感を滲ませるにとどまっています。
 「展望なき見切り発車」で事業が進んでいるとの印象がぬぐえません。

運営事業者に委ねる部分が多いことも懸念

 排ガス濃度の監視規定でも、停止基準値や要監視基準値について「民間事業者の提案で設定」とされ、広域連合としての関与が「二の次」みたいに受け止められる余地を残しているのではと懸念しています。
 「受託するであろうプラント民間事業者は、ごみ処理施設のプロだから、心配に及ばない」といった趣旨の答弁がありましたが、どうなのでしょうか。

事業者選定は「公募型プロポーザル方式」、H27年7月に契約

 「DBO」によるごみ焼却施設の建設・維持管理事業は、「運営事業者の提案余地が相当程度認められること等を考慮し、透明性、公平性、競争性の確保に留意しながら、総合評価一般競争入札と同等の手続きを踏んだ公募型プロポーザル方式による」こととしています。
 「価格要素」と「非価格要素」を総合的に評価することになります。
 「非価格要素」では、環境への配慮・貢献、安心・安全な施設の整備と運営、環境教育への寄与、地域への貢献などを項目として審査するとされていますが、基準や割合、比重を含めて詳細はこれからといった状況です。
 11月18日の広域連合議会の定例会で「債務負担の議決」を予定し、来年3月末までに公募を受け付け審査し、優先交渉権者を決定したうえでH27年7月末には「契約の議決」を予定しています。
H30年度中の稼働に向けてはかなりタイトなスケジュールとされています。

灰溶融炉中止のハードルをどう考えるか

 灰溶融炉計画を中止する場合にハードルとなるのが最終処分場の問題です。須坂市に予定する最終処分場は「溶融スラグによる埋立てや施設規模を前提として地元協議を行っており、仮に焼却灰のまま埋め立てることになりますと、計画している使用可能年数は半減し、新たな処理方法の検討が必要となってくる」「溶融処理をしないとすることは、長期にわたり事業計画の説明や意見を交換し、理解を求めてきた地元住民との信頼関係の崩壊にもつながりかねない」(市議会答弁より)というものです。
 「経済性だけでなく、最終処分も含めた総合的な視点で判断すべきであり、現行のごみ処理広域化基本計画に基づき進めていくことが最良である」(市議会答弁より)としてきていますが、「計画ありきではない総合的な検討・検証」を求めたいと考えます。
 須坂市の最終処分場の使用可能年数は15年間とされています。「次の最終処分場」の検討も迫られているものですが、「使用可能年数が半減」との答弁の検証を含め、必要な建設・維持コスト=経済性と、ごみ減量の推進、最終処分場の在り方、ポスト須坂の最終処分場の早期建設を含めた在り方等との見合いで総合的に考える必要があります。

建設費20億、維持管理費4.5億の投資効果(いずれも最大値試算)を再検証

 私はこれまで、灰溶融技術は「未完の技術」であり安全性への信頼度が低いことと、維持管理のコストの問題をとらえ、灰溶融施設からの撤退を求めてきました。
 今日、灰溶融炉の中止・休止が相次いでいる現実や会計検査院の指摘を踏まえ、灰溶融施設の安全性・経済性の視点から、スラグ有効利用の実現性と設備投資・維持管理の経済性の視点に移行させて溶融施設問題を考え直す時だと思います。
 こうした視点から、溶融スラグの有効利用の展望(導入自治体の利用状況を含めて)、スラグの生成コストと再資源化のコスト、溶融施設のCO2発生量など環境への影響、最終処分場の延命化の展望などを調査し、広域連合議会及び長野市議会に臨む対応を検討したいと思います。

資料:これまでの議会答弁より

H25年3月議会…環境部長答弁

長野広域連合が計画しておりますごみ焼却施設は、灰溶融施設の設置を計画しております。この施設につきましては、議会や住民説明会など、様々な場において、溶融処理の効果や必要性、安全性など、広域連合と共に情報をきちんと整理、精査した上で説明を申し上げてまいりました。
また、昨年十一月から十二月に広域連合と市で開催しました住民や市民を対象とした説明会では、溶融施設の安全性、事故の発生事例、建設費やランニングコスト、溶融スラグの活用などについて、多くの質問を頂きました。広域連合と市では、その一つ一つに対し丁寧な説明に心掛け、施設の安全性や効果、また必要性について理解を求めてまいりました。
市では、説明会での資料、会場での意見や回答については、大豆島地区全戸への配布や支所などでの閲覧用資料の配置、また、市ホームページなどに掲載を行い、他地区での意見内容や説明会に参加できなかった方に対しても、情報提供に努めてまいりました。このことも、今回、大豆島地区の皆様からの御同意につながった要因の一つとも考えております。
また、広域連合や本市議会で答弁した関係につきましては、会議録などで公開されておりますが、今後、必要に応じ、市民がより分かりやすい形にまとめ、市ホームページなどを活用し、一層積極的な情報公開に努めてまいります。
また、灰溶融炉の研究、検証でございますが、市は広域連合と連携し、平成十八年度から今年度までに延べ三十九の施設を視察いたしました。また、大豆島地区住民との合同視察は、焼却施設や灰溶融施設、また併せて余熱を利用した施設の稼働状況等の調査を目的に、平成十八年度から今年度までに二十九施設の視察を実施しております。
視察では、灰溶融炉の事故事例やその対策、灰溶融炉を停止した他の施設の情報収集、また、いろいろな会議での他市との意見交換、インターネットなどの活用など、様々な形で情報収集に努め、検討に生かしてまいりました。
なお、灰溶融炉施設の事故につきましては、平成十九年度以降に稼働した日量五十トン以上の処理施設で、本市に計画されているストーカ式焼却プラス灰溶融炉方式と同じ処理方式の十施設につきましては、事故事例は報告されておりません。
このことからも、本市に計画の施設につきましては、今後一層の性能改善と併せて、確実に安全が確保されているものと考えております。今後も計画に基づいた事業を進めてまいりたいと思っております。

H25年12月議会…環境部長答弁

灰溶融施設は、焼却灰を溶融処理し、容量の減容化による最終処分場の延命化、ダイオキシン類等の低減、また路盤材活用などの資源化などの効果があり、必要性についてはかねてより議会及び説明会等で説明をしてまいりました。
灰溶融炉を設置しない事例としましては、民間を含む他の施設での溶融やセメント原材料などへの資源化、十分な埋立量を有する最終処分場の確保などによるものがあります。また、建設計画中止につきましては、諏訪南行政事務組合や川崎市、長崎県壱岐市などの事例を把握しておりますが、いずれも最終処分場の確保や焼却灰の外部処理など、安定した処理が担保されたものによるものでございます。
また、御質問の中にありました京都市が設置を中止したロータリーキルン式灰溶融施設は、炉を回転させながら石油等の燃料を使用し、焼却灰を溶融するもので、把握した範囲では、ごみ溶融施設での採用事例は、全国で五か所のみでございます。
一方、長野広域連合が計画しております施設は、炉を固定したまま、ごみ焼却により得られた電気により溶融するもので、国内で最も多く採用されている方式であります。また、焼却設備と溶融設備を分離した方式であり、両設備が一体のガス化溶融炉と比べ、万が一のトラブルにも両機能が停止するリスクを回避できる他、焼却灰を溶融せずに直接セメントの原材料として資源化することも可能であります。
なお、京都市ではその後ですが、直営と広域二つの最終処分場の確保により、安定的な灰処分が可能なことから、方針の変更に踏み切ったとお聞きしております。
また、灰溶融炉施設の事故は、昨年までの過去十か年で十八件の事例を把握しております。把握した範囲ですが、その主な原因は、溶融炉の構造や材質に起因するもの、人為的な操作ミスによるものなどで、いずれも原因が究明されております。また、平成十九年度以降の五年間に本市に計画の溶融炉と同じ方式により稼働した日量五十トン以上の処理能力の十施設では事故事例の報告はなく、安全性は確実に確保されていると考えております。
なお、須坂市に計画の最終処分場は、溶融スラグによる埋立てや施設規模を前提として地元協議を行っており、仮に焼却灰のまま埋め立てることになりますと、計画している使用可能年数は半減し、新たな処理方法の検討が必要となってまいります。
ごみ処理施設の整備に当たっては、経済性だけでなく、最終処分も含めた総合的な視点で判断すべきであり、現行のごみ処理広域化基本計画に基づき進めていくことが最良であると考えております。

H26年3月議会…環境部長答弁

長野広域連合では、本市及び千曲市に計画しているごみ焼却二施設それぞれに、灰溶融施設を設置することとしております。灰溶融施設につきましては、従前より地元住民を初め、市民などへの説明会や議会などで、その必要性や効果を申し上げてまいりましたとおり、溶融処理を行うことによりダイオキシン類等の低減、焼却灰の減容化や最終処分場の延命化、路盤材活用など、溶融スラグの資源化が図られるものでございます。
また、須坂市に計画の最終処分場は、溶融処理をしたスラグ等を埋め立てることを前提に地元と協議を進めており、溶融処理をしないとすることは、長期にわたり事業計画の説明や意見を交換し、理解を求めてきた地元住民との信頼関係の崩壊にもつながりかねないものと考えております。
事業費の圧縮につきましては、本市に計画のごみ焼却施設の規模につきまして、先月開催の広域連合理事会において、処理能力を日量四百五十トンから四百五トンに見直しすることが決定されました。
灰溶融炉の規模につきましては、今後、事業者選定において参加希望事業者からそれぞれの提案、ヒアリングを踏まえ、十分な検討や評価を行い、決定することとしております。また、広域連合では、事業方式を公設民営のDBO方式とすることを決定し、安全な運転管理とともに事業費の圧縮にも努めていくこととしております。
ごみ焼却施設の整備に当たりましては、焼却だけでなく、最終処分も含めた総合的な視点で判断し、進めていくことが最良であると考えております。

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