22日に訪問した愛知県豊田市の視察テーマは、「地域自治区制度と地域自治システム」です。
■地域自治区制度とは、住民自治の充実の観点からH16年の地方自治法改正で創設されたもので(地方自治法第202条の4)、市町村長の権限に属する事務を分掌させ、及び地域の住民の意見を反映させつつこれを処理させるため設置する自治・行政組織の一つです。審議機関として住民の代表らで構成する地域協議会を設置し事務所を設けるものとされます。全国では15の自治体で導入されており、県内では飯田市・伊那市で導入されました。
旧合併市町村のみに対応する合併特例による地域自治区もあり、全国では30自治体で導入されています。
因みに、長野市は合併段階で合併特例による「地域自治区」は設けず、新市の一体感を醸成すること重きを置き「地域審議会」で対応しました。
■豊田市では、「市民と行政の共働によるまちづくり」を掲げ、H17年に「豊田市まちづくり基本条例」(自治基本条例に相当)を制定し、都市内分権を推進する観点、すなわち市長の権限をより住民に近いところに移し、地域のことは地域で決められる地域社会を目指す観点から「地域自治区条例」を同時に制定しました。
「協働」ではなく「共働」としているところがミソとのこと。「共働」は「市民と行政が協力して働く(動く)=協働だけでなく、市民と行政が“共に働き、共に行動する”ことでよりよいまちを目指すこと」と定義付けされています。
12の地域自治区(旧合併町村6・旧豊田市内6)を設置し、支所に地域自治区事務所を併設、そのもとに、地域住民の多様な意見を集約し調整して市の政策に反映させるための審議機関として、中学校区単位に27の地域協議会(豊田市の場合は地域会議)を設置しています。
27の地域会議の委員は、自治区や各種公共的団体から推薦された委員及び公募委員ら20名以内で構成され、無報酬・任期2年の非常勤職員(地方公務員)と位置付けられ、地域意見の集約と調整を役割とします。
【参考】豊田市「都市内分権の推進 地域自治区制度と地域自治システム」のページ
豊田市「地域自治システムのパンフレット」
■地域の課題を住民が主体となって解決する施策として、「わくわく事業」と「地域予算提案事業」が設けられています。
「わくわく事業」は、地域住民が“住みやすい地域づくり”に向け、人・文化・自然などの地域資源を活用し、主体的に取り組む事業を支援する補助金制度で、地域会議ごとに年間500万円を予算化しています。具体的な事例として、「高橋おせんしょ(おせっかい、世話好きの意)の会」の草刈りやペンキ塗りなど高齢者、障害者への作業奉仕が紹介されました。
長野市における「地域やる気支援補助金」(住自協対象)や「ながのまちづくり活動支援事業補助金」(市民グループやNPO対象)に似た制度です。
予算上は500万円×27地域会議=1億3500万円ですが、H25年度決算では280件で焼く約8,500万円、平均1件当たり約30万円の補助となるようです。
今後の課題として、「公益性の高い事業を目指すよう誘導する」「リーダーとなる人材の必要」「補助金頼みから自立に向けた改善が必要」との意見が出されているとのことです。
「地域予算提案事業」は、住みやすい地域づくりのために地域で共通認識された課題解決策を、市の施策に的確に反映させ、効果的に地域課題を解消するための仕組みで、地域会議が支所長に予算案(事業計画書)を提案する権限に持つことに裏打ちされているものです。
地域会議が提案し、行政が施策として執行することになります。地域会議ごとに年2,000万円が上限に設定されています。
具体的な事例として、「危険な通学路を、安全で安心な、楽しく通学できる通学路とする事業」が紹介されました。地域の交通調査を行い、ヒヤリハットマップを作成、保育園や小・中学校での交通安全教室の開催、企業と連携した取り組みなどが内容です。
H25年度の交付金は27地域会議64件で約1.5億円。一事業平均230万円・一地域会議平均で550万円という勘定になります。
この事業については、「住民目線で地域性を活かした形で事業化される優れた仕組み」との意見がある一方、「年度ごとに取り組み内容に一貫性がなく、長期的なビジョンを策定する必要がある」「防犯や防災が上位となり、地域に本当に必要な課題が埋もれてしまう」「若い人の意見が反映できていない」との意見があるそうです。
長野市においては、このような制度はありません。しかしながら、地域課題の事業化という点では、「元気なまちづくり市民会議」で出された住自協の意見・要望をもとに、市が事業化する仕組みに相当するといえるかもしれません。「要望」と「予算提案権の行使」という根本的かつ決定的な違いはありますが。
住民自治協議会と市行政の協働の在り方に関し、「予算提案権に基づく事業契約」という仕組みの導入を発展形として追求したいところです。
■長野市でいうところの区長制度、住民自治協議会について、豊田市では自主的な任意団体としての302の「自治区」を置き、「自治区長」を選任しています(市長の委嘱ではありません)。中学校区単位に27の区長会を組織しています。
住民自治協議会にあたる組織としては、中学校区単位に「コミュニティ会議」が設置され、市立公民館を拠点にして、自治区をはじめ老人クラブや青少年健全育成推進協議会などの各種団体で構成されているものです。
地域会議とコミュニティ会議との協力・連携が課題とのことでした。
地域会議は自主的な住民組織ではなく行政の審議機関ですから、長野市の住民自治協議会と比較することは適当ではないと思われます。住民自治という視点からは、豊田市の「コミュニティ会議」と比較することがポイントになると思われますが、この点についてほとんど掘り下げることができませんでした。
■豊田市の取り組みは、地域自治区と地域会議の2つの組織を柱とし、わくわく事業と地域予算提案事業の2つの事業で地域自治システムを構築しているもので、その根っこが「まちづくり基本条例」にあるものです。
私としては、「地域自治」と「住民自治」の在り方を混同することなく考えていくことが重要だと思います。
長野市においては、地域自治の視点からは、市役所内分権、支所機能の充実と支所と住民自治協議会との協働・連携の仕組みの再構築を考えたいと思います。また、住民自治の視点からは、住民自治協議会の自治・自立促進と予算提案権に基づく事業契約を発展形として展望し、長野市版自治基本条例の中で区長の位置づけ、住民自治協議会の位置づけと役割、地域課題の解決に向けた新たな協働の仕組み作りを、豊田市版に学びながら考えたいと思います。あまり整理できていませんが…。
地域自治区によらず、審議機関として位置付けている川崎市の「区民会議」制度や神戸市の「まちづくり協議会」制度なども参考にしていく必要があるでしょう。