「長野市・新交通システムの導入可能性」について勉強会

 30日夜、長野地区公共交通対策会議の主催で、市が市民意見を募集している「新交通システムの導入可能性(素案)」について、市交通政策課を招き、勉強会を開きました。
 「新交通システムの導入可能性」については、『広報ながの6月号』に概要が掲載されています。

 この検討は、屋代線の廃止を受け、犀南地区の松代・若穂・篠ノ井・川中島・更北地区の住民自治協議会の連名で提出された「次世代型電車システム(LRT)導入と長野市の新たな交通体系についての請願」の全会一致の採択を受け、市が交通対策審議会に諮問し検討されてきたものです。

★「新交通システム導入可能性」(素案)の骨格は…
➊新交通システムの果たす役割
人口減少・少子高齢化社会が進行する中、人口密度が低い市街地の拡大していること、善光寺の観光客が圧倒的に多いこと、自動車利用率が65%を占め公共交通利用率は6%と低いこと、犀川を渡る道路の渋滞、自動車からの温室効果ガス排出量の増加などの交通を巡る課題を整理し、将来の公共交通が目指す方向性として、利便性の高い公共交通・持続可能な交通体系・環境負荷軽減ための自動車利用の抑制・観光振興への寄与、最適な公共交通ネットワーク、自動車を我慢し公共交通に転換させる市民意識の醸成などをまとめています。
そして、新交通システムには、既存の公共交通よりも利便性が高い公共交通ネットワークの軸、安心して目的地に行けるわかりやすさ、まちづくりへの寄与、そして一定の需要の見込みが役割として求められると整理します。
➋南北交通の基幹軸を設定しLRTとBRTで比較検討

南北交通軸と検討ルート

南北交通軸と検討ルート

 その上で、基幹公共交通軸を「南北交通軸」(長野駅を起点に北部方面・若槻と南部方面・松代を結ぶ交通軸)に設定し、LRT(次世代型路面電車システム)、BRT(バス高速輸送システム)に絞って、三つのルート、二つの参考ルートで、事業費・需要量・運行経費を概算し検討したものとなっています。サービス水準は朝6時から24時までの間に15分間隔(4本/時)で1日当たり72本の運行を基準にしています。
➌BRTの方が採算性が確保される可能性
 「比較的距離が短く、一定の利用者が見込める区間であれば、課題はあるものの、採算性が取れる可能性が見込める」とし、かつ、事業費面から考察すると「BRTがLRTの5分の一程度で4億円から7億円、運行経費ではBRTがLRTの半分程度で6千万円から3億程度となり、BRTの方が採算性が確保される可能性が高い」とまとめています。

検討ルートにおける事業費・運行経費の概算

検討ルートにおける事業費・運行経費の概算

➍課題が多く、中期的にはBRT、長期的にLRTへの移行を検討
 ただし、「既存路線バスや道路環境への影響、費用対効果など全市的な大きな課題があり、事業進めるためには、事業の難易度が高く、短期での整備・実施は困難」であるものの、「BRTの方が柔軟な対応が可能であることから、中期的にはBRTについて検討を進め、長期的にはLRTヘの移行を検討する」とまとめています。
➎公共交通ビジョンの中で再整理
 可能性調査のまとめは、いわば、すべて検討課題で、これから策定する公共交通ビジョンの中で改めて検討を深めるというものです。

【資料】新交通システム導入可能性調査結果(素案)本編 (長野市交通政策課のページ)
    新交通システム導入可能性調査結果(素案)概要版(長野市交通政策課のページ)

★勉強会で出された質問や意見は次の通りです。

●既存の公共交通をどう活かすのか、既存の公共交通をにどんな強化が必要なのかといった視点から公共交通のあり方を考えるべきでは?バス交通を中心に整備されてきた市内の公共交通網にゾーンバスシステムやオムニバスタウンを導入することを考えるべきでは?。
●導入の可能性を検討することに異論を唱えるわけではないが、検討のきっかけは屋代線の廃止にある。長野五輪時のPTPS導入の経験が活かされていない。
●新交通システムの検討ルートにある沿線住民の意向調査を事前に行うべきでは?。
●どんな“まち”にしたいのか、イメージできない。LRTの導入は都市計画上もイメージできない。
●多数決で廃止した屋代線の総括が必要だ。廃止ありきでミスリードしたことを誤りとすべき。その上で、長野市域の公共交通網のあり方を考えるべき。
●長野市の公共交通ビジョンは、公共交通の福祉的役割を打ち出すとともに、利用促進や自動車規制など、課題の域ではあるが実現に向けた方向性が示されている。県の新総合交通ビジョンよりも良いものになると受け止める。
●本来ならば、公共交通ビジョンがあって、その中に新交通システムをどう位置づけるのかといった整理になるべきではないか。新交通システムの必要性がイマイチ理解できない。

 市側は「あくまでも導入の可能性の調査であって、導入が目的ではない。可能性を踏まえ、新交通システムをどう活かすかが問題であることは認識している」「“中期的にBRT”としている点で、中期的とは5年から10年のスパンとなる。公共交通活性化協議会で今年度、市民や利用者のアンケートを予定している」「“まちづくり”という視点は、ビジョン策定の過程で論議される」と応えました。
 また、こうした検討は、「議会が請願を全会一致で可決したことが発端」と強調するのですが、当時の議会の審議を振り返ると違和感が残ります。そもそもは廃止を決定した屋代線跡地の活用でLRT導入を検討してほしいというのが原点だった請願だからです。議会多数派の思惑が交錯し、全市的に新交通システムの導入を検討する内容に変わってしまった経過があったことと、犀南地区の住自協が揃って請願したことを重く受け止めたということです。

 私は進行役だったため、質問はしないで、もっぱら聞き役に徹した勉強会でした。
 参加者には、具体的にイメージできず、フラストレーションが高まったのかもしれませんが、交通産業に関わる現場の皆さんには、真剣に受け止め考えてもらいたいものだとも思います。

 「可能性調査」としながら、可能性の有無が読み込みにくい、卑俗に言えば「回りくどく、歯切れの悪い可能性調査」というのが第一印象です。「便利になるかもしれないけど、こんなに事業費がかかり、運行経費もかかるのであれば考えてしまう。既存のバスや鉄道の公共交通網の利便性を高めるために投資した方が現実的ではないのか」といった意見が多く出てくるように思います。
 より具体的に言うと、「バス専用レーン・優先レーンを拡大し、PTPS(公共交通優先信号)を導入し、速達性・定時性の向上を図る」「自動車の流入規制を社会実験するとともに、公共交通への利用転換を政策誘導する」といった施策展開がより現実的ではないかと受け止めています。
 しかし、シンボリックな交通システム(端的には路面電車であり連節バスということになりますが)が、まちづくりとまちの活性化につながることは期待されます。最後は、費用対効果を見極めるということでしょうか。
 いずれにせよ、公共交通ビジョン策定の過程で、更に練り込まれていくものになりますから、そこが山場と考えてよいでしょう。

 さて、翌日の31日は、市議会の公共交通対策特別委員会が開かれ、新交通システムの導入可能性について市から改めて説明を受け調査しました。
 「夢を夢に終わらせない視点」「費用対効果と市民にとっての必要性」「自動車から公共交通への利用転換と利用促進策の重要性」が論点になったものと受け止めています。しかしながら、全体的な議論は、可能性についての吟味というより、公共交通ビジョンのあり方・内容につながる視点での議論になってしまうように感じます。論点整理が必要です。

 私は、➊審議会で交通事業者や公募市民からどのような意見が出されているのか、➋新たな南北交通軸の設定が都市計画マスタープランの見直しにつながるのか、➌南部にサッカースタジアム、北部にレクリェーションパークといった新しい施設ができるが南北交通軸とどのようにリンクし、人を運ぶ計画となるのか、➍五輪時のPTPS装置の利活用は可能なのか、➎実際に可能性があるとしているルートは長野駅東口~善光寺間のLRTとBRT、長野駅東口~若槻団地のBRTという理解で良いのか、などの点を質問しました。

 交通事業者からは「既存の公共交通網の利便性を高めてほしい」との意見があったこと、都市マスの見直しは必要に応じて、サッカースタジアムは当面シャトルバス運行で、レクリェーションパークは既存の交通利用で、当時のPTPS装置は残っておらず、装置的にも技術的にも活用は困難、採算性を考えての可能性は指摘の通りであると答えが返ってきました。

 6月14日に改めて委員会で意見集約を行うことになりました。

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