水道法の改正を踏まえ、水道事業の広域化の検討が急ピッチで進んでいます。
県企業局が主導する「上田長野地域広域化研究会」は、安全・安心な水道水を将来にわたり安定供給するために、経営の基盤強化を図る観点から「水道事業の広域化に取り組むべき」とし、「広域化の形態」については、県及び関係4市町による「事業統合」方式(新たな事業団をつくるか、或いは県企業局に一本化する方式)が最も大きなメリットを得られるとの検討経過を発表し、年度内に「広域化の方向性報告案」を取りまとめるとしています。
*掲載資料は長野市上下水道局がまとめた「上田長野地域水道事業広域化研究会における検討経過報告」より抜粋。
市水道と県水道が共存し水道料金が異なる長野市民にとっては、水道料金の一元化を図る観点からも、広域化の検討は避けて通れない課題といえます。
効率化の経営的視点だけでなく、住民の視点に立った検討を
しかし、長野~上田間で広域的に「事業統合」する方式のメリット、デメリットが定かではありません。
人口減少に伴い事業収入が減る一方、老朽化が進む水道施設の大量更新に迫られている中、安全・安心な水を供給し続けるために、広域化により新しい仕組みを模索することは是とします。しかし、スケールメリットで事業の効率化を求める経営的視点だけでなく、料金をはじめ公共サービスの受益者である地域住民の視点に立った検討が求められること、市民・住民の合意形成が不可欠であることは言うまでもありません。
「広域化研究会」における検討状況について、広域化による整備・維持管理費の削減や水道料金の見通し、災害時への対応、下水道事業への波及などを質しました。
Q&Aの答弁は上下水道局長です。
50年で160億円の削減試算、財政シミュレーションの中で効果を確認
(厚生労働省による上田長野地域の水道施設の最適配置計画において)今後50年間で整備・維持管理費を約160億円削減できるとの試算結果が示されているが、どのように検証されているのか。
最適配置計画では、上田から長野までを一体と捉え、上田長野間の高低差を利用した主要な浄水場の配置と運用、稼働率の改善、浄水場の統廃合を検討しその効果を試算したもの。この試算は圏域全体のメリットを把握するため、4事業体それぞれの既存の整備計画及び施設状況を下に、それを合算し行ったものであり、現在作業を進めている財政シミュレーションでは、施設整備基準などについて統一した上で実施をしていく。この財政シミュレーションにより広域化の効果を確認することができるものと考えている。
県は長野圏域と上田圏域を一つの圏域として設定
県では2022年度までに圏域ごとの広域化推進プランを策定する。(上田・長野間という)圏域をまたぐ検討が先行するが長野圏域における広域化検討の行方とどのように連動するのか。
県においては、平成29年3月に策定された長野県水道ビジョンで上田圏域と長野圏域を一つの圏域に設定しており、4月12日に3市1町から長野県知事へ要望したとおり、研究会の検討結果を中核的な取組として反映し、広域化推進プランを策定すると伺っている。
広域連携で将来の負担軽減に期待
県の「広域化推進プラン」において、受益者である県民にとって負担格差が解消されるのか。
広域化推進プランは、水道事業者間が連携することで事業規模の拡大や経営の効率化を図り、広域連携の取組を進めることで、将来の費用負担の軽減などの効果が期待できる。
災害時、ハード・ソフト両面で対応可能に
上田長野間の送水幹線の二重化などのハードの面と、広域化により一定数の職員が確保されるとともに技術継承が図られるといったソフトの面の両面での対応が可能であると考えている。
水道料金は財政シミュレーションの中で検討
関係自治体の水道施設の更新化・長寿命化計画に隔たりがある中、水道料金の過度な引き上げにならないのか。
水道料金は、今後、人口減少による料金収入の減少が見込まれ、将来的に料金の値上げは避けられない。作業を進めている財政シミュレーションでは、事業統合した場合の料金についても併せて検討していく。
長野市では下水道事業についても調査・検討に着手
下水道事業については研究会において検討は行っていないが、上下水道局において、仮に水道事業が広域化された場合の下水道事業の実施体制などについて調査・検討を始めている。今後、検討の進捗に合わせて、その作業を進めていく。
「経営一体化」方式より「事業統合」方式に利点多く、最も効果ある
検討会が行う財政シミュレーションは「事業統合」のみではなく「経営の一体化」方式も含めて行われるべきと考えるがいかがか。
広域化研究会における財政シミュレーションは、事業統合により広域化した場合と単独で事業を続けた場合について比較検討することにしている。経営の一体化の場合、事業間で水運用を行うためには、この地域においては新たに用水供給事業を立ち上げる必要があり、事務量の増加などの課題がある。事業間で水運用を行わない場合は単独で事業を続けた場合と大きな差異はない。
これに対して事業統合の場合は、水運用を一体的に行うことができることにより建設事業費に抑制が図れるなど、経営の一体化に比べて利点が多く、最も効果があると考えられることから、比較対象として詳細に検討を行うことにしている。
広域化の方向性最終案をもって市民に説明の場を設けていく
市民に対し、メリット・デメリットを詳しく丁寧に示し、十分な意見反映が保障されることが不可欠。長野市民に対し、今後、速やかに支所単位・行政区単位の説明会と意見反映のもとで理解を広げ合意形成を図るべきと考えるがいかがか。
今年度内に広域化の方向性について案がまとまり、事業統合などの広域化の効果が示された場合、その方向性の案を持って、市民・利用者、議会に対して、できるだけ多くの説明の場を設けていきたい。長野市内の水道には長野県企業局と長野市上下水道局の2つの給水事業があり、市民・利用者への説明については県企業局とも協力して行っていく。
コンセッション方式の導入=民営化は考えていない
水道法改正のもう一つの柱である「コンセッション方式の導入」=民営化に関し、研究会で検討されているのか。コンセッション方式では、民間事業者が運営権と料金徴収権を保持することから、市民の大切な生活インフラである水道を、利益重視の競争原理にさらしてしまうことになる。2018年12月議会の私の質問に対し、上下水道事業管理者は「水道に関する技術を職員が継承し、組織の中で技術力を高めて行くことを重視しており、水質等の安全性の確保や災害時等のリスク対応力といった観点から、現時点では直ちにコンセッション方式導入の検討に入ることは考えていない」と答弁してきた。11月に開かれたシンポジウムでは「広域化は官民連携と一体」との考えが強調されている。長野市として、民営化はしないとの考えに基づき一貫した対応を求めるがいかがか。
水道法の改正において、水道事業の基盤強化を図る手段として広域化の推進、官民連携の推進などが挙げられたが、本市ではコンセッション方式の導入について検討することは考えていない。また、研究会においてコンセッション方式の導入を検討した経緯はない。将来にわたって安全・安心な水の供給を安定して継続していくための基盤強化をいかに図るか。そのための方策として広域化を検討しているものである。
水道法改正に盛り込まれた「コンセッション方式の導入」=民営化について、「考えていない」との基本姿勢は評価するものです。
一方で、様々な課題に関する広域化研究会における検討状況については、これからの「財政シミュレーション」次第といった現状にあります。特に市民の大きな関心事となる水道料金については、「負担軽減に効果を期待する」との期待感の表明にとどまっていることが気がかりです。
年度内に示される「財政シミュレーション」の結果を詳細に吟味し、対応を図っていきたいと考えます。