スパイラル施設での児童・重大事故…教訓は学校現場に生かされているのか【3月議会の質問より➊】

3月2日に行った本会議での一般質問より、答弁を含め報告します。

4日に速報しましたが、まずは「スパイラル施設での児童・重大事故…教訓は学校現場に生かされているのか」です。


昨年1月27日、長野冬季五輪のボブスレー・リュージュ競技施設であるスパイラルで、地元浅川小学校3年生の課外学習として行われた「リュージュ体験学習」において、参加した児童が左脛を開放骨折する重大事故が発生していました。

しかも、救急搬送された事故が発生したにもかかわらず、体験学習は中断・中止されることなく継続されていました。

事故から1年余を経過する中で、骨折そのものの治療は終え日常生活に支障はないものの、神経断絶による神経障害が後遺症ととして残り、傷跡も怪我以前の現状回復とならず、症状固定と診断されています。児童の将来を考えると心が痛む大事故です。

初動体制をはじめ、文部科学省が定めた「学校事故対応に関する指針」が適切かつ十分に活かされているのか、保護者の了解を得て本会議で質しました。

昨年1月の浅川小3年生の「リュージュ体験」の信毎報道記事です。事故にあった児童の保護者の方は、この記事のスクラップを持っていらっしゃって「この記事を見るたびに、何故、娘が…」と悔しい想いが蘇ると話します。

公になっていないスパイラルでの重大事故

スパイラル施設の存廃問題が浮上し、地元等からの存続要望が出されていた最中で発生した重大事故です。

➡【参考】170130長野冬季五輪施設「スパイラル」の存廃を考える

実は昨年9月議会の経済文教委員会(当時は私が委員長)で、この学校事故を取り上げ、「事故の原因究明がどのように行われ、安全管理、安全配慮においてどのように総括されているのか」「そもそも、スパイラルの存廃が大きな問題となっている中、学校長の判断としてあまり公にしないで対応しようという間違った配慮がなされたのではないか」と質した経過があります。

この委員会では、教育長は「学校長として覆い隠そうとした意思は毛頭なかったと思うが、事故にあった児童に対するケアをはじめ事故後の対応として配慮が非常に不足していたと思う」と答弁、教育次長は、事故後も体験学習が継続されていた事実については「把握できていない」としつつ、「学校行事、体育行事について改善すること、検証することを明確にしていかなければならない」としていました。

今議会の質問で、この事故事案に対する基本調査は事故から4カ月も経った5月下旬から始まったことを明らかにしましたが、9月段階でもなお事故の全容が把握されていなかったことが伺えます。

文科省の「学校事故対応に関する指針」

文科省はH28年3月3日付で「学校事故対応に関する指針」をまとめ、学校現場への徹底を求めました。さらに、一部の学校や学校の設置者等において指針の趣旨・内容に関す認識が不十分であるとして、同年12月2日付で「指針に基づく適切な事故対応の推進について」を通知し、改めて現場への徹底を図ってきました。

「指針」は、全国の学校現場で重大事故・事件が発生し、情報公開や原因の調査に対する学校及び学校の設置者の対応について、国民の関心が高まっていることを受け、学校、学校の設置者、地方自治体が、それぞれの実情に応じて、事故対応の在り方にかかる危機管理マニュアルの見直し・充実、事故対応に当たっての体制整備等、事故発生の防止及び事故後の適切な対応に取り組むため作成されたもので、学校事故における危機管理マニュアルといったものです。

重大事故は、学校管理下における死亡事故及び治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う場合などの重篤な事故を対象としています。

事故の未然防止のための取り組み、事故発生後の初期対応における留意点、基本調査の実施と詳細調査のあり方、再発防止策の策定・実施、保護者への支援を内容とするものです。

文部科学省「学校事故対応に関する指針」(文科省サイト)
➡【下図】「学校事故対応に関する指針」に基づく取組の流れ

「指針」に基づく適切な対応が行われていたのか

スパイラル・リュージュ体験学習において、この「指針」が十分に理解され、適切な対応が行われていたのか、ここが問題であると考えています。

スパイラルでのリューシュ体験学習は、冬季利用の中止決定により、昨年が最後でしたが、スキー教室やスケート教室など冬季の校外学習における事故、また運動会などにおける事故に際し、浅川小学校の事故事案から何を反省点とし、未然防止策、再発防止策を学校現場に改めて徹底していくことが必要であるとの観点から、この問題を取り上げました。

最初に答弁した教育次長は「大変なけがをされた児童とその保護者に市教育委員会として改めて深くお詫びする」と謝罪したうえで、私の質問に答弁しました。一問一答方式です。

Q:10年間続けられたスパイラルでのリュージュ体験学習で、これまで事故はなかったのか。

A:教育次長…「軽微な怪我はあったものの、(昨年1月の事故以前は)救急車の出動を要請するような事故は起きていなかった」

Q:事故を未然防止するための事前の安全対策は学校の責任において十分にかつ適切に行われていたのか。そもそも、小学3年生の身体的な発達・発育状況に鑑み、安全な体験学習であると判断した根拠は何なのか。

A:教育次長…「事故を未然防止するための事前学習を校内で行い、スパイラルでのコーチ経験がある教員が実際に使うリュージュに児童を乗せて基本的な乗り方を指導した。また、怖かったらリュージュに乗らなくてもいいと繰り返し児童全員に指導した」
「当日は、安全のため留意点を確認し、スタート時にはリュージュの選手が乗り方を再確認し、ゆっくりスタートさせたと聞いている」
「安全と判断した根拠は、地域の方、関係者、保護者の理解、支援を受け、安全面に配慮して実施されるよう計画されていたことから、安全に体験できるものと認識していた」

Q:何故、事故直後も体験学習は中止されず継続されたのか。

A:教育次長…「児童が怪我をした時点では、マニュアルに従って緊急対応しているが、スタート地点に怪我の状態を伝えることができず、結果として体験活動を継続させてしまったと思われる。大きな事故が起こったときに中止を判断するという事前の打ち合わせをしていなかったことが反省点である」

Q:事後後、「指針」に定められる「基本調査」が学校長の下で行われ、保護者等への丁寧な説明が行われていたのか。重大事故の発生事実及び基本調査の結果は市教委として何時の段階で認識・把握することとなったのか。

A:教育次長…「怪我直後の緊急対応や報告等、指針に沿った取り組みがされていたが、その後、怪我をした児童への対応や保護者への丁寧な説明が不足していたことは否めない」
「事故から3日後に1週間程度の入院という事故速報カードが提出されたが、その後に適切な対応等がされていないことが分かったのは昨年5月下旬。その時点から基本調査を始めた」

Q:「指針」にある「詳細調査」への移行の如何について、どのように認識し対応してきたのか。

A:教育次長…「基本調査を継続している。詳細調査への移行については、学校事故対応に関する指針に則り、保護者の意向を踏まえ、判断していきたい」

Q:スパイラル施設での事故を通して、未然防止、原因究明、児童・保護者への適切な対応、再発防止という観点から、学校現場に対し如何なる指導、周知が行われてきているのか。

A:教育次長…「今回の事案を反省し、救急車を呼ぶような児童生徒が出た場合は、行事を中断することを盛り込んだ「冬季校外活動等に係る指導及び対応について」を作成し、H29年11月の校長会で指導した」
「学校に対し、児童生徒や保護者に寄り添いながら、児童生徒の学習に支障が内容に支援し、保護者に丁寧な説明をするよう指導している」

不十分な未然防止策、浮き彫りに

小学校3年生という学齢期でリュージュ体験が安全であると認識していた根拠は、極めて希薄です。「怖かったら乗らなくていいよ」と繰り返し指導していたという趣旨は、「事故は、それでも乗った子どもの責任」と言わんばかりにも聞こえてしまいます。

再質問で、市教委は「毎年やっているからという認識を改め、未然防止策を徹底したい」としました。私は、十分な安全配慮、安全管理に欠けていた事案であると考えています。強く未然防止策の徹底を求めました。

教訓を事案に沿った研修会で活かしたい

市教委の基本調査までに4カ月もかかったことについて、初動時における重篤事故に対する学校現場の判断と対応の誤りを指摘し、校長会における指示にとどまらず、学校現場の教職員を交えた個別事案に沿った検証・研修の徹底を求めました。

これに対し教育次長は「ケーススタディとなる研修を実施し、重大事故につながらないよう指導する」と述べました。

全治1カ月以上の重大事故は1月までに22件

学校事故の現状について問うたところ、市内の小中学校で死亡事故は発生していませんが、学校管理下の全治1カ月以上の大けがは、H28年度で11件、H29年度は1月末までに22件発生しています。

ほとんどが部活中の骨折事故で、「学校事故対応に関する指針」に基づく少詳細調査となった事案はないとのことです。

また、小中学校の児童生徒の事故は多岐にわたることが想定されることから、詳細調査に必要な「調査委員会」は常設とせず、事案に応じた専門家で構成する委員会を設置していく考えを示しました。

因みに、今議会には、私立を含め幼稚園、保育園、認定子ども園の園児の事故にあたり常設の調査検証委員会を設置する条例案が提案されています。

内向きな学校現場の改革が必要

いじめによる自死が起きるたびに、学校及び教育委員会の内向きで閉鎖的な体質が問題として指摘されます。

今回の事案も、学校現場の内向きな姿勢が事故原因をはじめ事態の全容の解明、調査を遅らせた要因となっているものと認識しています。結果、児童に寄り添い教育環境を整え支援していく取り組みも後手に回っているとの印象を強く持っています。

全ては子どもたちのために!学校の内向き・閉鎖的な体質を抜本的に改め、校長・教頭はもとより教員全体の力量・資質の向上を図ることが求められていると考えます。

再発防止策の徹底を強く求め、質問を終えましたが、今後の取り組み状況はしっかりとチェックしていきたいと考えます。

3日付の信毎報道の波紋…

信濃毎日新聞が「リュージュ体験で児童大けが」と報じました。重大な事故があった事実と再発防止に向けた取り組みをポイントとする内容です。朝日新聞でも報じました。 この信毎の記事を見て、「初めてスパイラルでの事故を知った」と語る校長先生がいらっしゃったことを改革ネットの同僚議員から聞きました。

まさに、個別事案に沿った検証・研修が行き届かないと、危機感を持った対応策が共有できないということではないでしょうか。どれだけ詳細で丁寧な指針・マニュアルを指示しても、一般論では現実的な危機感を伴った周知徹底にならないことの証ではないでしょうか。

市教育委員会に改めて警鐘を鳴らしたいと思います。

➡なお、質問のやり取りが長野市議会インターネット議会中継にアップされています。3月2日の質問日の5番目です。ご覧いただき、ご意見を賜れば幸いです。

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