1月21日から23日にかけて、市議会の「子育ち・子育て対策特別委員会」で世田谷区・松戸市・浜松市・高松市を訪問。子ども条例の取り組みや、子育て支援事業、官民協働の子育て支援情報サイト、認定こども園などをテーマに勉強してきました。
数回に分けて報告します。「こども未来部」を新設し、新たに”子育て先進都市”を政策目標に掲げた長野市政において、議会サイドからの具体的な施策の提案につなげていきたいと思います。
まずは世田谷区と松戸市です。
◆世田谷区
(1)世田谷区での調査テーマは、子ども条例と放課後の居場所・新BOP事業について。世田谷区はH13年の子ども条例制定を踏まえ、H16年に福祉・保健領域に「子ども部」を設置。子ども部・子ども育成推進課から説明を受ける。
(2)世田谷区子ども条例の特徴と人権擁護機関の設置
➊世田谷区では、H12年に子ども施策推進本部を庁内に設置。区の「子ども・青少年問題協議会」からの報告書や提言を受け、推進本部で条例素案を作成し、H13年に議決、H14年4月に施行。
➋条例施行後、H17年には子ども計画および教育ビジョンを策定、子どもの尊厳と権利の尊重の取り組みを進め、「せたがや子ども・子育てテレフォン」や「教育相談」等、子どもからの相談窓口の充実を図ってきたとする。
➌子ども条例の啓発は、毎年度、区立小学1年生の保護者、小学4年生の児童、中学1年生の生徒にチラシ・バンフを配布、社会科の授業で活用。
➍子ども条例の特徴は、前文で「子どもは、それぞれ一人の人間として、いかなる差別もなくその尊厳と権利が尊重される…心も身体も健康で過ごし、個性と豊かな人間性が育まれる中で、社会の一員として成長に応じた責任を果たしていくことが求められる」とし、「子どもの尊厳と権利の尊重」が明確に規定されているところにある。そして、第3条「条例の目標」に、「子ども一人ひとりが持っている力を思い切り輝かせるようにする」「子どもが健やかに育つことを手助けし、子どものすばらしさを発見し、理解して、子育ての喜びや育つ喜びを分かち合う」「子どもが育っていく中で、子どもと一緒に地域の社会をつくる」など3点を明記、第11条で「子どもの参加」、第12条で「虐待の禁止など」、第13条で「いじめへの対応」、第15条で「相談と擁護」を規定する。
➎条例の中では、「子ども権利条約」に定められる子どもの権利の内容について明確に規定してはいないが、小中向けのパンフの中で、「子どもは、一人ひとりが大切な命を持っていて、どの子にも生きる権利がある」こと、「子どもは、人種や肌の色、性、言葉、文化、宗教、考え方、心身の障害の有無にかかわらず、どのような差別も受けない権利がある」と説明している。
➏児童虐待に関する相談の増加、いじめが原因となる自殺、いじめ、非行、不登校および子どもの貧困等の問題が深刻化、複雑化している状況から、「すべての子どもが安心して過ごせるように、子どもの権利侵害に関して、子ども自身の声を大人が受け止め、速やかに救済と問題の解決を図るための取り組みの一層の充実が必要」とし、「子どもの人権擁護の新たな仕組み」を検討し、H24年に条例改正を図り、現在に至る。
➐子どもの人権擁護の新たな仕組みは、外部の有識者によるアドバイザー会議で検討。区立小・中学生への「子どもの生活と人権意識」に関するアンケート調査(対象2600人)、区民意見の募集等を通して、最終案がまとめられ、議会で議決。内容は、第15条「相談と擁護」の基本的な考え方に具体的な制度(仕組み)を一体的に規定するもので、15条から24条を追加するものである。
*第15条「区は、子どもの人権を擁護し、子どもの権利の侵害を速やかに取り除くことを目的として、区長と教育委員会の付属機関として世田谷区子どもの人権擁護委員を設置する」
子どもの権利侵害の事案が、学校内にとどまらず、保育所や児童館、私立学校、職場、家庭など多岐にわたることが想定されることから、区長と教育委員会の両執行機関全体に及ぶものとして人権擁護機関を位置付けている点が世田谷区だけの特徴である。
➑子どもの人権擁護機関=せたがやホッと子どもサポート
ア)人権擁護機関として設置されたのが「せたがやホッと子どもサポート」である。「公正・中立で独立性と専門性のある第三者からなる子どもの人権擁護機関」とし、「権利侵害に関する相談を受け、助言や支援を行い、個別救済のための申立て等により、関係機関との連携・協力の下、調査・調整等を行い、問題の解決を図る」ことを目的とする。H25年7月から始動、世田谷区子ども・子育て総合センター内に開設。開設時間は月から金までが13時~20時、土が10時~18時で、サポート委員1人は必ず対応できるシフトをとっている。
イ)相談への対応は、3人の子どもサポート委員が独任制により対応。任期は3年。子どもサポート委員を補佐し相談・調査対応等を行う「相談・調査専門員」を教育・福祉分野、心理・精神保健分野の専門的有資格者から4人配置する。事業費は人件費と広報啓発費が主で年間2700万円(9カ月分)。子どもサポート委員は、一場順子・弁護士、月田みづえ・昭和女子大学人間社会学部教授(児童福祉専門)、半田勝久・東京成徳大学子ども学部准教授(教育制度学や子ども支援学を専門)で構成。
ウ)7月から10月までの相談状況は延べで339件(子ども166・大人173)で電話が72%、メールが6.2%、面接が20.6%。相談主訴(実件数)は91件で「いじめ」が20件、「退陣間行け」が18件、「学校・教職員等の不適切な対応」16件と上位を占める。場所では学校が51件と半数以上を占め、家庭20、幼稚園・保育園9、近所5と続く。申立件数は4件とれる。
エ)通称やキャラクターを小・中生から公募するなど、「子どもから信頼される機関」をめざす。「せたがやホッと子どもサポート」が有効に機能するためには、子ども自身への働きかけなど「区民の理解と協力」、既存の相談機関との連携による双方の対応力の強化、ネットワークの構築など「関係機関との連携・協力」、「子ども関連施策との一体的な運用の推進」が課題として挙げられる。
(3)若者支援の政策化
H22年4月施行の「子ども・若者育成推進法」を踏まえ、子ども部内に「若者支援担当課」を設置し、概ね中高生世代から30代を対象に、引きこもりやニート対策を柱に「新基本計画」に盛り込んでいく予定とされる。
(4)新BOP事業について
➊新BOP事業とは?
世田谷区ではH7年度からBOP(Base of Playing=遊びの基地)事業が始まっている。小学校の余裕教室・校庭・体育館等を活用して児童の安全な遊び場を確保し、集団遊びの中から社会性・創造性を養い、児童の健全育成を図ることを目的とする。
H11年度からは、子どもを取り巻く環境変化や児童福祉法改正等を踏まえ、BOP事業と学童クラブ事業(S39年開始)を統合した新BOP事業として再構築。区立小学校を活用した区独自の小学生の総合的な放課後対策事業として、H17年度からは区立小全64校で実施されている。H19年度からは文科省と厚労省が共同で推進する「放課後子どもプラン」として位置づけ、保護者・地域・学校・関係団体で構成する「新BOP運営委員会」を設置し、地域との連携・協力を進めているとされる。
新BOPは、放課後の安全な居場所として「遊び場」と「生活の場」を一体的に提供しようとするものである。
➋新BOP事業の内容と特徴
ア)BOP(放課後子ども教室)は1年生から6年生までの希望者、学童クラブは1年生から3年生までの希望者(要配慮児童は6年生まで)を対象とする。64校の児童数32,015人のうち、新BOP登録児童数は23,830人(74.4%)で、学童クラブ登録児童数は内数で4,343人(18.2%)。1日1校当たりの平均参加人数は62人(ただし20人から100人超の幅がある)。定員は原則として設けていない。入所希望を断るケースはないとのことだ。利用料金はBOPは無料、学童クラブは月額5,000円(間食費2000円を含む)の有料制をとっている。就学援助世帯の児童は免除で、都内では6,000円から7,000円の利用料金が主とのこと。児童の帰宅は、BOPは子どもの自由、学童クラブでは保護者の指定した時間にそれぞれが帰宅するそうだ。長野市のように保護者の迎えは制度化されていない。
イ)活用する校内施設は新BOP専用の2教室と校庭・体育館。学校運営に支障がない範囲で特別教室の活用も調整される。各室エアコン完備で、1室には厨房が設置されている。余裕教室が多いという背景があるにしても、専用室対応は学びたいところである。
ウ)運営は区直営である。事務局長は校長OBらで非常勤だが、児童指導職員は常勤の区職員1人~3人体制、他に新BOP指導員(非常勤で数人)、プレイングパートナー(臨時職員)を置く。所管する児童課には看護師を配置し、巡回相談を実施している。
(5)長野市に活かしたい点
➊世田谷区は、子どもに関する相談機関が都の機関をはじめ多数あり、またチャイルド・ライン発祥の地であり、民間・NPOの活動も展開されている中、区独自に子どもの権利の尊重を規定する子ども条例を制定し、子どもの人権擁護機関を設置し対応していることは大いに学びたいところである。しかも、区長と教育委員会の両執行機関の付属機関として位置づけられている点も特筆すべきである。
長野県において制定される「子ども支援条例」(人権擁護機関の設置を打ち出している)を受けて、県条例をどのように市として活用していくのかといった視点の整理と、市独自の子ども条例制定に向けて、参考にしたい点である。
➋新BOP事業は「長野市版放課後子どもプラン」に相当する事業であるが、直営という職員運営体制、定員を設けない設定、専用室対応(エアコン完備を含めて)は、長野市における施策展開として、活かしたいところである。
◆松戸市
(1)松戸市における調査テーマは、子ども部・子ども家庭相談課の相談体制、子育てコーディネーター認定事業。
(2)子ども家庭相談事業
➊松戸市は千葉県が設置する児童相談所と連携しつつ、子ども家庭相談課において、「家庭児童相談室」を開設し、虐待や育児の悩み・不登校・非行、養育上の問題などを相談する家庭・児童相談とDVや母子・父子家庭の経済・自立支援を相談する母子・婦人相談を実施。相談員は専門職による非常勤職員6人体制。
➋家庭児童相談ではH24年度で703件の相談(内、児童虐待は353件)、母子婦人相談では410件(内、DVが96件)とされる。因みに県の柏児童相談所における相談件数は松戸市内統計で児童家庭相談631件、無児童虐待が314件あるそうだ。市は相談内容により市の関与を受け入れないケースや身体的に危ない状況や子どもの状況が不明な場合には県児童相談所に送致対応しているとのこと。今回の説明だけでは、県の児童相談所との役割分担はいささか不明である。
➌松戸市では、相談の解決状況について「終結率」という表現で数字上の解決状況を表現する。子どもや育児に関する相談、いじめや虐待、DVに関する相談に「終結はない」と考える一人としては、いかにも「お役所的発想」を否めない処である。とはいえ、家庭児童相談と母子・婦人相談を一元的に実施している点は、市民にとってわかりやすい相談窓口になっているのではと思われる。
(2)松戸市子育てコーディネーター事業
➊松戸市は子育て支援課において、市内19カ所に子育て支援拠点を開設する。公共施設の空きスペースを活用し、乳幼児と親の交流・育児相談の場である「おやこDE広場」が15カ所(13カ所はNPO等に委託)、民間保育園が補助事業として運営し専任保育士による相談機能を持つ子育て支援センターが4カ所。年間18万人が利用する地域子育て支援事業である。
この19カ所の子育て支援拠点において、中心スタッフとして勤務する職員を対象に、保護者からの相談を受けて地域における多様な支援、施設・事業を紹介したり、専門機関につなぐ役割を果たしてもらうことを目的に、「子育てコーディネーター」として市が資格認定する制度である。
➋H23年度から始まった制度。資格には、認定講座やフォローアップ講座を必修とするもので、H23年度では28人、H25年度で各施設2名体制をめざすとしている。
➌横浜市の「保育コンシェルジュ」と並んで内閣府が先行事例として紹介している事業である。例えば、虐待の早期発見につながった効果もあるとされるが、全体的に市の資格認定によって子育て支援拠点のスタッフへの信頼度を高める効果があると思われる。子ども・子育て支援法(新法)で、市町村が行う利用者支援事業が地域子ども・子育て支援事業に位置付けられたことから、親子にとって身近な場所において相談に応じられる仕組みの充実が求められており、一つの事例として参考にしたいところである。
長野市では「こども広場」である「じゃん・けん・ぽん」と「このゆびとまれ」の2施設と保育園に併設される地域子育て支援センター15カ所で対応する事業であたる。この事業を乳幼児の親子にとってより身近で信頼できる施設・窓口としてさらに機能アップを図る手立ての参考にしたい。