女子大学であるお茶の水女子大学(東京都文京区)が先月7月10日、「性の多様性を包摂する」として2020年度の学部・大学院の入学者から「トランスジェンダー」の学生を受け入れることを発表しました。
トランスジェンダーとは、出生時の性別(戸籍に記載された性別)とは異なる性別と感じている人を指します。受け入れに当たり、まず出願の要件に「戸籍、または性自認が女子の場合」と明記するとします。
県内の大学では、長野大学(上田市)が学生原簿や健康診断書などの公的書類に自認する性別を使えるようにしたり、信州大学(本部=松本市)では人権に関する指針(キャンパス・コード)を設け、出身・民族・国籍・年齢などとともに、自認する性別や性的指向の違いに関わらず個人を尊重すると宣言し対応を進めているとされます。
大学をはじめ企業では、セクシュアルマイノリティとされるLGBTの人々を受容し尊重する動きが広がり始めています。
こうした中、セクシュアルマイノリティの皆さんに、言い換えれば性的多様性にどのように向き合うのか、LGBTの問題を具体的に考える機会を得ました。
岩本江美さんとの出会いです。
岩本江美さんとの出会い
7月半ば前、知人を通じて岩本江美さん(26歳)と出会いました。
岩本さんは、体は女性で、心は男性でも女性でもないと感じているXジェンダー(一般的に、生まれ持った性別に限らず、男でもないし女でもないという性自認を持つ)の一人、市内で女性のパートナーと暮らしています。
岩本さんの相談は、「渋谷区の同性ハートナーシップ条例や世田谷区などの同性パートナーシップ認証制度を長野市でも実現できないでしょうか。セクシュアルマイノリティの人権について広く認識を広げ、市としての取り組みを実現していくために市議会に請願を出したいと思うのですが」という内容でした。
LGBTなどのセクシャルマイノリティ(性的少数者)への理解と支援を広げようと当事者の皆さんがそれぞれの地元の議会に請願書を提出する動きが首都圏をはじめ県内でも広がっていることを受けての申し出です。
実は、6月29日付の信濃毎日新聞「北信面」で「ありのままでいられる場を…性的少数者や家族ら長野で明日交流会」という記事が掲載され、その中で、交流会を企画した岩本江美さんが紹介されていました。記憶に残っていた記事で、当事者との面談が叶ったことをうれしく思いながら、一方で課題の重さをひしひしと感じながら、ご本人とお話ししました。
信濃毎日新聞ではすでに実名で報道されていることから、ブログでも実名を使います。
LGBT当事者の声…自戒しつつ真摯に応えたい
岩本さんは、たくさんの資料を抱え、30日に市内で開いた「おはなしカフェ」の様子や、LGBTの当事者ネットワークである「Raainbow Fellows Nagano」が「性的少数者やその家族等のための専門相談窓口の設置や性的少数者の人権問題についての啓発活動の強化」を求め、松本市議会3月議会に提出された請願が全会一致で採択されたこと、さらに首都圏で6月議会に向けて一斉行動として取り組まれているJGBTの権利擁護に関する請願の取り組みを私に紹介しながら、「息を潜めるよう生活してきた。何も言わないことが性的少数者を自ら声を上げにくい空気を作ってしまっているのではないか。声を上げることから始めたい」と静かに訴えます。
私自身は、渋谷区や世田谷区の同性パートナーシップ認証制度の取り組みや昨年5月に開かれた「東京レインボープライド」における5000人のパレード実施などで差別や偏見に対して声を上げる運動が広がっていること、LGBTの当事者を中心にLGBT自治体議員連盟が発足したことなどは情報として押さえつつ、LGBTなどセクシュアルマイノリティへの差別と偏見をなくし、性的多様性を認めあい権利を擁護することが人権課題の一つであるという認識には立っていたつもりです。
しかし、長野市政の中においてLGBT、セクシュアルマイノリティの権利擁護に特化した施策展開を具体的に追求、提案、実現しようとする問題意識が希薄であったこと、どこかでまだ他人事と考えていた自分であることを恥じながら、当事者の生の声をお聞きしました。
当事者の勇気ある行動に大いに触発され刺激されたというのが率直な気持ちです。
この間、人権課題について部落差別解消推進法や障がい者差別解消法、男女雇用機会均等法の課題は議会でも取り上げてきましたが、LGBT問題に真摯に向き合い、性の多様性を受容し尊重する社会を長野市からもつくる、このことをミッションの一つにしたいと考えています。
真剣に受け止めしっかりと応えたいと思います。
市議会の中で模索を始めています
LGBTなどセクシュアルマイノリティの人権擁護の課題は、一議員、一会派で対応できるものでないことはいうまでもありません。むしろLGBTの現状と課題、偏見・差別とその解消への動きなどについて、全議会的な問題意識と理解の共有がまずは必要であると考えています。
人権施策を展開する行政側にとっても必要不可欠なプロセスであると感じています。
相談を受けてから早速、岩本さんからの訴えに基づき、同性パートナーシップ認証制度の取り組みをはじめ、LGBTの人権擁護について、市議会を構成する会派の皆さんに問題提起を始めているところです。
概ね、前向きに受け止めていただいていると感じてはいますが、全議会的な段階にまでは至っていません。
議会的には提出される請願内容を審議することになります。請願者のストレートな想いを受け止め応えることが基本です。
しかしながら、請願に何をどこまで盛り込むのか、そして議会側がどこまで応えられるのかといったバランス、相談も必要であると考えています。
請願を全会一致で可決し市行政の取り組みを促進させることが最大の目的です。当事者との協働で取り組みを進めたいと考えています。
➡【参考】LGBT当事者団体の連合会=性的指向及び性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会・略称LGBT法連合会のページ
そもそもLGBT/SOGIとは
LGBTとは
Lがレズビアン(Lesbian:女性の同性愛者)
Gがゲイ(Gay:男性の 同性愛者)
Bがバイセクシュアル(Bisexual:両性愛者)
Tがトランスジェンダー (Transgender:こころの性とからだの性との不一致)
の頭文字からとって作られた言葉で、性的少数者の総称として用いられています。
LGBTのうち、「L」「G」「B」の 三者は性的指向に関わる類型であり、「T」は性自認に関する類型となっています。
トランスジェンダーは性同一性障害と同一と理解されているところがありますが、性同一性障害とはあくまで医療的なケアが必要とされる場合の診断名であり、トランスジェンダーの中には自分の身体の性別に違和感(性別違和)を持ちはするものの、特に医療的な治療を必要としない人たちもいます。
そのほか、性的指向や性自認がはっきりしていない場合や、定まっていない、どちらかに決めたくないと感じるなど、特定の状況にあてはまらないQ(クエスチョニング) など、LGBTの分類に収まらない類型もあります。
そのため、SOGI(性的指向及び性自認:Sexual Orientation and Gender Identity)という表現が国際的には使用され始めているとのことです。
どの性別を好きになるか、ならないかを表す「性的指向=Sexual Orientation」と、自分の性別をどう認識しているかを表す「性自認=Gender Identity」の頭文字をとった言葉です。
性的多数派を含めたすべての人が持つ属性に着目した表現で、性的少数者の問題を特定の人々にのみ配慮が必要な課題としてとらえるのではなく、すべての人の対等・平等、人権の尊重に根差した課題としてとらえるべきであるという国際的潮流に則った考え方によるものです。
とはいえ、私のブログの中では一般的なわかりやすさを優先し、性的少数者=セクシャルマイノリティ=LGBTという表現に統一しておきたいと思います。
➡【参考】➊「LGBTの現状と課題-性的指向または性自認に関する差別とその解消の動き」(立法と調査2017.11)By参議院法務委員会調査室・中西絵里筆
➡【参考】➋LGBT法連合会のページ
➡【参考】➌日本労働組合総連合会[連合]の性的指向及び性自認(SOGI)に関する差別禁止に向けた取り組みガイドライン
LGBTは人口の約8%
LGBTの人口規模について公的な統計はありませんが、電通ダイバーシティ・ラボ(電通グループ)の調査によれば7.6%、LGBT総合研究所(博報堂グループ)によれば約5.9%、労働団体=連合のインターネット調査では8.0%という結果で、これらの数字がLGBTの割合として使われています。
➡【参考】➋博報堂LGBT総合研究所の調査結果2016.05
➡【参考】➌連合のLGBTに関する職場意識調査
13人に1人の割合です。左利きの人、血液型AB型の人とほぼ同割合として例えられています。
つまり、どこにでも存在するということであり、差別と偏見故に性的指向や性自認をカミングアウトすることなく、声を上げられないまま、ひっそりと生きていかなければならない人たちが身近にいるということです。
問題は、当事者がLGBTであることをためらうことなく明かせる社会になっていないということなのです。
セクシュアルマイノリティ、LGBTの多様な性の在り方を認め受容しうる社会が問われているということでしょう。
「LGBT生産性がない」寄稿記事をめぐりLGBT問題がクローズアップ
自民党の杉田水脈参議院議員が、月刊誌への寄稿で、性的少数者であるLGBTのカップルは「生産性がない」などと述べたことに対し、批判と抗議が広がっています。
性的少数者を社会的に排除する優生思想にもつながるもので、人権感覚ゼロの差別発言、ヘイトスピーチに他なりません。
今もなお深刻な困難の最中にいる人、LGBTの子どもたち、若者らが、ものすごく傷つけられていることにホントに心が痛みます。
人権の世紀である21世紀を生きる国会議員の差別発言は許しがたいものですが、その記述内容はなんとも呆れ返ってしまうものです。
今回は、杉田議員の寄稿記事内容にこれ以上触れませんが、「こんな時代錯誤で馬鹿げた発言をする国会議員がいるなんて、なんと嘆かわしいことか」とLGBTに対する正しい認識と理解が広がることを願う一人です。
また、併せて、「LGBT差別禁止法」の制定機運が高まることも期待したいと思います。
➡LGBT法連合会の「衆議院議員杉田水脈氏の論考「『LGBT』支援の度が過ぎる」 に対する抗議声明」
➡LGBT:「杉田議員辞職を」自民党本部前で5000人抗議【毎日新聞・動画のページ】
LGBTについて認知度が広がり始めているものの、社会全体としての理解の浸透度はまだまだでしょう。
こうした杉田発言に同調するような市議会議員はいないと信じますが、実相を知らないが故の偏見がないとは言えません。
性的指向・性自認によって差別されない、というあたりまえのことを、社会のルールにして、誰もが安心して幸せに生きられる社会を一緒に作っていきたいものです。
参考までに信濃毎日新聞社説を掲載[2015.12.20面]
今後、次のような内容で、自らの勉強を含めて紹介していきたいと考えます。
【その2】LGBTの人々が直面する困難とは
【その3】LGBTをめぐる動きや取り組み
【その4】自治体で広がる同性パートナーシップ制度の取り組み