長野県では今、「新総合交通ビジョン」の策定に取り掛かっています。ビジョンはリニア中央新幹線の開業を見据えるとともに、少子高齢社会における地域の足を公共交通がどのように支えていくべきか、将来の県内交通体系のあり方をまとめようとするものです。
19日、この長野県新総合交通ビジョンの「検討委員会」委員長を務める黒川洸(くろかわ・たけし)氏を講師に招き、「公共共通の今後のあり方」をテーマに学習会を開きました。県交通運輸労組協議会や県労組会議、国労、社民党などでつくる長野県公共交通対策会議が主催したもので、私鉄やJR、運輸関連の労組代表者や自治体議員など60人余りが参加しました。
講師の黒川氏は、一般財団法人・計量計画研究所代表理事で、筑波大学と東京工業大学の名誉教授も務めていらっしゃいます。
黒川氏は、今後の公共交通を考える重要な視点は少子高齢社会と地球温暖化対策にあるとした上で、“初期投資を含めすべての費用を運賃収入で見合うもの”が公共交通事業であるとする従来の国の方針の転換が求められていること、そのためにも公共セクターの積極的な関与により公共交通の維持存続、拡充が問われていると述べました。
興味深かったのは、宮城県仙台都市圏のパーソントリップ調査から、少子高齢社会の具体と公共交通政策に求められるターゲットに関する指摘です。
一般的に少子高齢社会では高齢者が増え、自動車を利用できなくなる層が増えるから公共交通が支えなければならないとされているわけですが、少子高齢社会の具体的な特徴は、単独世帯の増大であり、単独世帯の自動車保有率は極めて低いことから、単独世帯の移動を支える公共交通のあり方を柱に考えるべきであるとの分析です。
交通政策に限らず、政策の一般的な対象は夫婦と子ども世帯(標準4人世帯)を基準に考えられているが、これは誤っているとの指摘です。なるほど!と思いながら聴きました。公営住宅政策にも活かされる視点です。
仙台都市圏のパーソントリップ調査(H17年)では、仙台市において単独世帯が38%を占め、夫婦のみ世帯の17%とあわせ55%に上り、夫婦と子供世帯は28%、一人親と子の世帯8%、その他世帯が9%だったそうです。そして、単独世帯の自動車保有率は、0.15台(単身高齢者世帯)から0.63台(単身他世帯)で、単身高齢者世帯では7人の内6人は自前の交通手段を持たないという結果です。
仙台市は政令市であり、かつ学生が多いという事情もありますが、宮城県全体でも単独世帯29%、夫婦のみ世帯が17%で計46%を占めますから、単独世帯の増大という傾向には蓋然性があるといえます。従って、交通政策の対象には単独世帯をベースに位置づける必要があるということになるわけです。
また、鉄道不便地域の高齢者は、生活行動が低下する(外に出かけない)傾向が顕著であること、郊外で生活では「住まいや庭のゆとり」には満足度が高いものの、「住みやすさ」の満足度では反比例し、低くなる傾向にあることも紹介されました。こうした傾向はパーソントリップ調査からの一般的な傾向となっているものですが、改めて確認しました。
いずれにせよ、少子高齢社会の中身をしっかり検証すること抜きに、将来のあるべき公共交通の姿は見えてこないということです。興味深い指摘でした。
公共交通網の整備という側面からだけではなく、例えば中山間地域にスーパーやコンビニと提携し、食料品等の販売網を整備する(一部、宅配サービスとして展開されているものですが)など、中山間地域の生活を支える仕組み作りも併せて検討すべきではないか、通院や薬の問題は残るが法改正も視野に入れた議論検討が必要ではないかとの指摘も重要です。
富山市のライトレール整備事業では、富山市長の弁を用い「公共交通が赤字でも、税金を投入することで高齢者が街に出かけ健康が増進され、結果として医療費が低くなるとするならば、いいではないか。税金のトータルな使い方の問題」との指摘も重要です。
「公共交通にどこまで税金を投入するかは慎重な検討が必要である」との考えを示す首長が多い中にあって、公共交通を軸としたまちづくりの総体的な効果、トータルな自治体経営という観点からのアプローチも必要です。
学習会では、飯田・下伊那地区における広域での公共交通確保、中山間地域・木曽町におけるコミュニティバスの運行、長野以北・並行在来線の課題、タクシー業界の現状、県議会の「改革・新風」会派で実施した県内市町村の地域公共交通アンケートのまとめなど、県内各地の地域公共交通の現状と課題について報告も行われました。
私からは、長野市における新交通システム導入調査の現状と課題、公共交通利用転換への政策誘導策の実現をテーマに簡単に報告しました。
この日、県公共交通対策会議としての「長野県新総合交通ビジョン策定」に対する提言素案を発表しました。
黒川委員長からは、ビジョンの素案づくりに活かすため、早期に提出してもらいたいとの“ありがたい助言”もあり、週明けにも対応することにしました。因みに県知事にはビジョン策定に向けた提言を11月21日に行う予定です。
対策会議としての「提言素案」は、別途紹介し、ご意見を賜りたいと思います。
新交通システムの導入や長野市版公共交通ビジョンを検討する長野市にあって、新規にパーソントリップ調査を行うべきと提案してきていますが、それはそれとして、長野都市圏で行われたパーソントリップ調査(H13年実施)の結果を改めて検証し、足らざるところを補うことが求められます。