核兵器禁止条約が発効へ…唯一の戦争被爆国としての責任問われる

25日、中米のホンジュラスが批准したことで、核兵器の保有や使用を全面的に禁じる核兵器禁止条約が、発効に必要な50カ国・地域の批准に達しました。90日後の来年1月22日、史上初めて核兵器を非人道的で違法とする国際条約が発効します。

不参加の日本は、唯一の戦争被爆国として核廃絶に向けた姿勢を厳しく問われることになります。

日本政府は、米国の「核の傘」に依存する核抑止論に立ち続け、条約は核保有国が不参加のため実効性に欠けると説明しますが、唯一の戦争被爆国として「核兵器のない世界の実現」を真剣に目指し、条約の実効性を高めるためにも、参加へと政治決断することこそが求められます。

広島、長崎の被爆から75年の節目の年の発効決定。「核なき世界を」と国内外で訴えてきた多くの被爆者の尽力がありました。高齢化が進む被爆者の想いに応える時です。

➡原水爆禁止日本国民会議の声明文と社民党の談話を紹介します。

核兵器禁止条約発効確定にあたっての原水禁議長声明

原水爆禁止日本国民会議(原水禁) 議長 川野浩一

 10月24日、核兵器禁止条約(TPNW)を中米のホンジュラス共和国(Republic of Honduras)が批准しました。これにより批准した国・地域が50を超えて、2021年1月22日に発効することが確定しました。これにより核兵器を非人道的兵器・絶対悪と定める国際規範が成立し、世界は核兵器廃絶という希望へ大きく前進することとなりました。原爆投下の惨劇の中から生きることを選択した被爆者の強い思いと、日本の原水禁運動やICANなどの核兵器廃絶にとりくむNGOの様々な努力、そして核兵器に頼ることなく自国の安全と世界の平和を願う各国政府のとりくみの大きな成果です。原水禁は、条約発効の意味をしっかりと受け止め、様々な組織・人々とともに核兵器廃絶へのとりくみを進めることを改めて確認します。

 しかし、核兵器保有国、日本やドイツなど他国の核の傘の下にある国は、核抑止力を自国の安全保障の基本に据えて、条約に反対しています。本年10月2日に開かれた国連の「核兵器廃絶国際デー」で演説に立った、オーストリア代表の「核抑止力は安全をもたらすものではない。いいかげんにこの神話を葬ろう」との呼びかけに、核兵器保有国や保有国の核の傘の下にある国は真摯に応えるべきです。

 今年8月9日、長崎平和祈念式典後の記者会見で安倍首相は、核兵器禁止条約に触れ「わが国の考え方とアプローチを異にしている」として、改めて条約に参加しないことを表明しています。また、安倍政権を継承するとした菅首相は、9月26日の国連総会でビデオ演説し「積極的平和主義」に基づき世界平和に貢献するとしましたが、「現実の安全保障の観点を踏まえていない」として、これまでの政府の姿勢を基本に核兵器禁止条約には触れませんでした。安倍政権は、この間朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の核実験・ミサイル発射実験を脅威とし、また中国の南シナ海進出も含めて日本をめぐる安全保障の脅威を主張してきました。その上で、核抑止力をことさらに評価し条約批准が日米安保条約体制に矛盾するとの立場をとり、旧来の安全保障観を抜けることができません。朝鮮は、2002年のアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領の「悪の枢軸国」とされて以来、米国の圧力の下で核兵器保有を強行してきました。中国は、核の先制不使用宣言しており、両国の核兵器や戦力が日本へ向けられているとは考えられません。米国とともに、中国や朝鮮を仮想敵国として、ミサイル防衛の強化や敵基地攻撃に言及する日本政府の姿勢こそが、日本の安全を脅かすものと考えられます。

 原水禁は、連合、核兵器廃絶・平和建設国民会議とともに、「核兵器廃絶1000万署名」にとりくみ、日本政府に核兵器禁止条約の批准を求めるとともに、核兵器廃絶を訴えてきました。8月9日には、長崎において中満泉国連事務次長・軍縮担当上級代表に、823万を超える署名を手交しました。中満泉事務次長は、核兵器廃絶という目標は「日本も共有しているはず」として条約に反対する各国に対して「ドアを完全に閉めずオープンマインドで」と苦言を呈しています。

 米国は、イラン核合意を破棄し、そしてINF条約も破棄しました。来年2月には期限を迎える新戦略兵器削減交渉も、米露両大国の思惑が交錯し、先行きが不透明となっています。これまでの米露を中心とした核兵器削減の流れが止まろうとしています。中距離核戦力をめぐる米国とロシア・中国の対立は、日本への米軍中距離ミサイル配備や核弾頭配備の可能性も引き出しています。唯一の戦争被爆国としての国是である、核兵器をもたず、つくらず、持ち込ませずとする非核三原則に抵触する事態もおきかねない状況です。核兵器廃絶を、日本政府が主張するのであれば、核兵器保有国と非保有国の間に立って、核兵器廃絶への対話をつくりだす役割を果たさなくてはなりません。核兵器をめぐる状況がきびしい中にあって、日本に与えられた役割は大きいと考えます。今年の長崎平和祈念式典の平和宣言において、田上富久長崎市長は「核兵器の恐ろしさを経験した国として、1日も早く核兵器禁止条約の署名・批准を実現するとともに、北東アジア非核地帯の構築を検討してください。『戦争をしない』という決意を込めた日本国憲法の平和の理念を永久に堅持してください」と訴えました。戦後日本が、日本国憲法前文で誓った「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」のであれば、日本と世界の将来を見据えた議論を開始し、そのための努力を開始すべきです。

 原水禁は、核兵器禁止条約が発効したこの記念すべき出発点にあたって、平和を愛するすべての人々と、核兵器廃絶・平和構築にむけて、全力でとりくんでいくことを改めて確認します。

核兵器禁止条約の発効決定を歓迎する(社民党談話)

2020年10月25日

社会民主党幹事長 吉田忠智

1.本日、中米ホンジュラスが新たに核兵器禁止条約を批准し、同条約は、発効に必要な50に達した。核兵器の使用、開発、実験、製造、取得、保有、貯蔵、移転など幅広く禁止するとともに、核を使用するとの威嚇も禁止するものであり、前文には、核兵器の犠牲者(ヒバクシャ)や核実験被害者の「受け入れ難い苦痛や損害」に留意することが明記されている。こうした画期的な条約が、90日後の来年1月22日に発効することになり、社民党は、米軍による原爆投下から75年の節目に、発効への道筋がつき、核兵器を違法と見なす史上初の国際的な規範ができることとなったことを歓迎する。NGOの皆さんや、広島、長崎の被爆者の皆さんの活動に敬意を表するとともに、非人道的な核兵器の廃絶された、「核なき世界」の実現に向けて、いま、新たな一歩を踏み出すことができたことを心から喜びあいたい。これからも核兵器の廃絶に向け全力で取り組んでいく。

2.2019年8月、中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効し、来年2月には新戦略兵器削減条約(新START)も期限切れを迎える。発効からちょうど50年を迎えた核不拡散条約(NPT)の再検討会議は、1年延期された。今回の条約を、新たな核軍縮の基盤として活かし、国際社会への働きかけをさらに強め、核兵器の廃絶向けた国際的な機運を高めていかなければならない。一方で、しかし、核兵器禁止条約には、世界の核兵器の9割を保有するアメリカとロシア、また中国などの核保有国、アメリカの核抑止力に依存する日本などは参加していない。核兵器保有国と「核の傘」の下にある国々が条約に参加するよう、核兵器のない世界に向けて努力しているすべての皆さんと力を合わせていきたい。

3.唯一の戦争被爆国でありながら、日本政府は、17年3月から始まった交渉会議にも参加しなかった。発効から1年以内に締約国会議が開かれる予定であり、アメリカの「核の傘」や核抑止力への依存に固執するのではなく、日本こそが、75年にわたって核廃絶を訴えてきた被爆者や世界中の核廃絶を願う人々の思いを誠実に受け止め、自らが早期に核兵器禁止条約を批准すべきである。そして、各国に働きかけ、批准国を増やしていくなど、「核のない世界」を目指し、積極的にリーダーシップを発揮していかなければならない。

以  上

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