「LGBTなど性の多様性を認め尊重する人権施策の実施に関する請願」…総務委員会で採択に

9月市議会定例会に提出されていた「LGBTなど性の多様性を認め尊重する人権施策の実施に関する請願」は18日、議案として付託された総務委員会で全員賛成で採択すべきものと決しました。

25日の本会議で全会一致で採択される見通しです。

岩本江美さんが意見陳述する総務委員会

私が所属する福祉環境委員会の審査は明日ということもあって、窓口紹介議員になったことから総務委員会を傍聴しました。

請願は、LGBTと総称されるセクシュアルマイノリティの当事者である市内在住の岩本江美さん(27歳・Rainbow Fellows Nagano長野支部)が提出したものです。

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今日の総務委員会では、岩本さんが参考人として意見を述べました。パートナーも同席が許可されました。

請願者、岩本江美さんが述べた意見

総務委員会では意見内容が資料としても配布されました。

皆さんこんにちは。Rainbow Fellows Naganoの岩本江美と申します。
隣はパートナーのSolviです。私たちは長野市内で同棲しています。
本日は皆さんにお話する機会をいただきありがとうございます。

LGBTの当事者は人生の各段階でさまざまな問題に直面します。

自分が何者であるかを理解するための情報が届かず、悩み苦しんでいる子供たちがいます。周りと違うと気づかれていじめられることも少なくありません。将来を思い描くこともできないまま、孤独で鬱病や自殺願望を抱えている若者たちがいます。勇気を出して親にカミングアウトをしたら勘当され、実家から追い出される人たち、または無理矢理異性との結婚を強いられる人たちがいます。

大人になってパートナーができても、新たな社会的障壁が立ちはだかります。法律上、同性のパートナーが配偶者として認められないため、異性の夫婦にとって当たり前であることができません。例えば住宅ローンを組むことや相手の社会保険の扶養への加入ができません。急病の際、緊急手術の同意書が書けない。場合によっては病室に入ることすらできません。また、パートナーが外国籍である場合、配偶者ビザを取得できないため、カップルが引き裂かれる場合もあります。

これらの問題を全て簡単に解決する対策はありません。そもそも国レベルでしか解決できない人権問題も多く含まれています。しかし、いずれも根源はLGBTに対する理解と意識の不足にあると考えられます。

なので、今回の請願で理解を深め、差別と偏見をなくす諸施策を求めています。

例えば学校での授業です。保健体育の教科書には現在も「思春期になると誰でも異性に興味を持ち始める」と記述され、LGBTの子供たちが「誰でも」から省かれています。そういったところでLGBTの存在を認めて、肯定することは、LGBTの子供の自己肯定感の発達に大変重要です。なお、性別違和を抱えている生徒に関して、制服などの配慮も非常に重要です。

会社にもLGBTの存在が考慮されないことがあります。例えば、同性カップルが社宅への入居を申し込むとき、規定がないから対応できないと言われることがあります。こういった場面での配慮の呼びかけなど、市にこそできる対策はたくさんあると思います。

公的に肯定される影響を象徴する例として、アメリカで同性婚が導入されるとともに、 LGBTの若者の自殺率が有意に下がった調査結果が挙げられます。多くの当事者が感じる生き辛さを緩和することで、市による対策にも命を救う力があるのではないでしょうか。

以前から、理解が進んでいる大都市へ出て行く若い当事者が少なくありません。近年は都心部でどんどんパートナーシップなどの制度が導入され、地方とのギャップがさらに広まっていました。一方、この半年の間に地方でも活動が活発化し、長野県内でも既に松本市と伊那市でLGBTに関する請願が採択されています。

Rainbow Fellows Naganoもこの春から活動を開始しました。
その一環として、私も長野市で交流会を開催しています。

多様性に向き合うことで、当事者にとって暮らしやすくなるとともに、若者の流出の軽減と自治体の活性化にもつながると信じています。是非皆様に協力していただきたいと思います。

ありがとうございました。

とても真摯でかつ温かく心にしみる意見陳述でした。議員からの質問にも臆することなく的確に考えを述べ、審議する議員の心にも響いたものと思います。

LGBTへの理解を深めあうスタートラインに

私は窓口紹介議員となり、今議会における全会一致の可決に向けて各会派の議員に問題提起しながら課題を共有してきた一人です。

請願の内容は二点で、➊同性カップルを含む「パートナーシップ認証制度」を設けている自治体の取り組みなどを参考にしながら、LGBTと総称されるセクシュアルマイノリティ(性的少数者)の人権問題に対する理解を深め、性自認や性的指向による差別と偏見をなくす諸施策に取り組むこと、➋教育、福祉、医療、就業等におけるセクシュアルマイノリティ(性的少数者)の専門相談窓口を開設することを長野市に求めるものです。

長野市議会がLGBT、セクシュアルマイノリティの人権に向き合い、行政の取り組みを後押しするスタートラインを築くことができたと思います。本会議での議決はまだですが…。

問題はこれから…

しかし、請願採択を踏まえ、長野市行政がいかに具体的な取り組みを始めるのか、問題はこれからです。

「長野市人権政策推進基本方針」では、「さまざまな人権に関する問題」の一つとして「性的指向、性同一性障害」を掲げ、「性的指向及び性同一性障害を理由とする偏見や差別は不当であるという認識を持ち、人間の性のあり方について固定的に考えるのでなく、性的多様性を認め合うことが大切です」との認識を示し、「理解を深めるために啓発活動に取り組む」としています。

市の人権・男女共同参画課では、昨年、「当事者を講師に招いた人権研修会」に取り組んできているとしていますが、請願が求める専門相談窓口の開設をはじめ、LGBTへの理解を深める学校教育の現場での取り組みなど具体的な施策展開はまさにこれからです。

市行政には前向きに取り組みを進めてもらいたいものです。

目指すは、長野市においても「同性カップルを含むパートナーシップ認証制度」を実施し、セクシュアルマイノリティにとっての様々な社会的な障壁の除去に向け、応援していく仕組みをつくりあげることです。

同時に、国において「LGBT差別禁止法」を制定していくことも必要でしょう。

岩本さんの「涙」に応えたい

岩本さんと出会ってから、請願内容について何度も相談し、併せて議会の他会派の皆さんとも相談協議を重ねてきました。関係した皆さんがそれぞれ前向きにとらえ課題を共有し知恵を出し合うことができた結果だと受け止めています。

そして、何よりも、当事者である岩本さん自身が、差別と偏見を乗り越え、市議会の委員会で意見を述べ請願採択を訴え出た勇気ある行動に敬意を表したいと思います。

総務委員会での全員賛成の結果に、「ほっとした」と涙する岩本さんの姿が印象に残ります。大変な緊張感で意見陳述に臨んだことでしょうから…。

岩本さんが流す「涙」にLGBT当事者が抱える苦悩と決意を垣間見た想いがします。しっかりと応えていかなければなりません。

岩本さんの請願の意思が、そして市議会の請願採択が、声を上げられず悩み苦しんでいるLGBT当事者の皆さんへの光明になることを願わずにはいられません。

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