災害時におけるアスベスト対策の教訓を学び合う…市行政、専門家交えシンポジウム

9月3日、長野市をはじめ県内東北信に甚大な被害をもたらしたR元年(2019年)10月の台風19号災害における被災家屋のアスベスト(石綿)対策に取り組んできた県アスベスト対策センター(鵜飼照喜代表=信大名誉教授)とNPO法人東京労働安全衛生センター(平野敏夫代表理事)は共催で「台風19号災害におけるアスベスト対策に学ぶ」報告・シンポジウムを市営長沼体育館で開きました。オンラインを含めて60人の皆さんに参加いただきました。

独立行政法人環境再生保全機構地球環境基金の助成金を受けて開催したもので、長野市の後援もいただき、全面的にご協力いただきました。ありがとうございました。

環境基金の助成団体として登録しているアスベストリスク・コミュニケーション・プロジェクトから、熊本学園大学の中地重晴教授、立命館大学の南慎次郎講師ら専門家や、県外の市民団体の皆さんにも足を運んでいただきました。

後日談になりますが、県内市町村の環境保全担当者、災害・危機管理担当者に広く参加を呼びかけることも必要だったと話しているところです。

パネラーの皆さんには、それぞれ課題を体系的にまとめていただき、教訓を共有化できたと思います。今後の取り組みにしっかり活かしていきたいと思います。

9月4日付信濃毎日新聞の報道より

アスベスト(石綿)とは

アスベスト(石綿)は天然鉱石です。安価で、耐火性、断熱性、防音性、絶縁性など多様な機能を有していることから、耐火、断熱、防音等の目的で多くの建材に使用されてきました。

現在は製造・使用が禁止されていますが、高度経済成長期から1995年ごろまでに建築された住家を含む建造物に使用されてきています。

問題はアスベストの粉塵を吸い込むと30年から40年後に肺がんや中皮腫などを引き起こすことから「静かな時限爆弾」といわれ、健康被害を防ぐことが大きな課題となっています。アスベストによる健康被害に対する補償を国や建材メーカーに求める建材アスベスト訴訟が全国各地で争われ、社会問題となっています。

アスベストによる健康被害に関する情報や、アスベストにより中皮腫又は肺がんにかかった方、及び、アスベストによる中皮腫又は肺がんに起因して亡くなった者の遺族の方が、救済給付を受けるための手続きや、給付の内容等。

台風19号災害時の経験からアスベスト対策の重要性を再確認

県アスベスト対策センターでは、災害の復旧にあたり、被災家屋等に使用されているアスベスト含有建材の破損・解体等により発生するアスベストの飛散・ばく露を防止し、よって重大な健康被害を防ぐため、災害ボランティアの皆さんへの注意喚起や防じんマスクの提供等の対策をはじめ、公費解体・自費解体におけるアスベスト含有建材等の分別、飛散防止策の徹底等を市に要望するとともに、公費解体現場の調査にも取り組んできたところです。

今日、大雨による甚大な災害が相次ぎ、被災からの復旧過程におけるアスベスト対策が喫緊に求められています。また、老朽化した建築物の解体・更新がピークを迎えようとする中、吹付や建材に含有するアスベストの飛散・ばく露による健康被害の発生が危惧されます。

今回のシンポジウムは、災害時のアスベスト対策について、長野市行政や被災住民の取り組みを振り返り、教訓や課題を出し合い、対策の必要性を再確認するとともに、全国に広げていくことが狙いです。

アスベスト対策センター・鵜飼さん…健康被害に備え、災害時ボランティア台帳の作成を

シンポジウムでは、まず、県アスベスト対策センター代表の鵜飼照喜さんが、市へのアスベスト対策の要望や現地調査などの取り組みを報告。復旧・復興に携わったボランティアの中には災害ボランティアセンターを経由せず、被災者の知人、友人という立場で直接現地支援に入る人が多くいたこと等を踏まえ、災害ボランティアセンターを経由するボランティア、経由しないボランティアを含め、「健康被害が出た場合に備えて活動記録を保存、管理しておくことが重要」と指摘、「ボランティア台帳」のような仕組みを作り、申告制で支援活動の記録を市町村で保管することができないか」と提案しました。

12月23日、長野県アスベストセンター(代表=鵜飼照喜・信州大学名誉教授)の台風19号被害建築物等のアスベスト調査に同行、災害廃棄物の仮置場...

長野市行政・桑原さん…平時からのアスベスト対策準備が大切

長野市の当時、環境部・環境保全温暖化対策課でアスベスト対策に取り組んだ桑原義敬さん(現・水道局浄水課課長補佐)さんは、被災地でのアスベスト飛散防止対策を振り返り、対策センターの要望から災害ボランティアへの防じんマスクの配布や被災住民・災害ボランティア・解体事業者へのアスベストリスクに関する情報提供、公費解体・自費解体現場への立入り調査の実施などの取り組みを報告。解体現場では、アスベスト含有の軒天井スレート板が分別されずにフレコンバッグに混在保管されていたり、湿潤化せずにバールで解体撤去されていた不適切な事例を指摘、改善指導してきたと説明しました。

大規模災害の経験を踏まえた課題として「平常時における準備が大切」と指摘、災害時のアスベスト飛散防止の手順書の作成や飛散調査に関する業界団体との協定締結、専門技術職員の派遣制度の重要性を強調しました。

長沼地区被災者代表・西澤さん…災害廃棄物対応、泥縄式はダメ

R2年度の長沼地区住民自治協議会会長(赤沼区長)を務め、災害廃棄物仮置場となった赤沼公園で災害ゴミの処理にあたった西澤清文さんからは「被災者から見た災害廃棄物処理の課題」について特別報告をいただきました。

発災当時、次々に赤沼公園に運び込まれる災害ゴミの分別管理(9分別から6分別に)に追われ、アスベストの危険性は理解していたものの、初動時から仮置き場におけるアスベストの分別管理の徹底に関する行政からの十分な情報提供がない中、適切なアスベスト対策への余裕がなかった実態を報告。

また、長沼地区では必要に迫られ住民主体で私有地の空き地を「勝手ゴミ置き場」に設定し災害廃棄物対応にあたらざるを得ず、11月22日に市の指定仮置場となるまで、いわば自主管理で対応せざるを得なかった実態も指摘、非常時における行政の責任と市民との協働の在り方についても問題提起しました。

災害廃棄物の地元対応の教訓として、「非常時には行政には限界があり、地域力が試される」と指摘、「災害廃棄物対応も泥縄式ではなく、行政と市民の協働をベースに平時から備えることが大切」と強調し、災害ゴミの9分別(環境省)対応について、「アスベストと家電リサイクル対策を含む統一したチラシができないか」と提案しました。

報告にあたり西澤さんにまとめてもらった「災害廃棄物対応経過と実態」は、市行政・長沼災害対策本部・各区・被災住民ごとに時系列で整理いただいたもので、発災直後からの廃棄物処理対策の課題が浮き彫りになる資料です。貴重な資料となりました。

東京労働安全衛生センター・外山さん…災害前・時・後の一貫した石綿対策へ

労働安全衛生コンサルタントを務め、阪神淡路大震災からアスベスト(石綿)対策に取り組んでいるNPO法人東京労働安全衛生センターの外山尚樹さんは、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災で、アスベスト関連法規の周知徹底の不十分さが災害時に露呈したとし、不達の大震災を通して、ようやく吹付石綿対策や解体時の対策の重要性が認識されるようになり、2016年の熊本地震で、同年6月に環境省から「被災建築物の解体工事にかかるアスベスト対策の強化」が発出され、熊本市ではASA(建築物石綿含有建材調査者協会)と行政の連携で石綿含有建材の調査、仮置場・解体現場での調査・監視が実施されるまでに至ったと報告。

2017年には、「災害時における石綿飛散防止に係る取扱マニュアル」が改訂、現在、さらなる改訂が検討されているとのことです。

平時における建物調査(データベース化)、災害時ではデータベースに基づく調査、避難所・支援拠点の安全確認、被災後の災害廃棄物の収集・集積・分別の工夫、建物解体の発注者である行政の責任、支援と監視など、災害前・時・後の一貫した石綿対策の重要性を強調しました。

防じんマスクの着用、顕微鏡でアスベスト観察…ワークショップも

シンポジウムの後、全参加者で防じんマスクの適切な着用方法を体験、さらに簡易顕微鏡でアスベスト含有建材を観察し識別するワークショップも行われました。皆さん、興味津々で顕微鏡をのぞき込んでいました。

中地教授がまとめ…長野の経験を国・自治体への提言に結びつけたい

締めくくりに熊本学園大学の中地教授は「大変貴重な報告・提案をいただいた。災害時におけるアスベスト対策の必要性・重要性をしっかり広げていきたい。シンポジウムの成果を国や自治体への提言に結び付けていきたい」と述べました。

前日には被災現地でヒアリング

また、シンポ前日の2日には、主催者の面々で長沼地区を訪れ、長沼住自協の西澤さんに案内をいただきながら、千曲川堤防決壊箇所をはじめ、災害廃棄物の勝手置場・仮置場となった赤沼公園、公費・自費解体後の住家の再建状況を現地調査。

被災現場を視察後、長沼支所で、長野市環境部の職員、地元住自協の代表、災害ボランティアセンターを運営した市社会福祉協議会の代表らからヒアリングを実施、有意義な意見交換をすることができました。

長野市には、事前にお願いしたヒアリング項目に沿って、丁寧な回答をいただきました。

◆守田神社跡地で、浸水の高さを示す ◆堤防決壊箇所から
◆妙笑寺の水害水位標 ◆復興再建された赤沼公園
◆長沼支所・交流センターでヒアリング

SBC・信越放送の報道より

長沼体育館の裏空き地でアスベスト混入の再生砕石見つかる

さいたま市から参加された「エタニット(石綿セメント管)によるアスベスト被害を考える会」の斎藤さんから、「長沼体育館の裏空き地でアスベストが混入している再生砕石を発見した」と報告いただきました。

◆長沼体育館裏(千曲川側)の空き地 ◆使用されている再生砕石

再生砕石とは、建築物の解体等に伴い発生するコンクリート塊やアスファルト・コンクリート廃材を破砕し粒度調整したリサイクル材です。そのほとんどが中間処理業者により生産、販売されています。再生砕石は強度的に弱いので主に路盤材として道路、駐車場等に使用されているものです。

再生砕石へのアスベスト混入問題は2010年に斎藤さんらが中心になって問題提起し、2010年8月6日の東京新聞に大きく報道され、以後、再生採石アスベスト問題の関心が高まっているとのことです。私は不勉強で問題を知りませんでした。

アスベスト|中皮腫などの労災・裁判手続きや建材について無料相談

同年9月には、国土交通省、環境省及び厚生労働省の三省で、再生砕石へのアスベスト含有建材の混入防止の徹底について、都道府県と産廃処理業者に指示、調査が行われています。

国土交通省のウェブサイトです。政策、報道発表資料、統計情報、各種申請手続きに関する情報などを掲載しています。

建設リサイクル法の規制をかいくぐり、アスベスト混入の再生砕石が市場に出回っているということになります。体育館裏の空き地は子どもたちも使用することが想定され、対応が問われます。

長野市環境部も関心を示しており、体育館工事を発注したスポーツ課と情報共有し対応方を検討したいとしています。

私自身も再生砕石へのアスベスト混入問題について調査をすすめ、市としての対応如何を求めていきたいと考えています。

市民のためのアスベスト対策ガイド

NPO法人東京労働安全衛生センターで発行している「市民のためのアスベスト対策ガイド」です。アスベストって何?」から始まり「アスベストはどんなところに使われているのか」、そして「健康被害を防止するための対策ガイド」が盛り込まれています。是非、ご一読ください。

クリックしてasbestosguide.pdfにアクセス

平時から如何に備えるのか。環境省の「災害時における石綿飛散防止に係る取扱マニュアル」の改定状況をチェックし、長野市が作成中の「災害時のアスベスト飛散防止の手順書」の確認、固定資産台帳や建築確認申請等を利用した建物データベース化など、課題解決に向け、さらに取り組みを進めたいと思います。

★なお、シンポジウムの報告資料等、必要な方は私宛メールでご連絡ください。お送りします。PDFですが、重すぎてブログにアップできませんので…。

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