最高裁…建設アスベスト訴訟で国と建材メーカーの賠償責任認める
最高裁判所は5月17日、建設現場でアスベストを吸い込み、中皮腫や肺がんなどアスベスト関連疾患を患ったとして、元従業員と遺族が訴え4件の建設アスベスト集団訴訟(横浜・神奈川・東京・京都・大坂)で、国と建材メーカーの賠償責任を認める判決を言い渡しました。
13年前から争われている全国の集団訴訟で初めてとなる最高裁の判決を受けて、政府が示す和解案を原告側も受け入れる方針を明らかにし、被害者の救済が前進することになりました。和解内容は国が原告に最大1,300万円の和解金を支払うことが柱です。
初の提訴から13年、同様の集団訴訟は全国の裁判所に相次いで起こされ、原告は1,200人余りに上っています。
国と建材メーカーに賠償を求めた集団訴訟は、2008年(H20)から全国の裁判所に相次いで起こされ、原告は1,200人余りに上っています。
最高裁判決は、「国は、昭和50年にはアスベストを使う建設現場に危険性があることや、防じんマスクを着用する必要があることを指導監督すべきだった。アスベストを規制しない違法な状態が昭和50年から平成16年まで続いた」と指摘し、国の賠償責任を認めたものです。個人で仕事を請け負う「一人親方」についても「人体への危険は労働者であってもなくても変わらない。労働者にあたらない作業員も保護されるべきだ」と指摘し、国の責任を認めました。
一方で、屋外作業者に対しては、国と建材メーカーの責任を否定する不当な判決となりました。また、一部の建材メーカーの賠償責任も認めましたが、メーカーごとの責任の範囲や賠償額については、高裁で審理し直すよう命じ一部の原告はさらに裁判が続くことになりました。
全面的な被害者救済にはまだ遠いといわなければなりません。
アスベストによる健康被害をめぐっては、建設現場で働いていた500人から600人が毎年アスベストが原因の病気で労災認定を受けていて、健康被害を訴える人は増え続けるとみられています。さらに、当時建設された建物の老朽化が進んでいることから、これからアスベストが使われた建物の解体が増えて被害者はさらに増加することが危惧されています。
➡国は、メーカー側にも強く働きかけて全面救済を急ぐとともに、アスベストを使った民間建築物の解体にあたり、解体作業に従事する労働者、そして住民の安全確保に向けた取り組みが強められなければなりません。
災害復旧・公費解体におけるアスベスト対策の「今」
こうした中、アスベストによる健康被害の相談などに取り組む「長野県アスベスト対策センター」(代表=鵜飼照喜・信大名誉教授)の総会が5月22日に開かれ、私から「台風19号災害におけるアスベスト対策の現状と課題」について報告しました。
昨年10月の同センターの幹事会に続く2回目の報告です。
私は、一昨年の被災以来、災害復旧・復興過程でボランティアや解体業者の労働者がアスベストを吸い込み、30年から40年たって健康被害を発生さないために、同センターと連携し、被災家屋の土砂撤去や整理にあたる災害ボランティアのアスベスト用防塵マスクの提供体制の確立(20年2月からDS2防塵マスクを無償配布)と危険の周知(ボランティアや業者、被災住民にチラシ配布)や、公費解体や自費解体におけるアスベスト対策の徹底を求め、現地調査や県・市に対する要望申し入れに取り組んできました。
アスベスト含有廃棄物722トン、アスベスト含有建材使用率は件数で47.5%に
台風19号で被災した半壊以上の住宅や事業所などを所有者に代わり市が解体する公費解体は、その申請を5月28日で終了させると発表しました。
これまでに、公費解体では556件を受け付け、5月20日現在486件で解体済、自費解体では受付を終了した1月末までに259件の償還(費用弁償)が終わっています。
アスベスト含有建材は広く使用されていますが、健康被害の危険度の高い「レベル1」とされる「吹付アスベスト」等を使用した被災建物はないとされ、ほとんどが「レベル3」の石膏ボードやスレート板などです。
それでも、2020年度末までの分別回収量は公費解体で633トン、自費解体で89トン、計722トンに上ります。
公費解体では、20年度末までの解体済建物440件のうち、アスベスト含有建材(疑わしきを含む)を確認したものは209件、47.5%にも及び、アスベスト含有建材使用率(*)が極めて高いことが浮き彫りになりました。
*件数で換算した率。1件には複数の棟があることから、解体棟数で率を検証するなど、さらに検証が必要。
解体だけでなく補修・修繕への対応、これからの老朽化建物の解体・改修への対応においても、十分な注意喚起と安全対策の徹底が問われることになります。
258件へ立ち入り調査、法令違反による指導35件に
環境部環境保全温暖化対策課では、2020(R2)年3月から施行している「被災家屋の公費解体及び自費解体における『石綿含有成形板等(レベル3)』の飛散防止対策のための立入調査の実施」に基づき、立入調査を行ってきています。
2021年3月末までに、公費解体では24回208件、自費解体では5回50件を実施し、石綿に関する事前調査の不備(4件)や、石綿に関する掲示板の未設置・情報不備(16件)、石綿含有建材の取り残し(5件)、石綿含有廃棄物を収納した袋に掲示なし(10件)など、計35件の石綿に関する行政指導を行いました。
事前調査で疑わしきを含めアスベスト含有が確認された建物を重点とした抽出立入調査です。担当課の労には敬意を表するものですが、調査の網をすり抜けていることも想定されますから、法令違反状況は指導件数を超えているものと推察されます。
市担当課では、本年4月からの大気汚染防止法の改正一部施行を踏まえ、全ての公費解体施工業者を対象に、原則月1回の立入調査を行うとしています。
アスベスト被害による遺族が体験談
当日のアスベスト対策センターの総会では、アスベスト被害で夫を亡くされた市内在住のSさんの体験談をお聴きしました。
Sさんのご主人は内装業を営み、30年余にわたり石綿を含んだ石膏ボードの張替えや鉄筋への吹付に従事、2018年11月に体調の異変に気付き、医療機関を受診したところ、肺がんに加え、石綿を吸引した人に見られる特有の病変「胸膜プラーク」が判明、石綿が原因と診断されたそうです。
「一体どうすれば…」と戸惑う中で、県アスベスト対策センターの相談窓口をテレビで知り相談。同センターの専門スタッフの支援で労災認定にこぎつけ、抗がん剤や放射線治療などを無償で受けることができました。
しかし、苦しい闘病の末、今年3月に永眠されました。
つらい気持ちが癒えない中にもかかわらず、「一人では解決することができなかった。センターの皆さんの支援があってこそ。悲しい想いをする人を一人でも少なくするためにセンターの皆さんに頑張ってもらいたい」と話していただきました。ありがとうございました。
「アスベスト被害と裁判闘争」で弁護士が講演
また総会では、アスベスト被害の裁判に取り組む神奈川総合法律事務所の福田護弁護士がオンラインで記念講演。石綿労災基準による労災補償や公務災害補償の状況や裁判闘争の論点を指摘いただきました。
福田弁護士は「アスベストの危険性は早くから認識されていたにも関わらず、利便性・経済性優先のもと、高度成長期に石綿が多用され、30年から60年を経て、今日のアスベスト疾患の発症と死亡の激増という事を生んでいる。潜伏期間が長いため、証拠が散逸し、立証や責任追及が難しく、裁判には多大な労力が求められる。建設アスベスト訴訟の最高裁判決により、国の放置責任、建材メーカーの責任が明確になったが、屋外工や解体工は救済対象外とされた。国の基金創設による救済制度も、建材メーカーの責任の見通しは立っていない。建設関係以外の被害者の救済は今後の大きな課題」と強調しました。
市行政におけるアスベスト対策…決意新たに
「静かな時限爆弾」とされるアスベスト被害…アスベスト被害の実相を掘り起こし、被害者支援を本格化させるとともに、解体工事やリフォーム工事におけるアスベスト対策の強化を図っていかなければと決意を新たにするところです。
6月8日に公費解体でのアスベスト除去作業現場の実態調査を予定しています。