災害時にアスベストによる健康被害を生まないために…県アスベストセンターと調査・意見交換

12月23日、長野県アスベストセンター(代表=鵜飼照喜・信州大学名誉教授)の台風19号被害建築物等のアスベスト調査に同行、災害廃棄物の仮置場等を現地調査し、長野市・長野県の担当課と意見交換を行ないました。

調査には専門家である「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」の永倉冬史事務局長を招き、中川博司県議、池田清県議らと一緒に調査しました。

アスベスト|中皮腫などの労災・裁判手続きや建材について無料相談

私自身は、11月1日に改革ネットで行った市災害対策本部あての「緊急要望」でもアスベスト対策を盛り込み取り組みを要請、また、12月議会でも松木議員の質問にアスベスト対策の現状と課題を盛り込んでもらうなど、アスベストによる健康被害を防止するため対策を講じることの重要性について取り上げてきました。

アスベスト被害とは

アスベスト(石綿)は、極めて強力な発がん物質です。

飛散したアスベストの吸引により中皮腫やアスベスト肺などを引き起こし死亡に至ることから、1975(S50)年に吹付アスベストの使用が禁止されたものの、2005(H17)年にはニチアス、クボタでアスベスト生産に関わっていた労働者や工場周辺の住民が中皮腫や肺がんで死亡していることが判明し、2006(H18)年に完全禁止となりました。

しかしながら、建材として私たちの身の回りに大量に残され、除去と解体の際に発がん物質が飛散し、被害が拡大する恐れがあり、特に家屋等の解体にあたっては細心の注意と万全な対策が講じられることが求められています。

今回の調査は、被災した家屋の片付け、撤去、解体等にあたり、建材等に含まれているアスベストが飛散し、災害ボランティアや解体作業に従事する労働者の深刻な健康被害の発生につながらないよう、市・県行政において万全の対策を講じることを狙いとしたものです。

赤沼公園…大気中のアスベスト濃度は詳細検査で基準値以内

最初の調査地は千曲川堤防決壊地点に近い「赤沼公園」です。

発災直後から、穂保や津野、赤沼地域の被災者宅の災害廃棄物の「勝手置場」となっていたものですが、途中から市の「指定仮置場」となり、基本的に9分別された災害ゴミが集積されてきたところです。

長野市環境部・環境保全温暖化対策課の職員の皆さんの説明を聞きながら一回りしました。

12月15日で受け入れ中止となった赤沼公園の現在は、山積みになっていた災害ゴミは、富山県や三重県の民間事業所による搬出が行われ、ガソリン類や農薬などの危険物が残存しているのみとなっています。

アスベストの含有が懸念される「石膏・ボード」置場には、破片が散在しています。永倉氏によると、破片からもアスベスト含有が懸念されるものが残っているとします。

赤沼公園では、大気中アスベスト濃度のモニタリング調査が11月13日に実施され、繊維数濃度が2.0本/リットルと基準値を超えたことから詳細検査を行い、アスベスト繊維数が0.68本/リットルと環境基準値以内であったことが公表されています(11月28日担当課HPで公開)。

➡災害時の大気中アスベスト濃度のモニタリング調査結果【市環境部HP】

堤防決壊地点…長沼支所・体育館、消防団詰所

支所や体育館は1992年(H4)の建設で、吹付アスベストは使用されていませんが、壁材にアスベストが含有する「押出成形セメント板」が使われていることが多く、また、屋外のひさしの天井や駐車場の天井に「ケイカル板」が使われている可能性が永倉氏から指摘されました。

解体工事等にあたり、綿密な調査が行われる必要性があるということでしょう。

私自身は2週間ぶりくらいに長沼地区を訪問しました。ボランティアセンターは20日までで活動中止となりましたが、リンゴ畑をはじめかつての住宅街では、まだまだボランティアの皆さんの活動が続いていました。

堤防決壊周辺は、今なお応急復旧の途上にあることを痛感します。復興への道のりは長いとつくづく思い知らされます。

アクアパル千曲…危険な石膏ボードやスレートは隔離・被覆して保管

長野県の下水道最終処理場の一つである「アクアパル千曲」(市内真島地区)は、災害廃棄物の指定仮置場の一つ。

土砂瓦礫のほか冷蔵庫やテレビなどの電化製品も集積されています。

ここでは、「石膏ボード・スレート」が含まれる瓦礫が一カ所に集められ、特にアスベスト含有が懸念される「波型スレート」や「壁材などのスレート版」が「危険物」として、ブルーシートで別途被覆されて保管されていました。瓦礫の中から手分別で処理・・回収しているとのことです。

永倉氏は「モデル的な取り組み」と評価していました。

分別・排出作業を管理受託している事業者は、「アライブ」という神戸市内の事業者で、これまで阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震災害、倉敷市真備町の災害などで災害廃棄物の処理を担ってきているそうで、アスベスト含有が疑われる危険物の分別管理を自主的に行っているとのことでした。

まさに経験とノウハウが活かされていました。

でも、改めて問題が浮上します。

一つは、他の仮置場では、このような処理対応が行われていないということ

二つは、結果としてですが、アスベスト含有が疑われる建築廃材が災害ボランティアの皆さんの手により処理され、仮置場に集積されているということです。

長野市環境部と意見交換…公費解体・自費解体着手に向け万全の対策を

こうした現地調査の結果を踏まえて長野市の環境部環境保全温暖化対策課及び長野県の担当課と意見交換を行いました。

長野市では、台風19号災害で、被災した建築物にはアスベスト含有建材使用の可能性があることから、それらの除去等にあたりアスベストの飛散が懸念されることから、建築指導課で所管する「アスベスト台帳」により吹き付けアスベストが使用されている長沼地区の民間7事業所を調査、目視で「飛散の恐れなし」と確認したほか、台帳にない300㎡未満の事業所を調査し損壊がないことを確認してきたとしています。

また、「災害時における石綿飛散防止にかかる取り扱いマニュアル」により、大気中アスベスト濃度のモニタリング調査を長沼支所周辺、災害廃棄物仮置場(6カ所)、指定避難所(7カ所)で実施、異常がないとしてきています。

市が単独で調査してきていることは評価するものですが、レベル1の吹付アスベストへの対応が中心で、レベル2とされる保温材や断熱材、レベル3とされる床や壁、天井などの建材への対応は手がついていない(手が回らない)現状にあったということになります。

被災家屋の片付け等に従事する住民、ボランティアに対し、アスベストを遮断できる防塵マスク(DS2マスクが必要とのこと)の配布や提供、アスベスト対策の啓発が行われてこなかったことは教訓とすべきです。

対策課長も「指摘はもっともであり、アスベスト対策の認識をより深め、反省点としたい」と述べました。

問題はこれからです。公費解体が年明け2月頃から始まります。また、公費解体の実施時期が不明なことから自費解体を選択し、解体に着手する被災住宅もあります。

公費解体には、全国から解体業者が集まることになり、事業者へのアスベスト対策の徹底、被災住民への徹底が不可欠となります。

特に建築物の解体・改造・修理等の工事では、アスベスト使用の有無の事前調査を行い、その結果等を解体工事等の場所に掲示しなければならないことが義務付けられています。

永倉氏によれば、これまでの解体工事では、不十分な事前調査で、かつ調査結果の掲示が守られていないケースが結構あるそうです。

市では環境部生活環境課内に「公費解体対策室」が設置され住民への説明会が始まりました。

「公費解体室」を中心に、建築指導課等ともしっかり連携し、事前の調査や解体工事にあたってのアスベスト飛散防止策など万全の対策を準備していくことが重要です。

➡長野市の「アスベスト(石綿)に関する情報ページ

長野県環境部・建設部と意見交換…「災害時における被災建築物のアスベスト調査の協定」の運用が課題に

長野県では、環境部門と建築部門の担当課と意見交換。

長野県は昨年9月に「災害時における被災建築物のアスベスト調査に関する協定」を一般社団法人建築物石綿含有建材調査者協会などの技術者団体3団体と締結しました。

しかし、今回の台風災害で、県は「飛散性のアスベストが使われる可能性の高い2006年以前建築の鉄筋コンクリート造りが対象」に限定したうえで、「損壊家屋が発生した長野市では、市の独自調査により飛散の恐れがない」との報告等を踏まえ、発動しなかったと改めて述べました。

「協定」では吹付アスベストなど「レベル1」対応に限定はしていないのですが、運用上「限定」しているということが判明し、改めて「運用の改善」を求めました。

また、県でアスベストの簡易検査機「アナライザー」を購入(1台750万円くらいするもの)し、公費解体等に備えるよう求めました。担当課では予算要求はしているが「未定」としています。

因みに長野市との意見交換でも「アスベスト・アナライザー」の話をしたところ、市では「ぜひ県でお願いしたい」との意見で、県への要望となったものです。実現したいものです。

➡アスベストに関する長野県の取り組みのページ

被災地からアスベスト健康被害を生まないために

今後も、県アスベストセンターの皆さんと連携しながら、引き続き取り組みを強めていきたいと思います。

公費解体直前の局面です。1月中には、改めて課題を整理し、担当課と詰めていきたいと考えます。

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