4月1日、長野市公契約等基本条例が施行されました。全面施行ではなく、後述する「労働環境報告書の提出」「労働者からの申出」「不利益取扱の禁止」等は、周知期間をおき10月施行となります。
長年にわたり制定を求めてきた条例で、昨年12月議会で市提出の案として可決されたものです。
市では、条例施行にあたり、「公契約等基本条例の手引き」をまとめるとともに、条例と施行規則の概要(基本のキ)を説明した動画を公開しました。前編、後編それぞれ約5分です。
長野市の条例は、公契約において、最低賃金以上の賃金下限額を独自に定める、いわゆる「公契約条例」ではなく、公契約にあたり労働者の労働環境の向上等を図ることを目的とする理念条例です。
条例の目的は公契約等の公正性・競争性・透明性を向上させ、市民に良好な公共サービスを提供するとともに、公契約に従事する労働者の賃金や労働環境の向上を図ることです。
そのために、元請けと下請業者との対等な立場での合意に基づいた契約を求め、下請業者に至るまで、適正な労働環境が確保されるよう、賃金などの労働条件や安全衛生に関する「労働環境報告書の提出」を義務付けるともに、法令違反等の疑いがある場合には、労働者が市に申出ができる仕組みを設けています。公契約に携わるすべての労働者が対象で、一人親方や派遣労働者も含まれます。
法令に違反するときは、監督官庁に通報するとともに、労働環境等の是正勧告に応じない場合は指名停止及び公表するとします。
「労働環境報告書」は、予定価格1億円以上の建設工事請負契約と予定価格1,000万円以上の業務委託契約、1,000万円以上の指定管理協定が対象で、元受け業者がすべての下請け業者の労働環境状況を取りまとめ市に提出することになります。
課題は、「労働環境報告書」が労働実態を正確に反映するものになるか否かです。
全国的には、公契約を結ぶにあたり、最低賃金を上回る自治体独自の賃金下限額(例えば公共工事設計労務単価の90%)を設け、適正な賃金を確保しようとする条例が制定されています。建設現場の下請けでは、設計労務単価の63%の賃金しか支払われていない実態(県建設産業労働組合調べ)があります。
条例の理念・目的、仕組みなどの骨格について議論してきた「公契約検討委員会」では、賃金下限額の設定・導入について賛否両論があり、見送られることになった経過があります。
しかし、理念条例とはいえ、とても意義のある条例です。私が求めてきた「市独自の賃金下限額の設定・導入」は実りませんでしたが、大きな一歩前進です。
この条例が、建設工事にあっては元請け段階から下請け・孫請けの事業者のすべての労働者に適正な賃金の支払い等が行き渡るよう、また清掃や警備などの業務委託契約においては低賃金の常態化が打開できるよう、まずは運用をチェックするとともに、より実効性ある条例への見直しを展望したいと思います。
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