ブルブルの真冬日です。インフルエンザも猛威を振るっています。ご自愛ください。
今日26日は、国・県と松本市の共同でテロを想定した国民保護図上訓練が行われました。私は午後、都市計画審議会(審議委員を務めています)があり、監視行動を兼ねた取材活動(報道機関のみ取材が可とされ、一般はシャットアウトでした)は、池田市議らにお願いしました。既に報道されていますが、問題点等は改めて整理したいと思います。
さて、市議会の小中学校のあり方調査研究特別委員会で先週1月17日~19日にかけて行政視察を行いました。
視察テーマは、義務教育9年間をスパンとする小中一貫教育の取り組みと、少子化に対応する学校再編・統廃合のあり方です。
広島県福山市、京都府京都市、京都府福知山市を訪問、視察して来ました。
現在、長野市では、少子化に対応した新たな学校づくりの在り方、学校の規模や配置、通学区域を検討する「活力ある学校づくり検討委員会」(諮問機関)において、H30年7月の答申に向け、検討協議が本格化しています。課題の論点整理をほぼ終え、答申たたき台を策定する段階を迎えています。。
義務教育9年間のスパンで子どもの学び・育ちを支える長野市版の小中連携・小中一貫教育の基本的なあり方をまとめようとするもので、学校規模のあり方に関する基本的な考え方と取り組み方針もまとめられる予定です。
まずは、それぞれの教育委員会の取り組みを概括したうえで、長野市の取り組みに必要な視点として整理してみたいと思います。なかなか進みませんが…。
【その1】は広島県福山市の取り組みです。なかなか刺激的でした。
広島県福山市
人口464,800人、面積518.14㎢、人口密度896.74人/㎢。広島県の東端、岡山県との県境に位置し、広島市に次ぐ広島県第二の都市で中核市。
福山藩の城下町が起源。臨海工業都市として発展。「バラのまち」としても知られる。
福山市教育委員会の小中一貫教育の取り組み…経過と体系
H27年度から全面実施に移行
➊H24年度から「バラと教育のまちをめざす『全国に誇れる学校教育』」を目標に掲げ、義務教育9年間を一体的にとらえた教育活動の展開をめざす小中一貫教育を取り組みの柱に据え、3年間を準備期間にして、全ての中学校区で、地区の課題を克服するための小中一貫教育カリキュラムを作成、試行実施、改善するとともに、連携型集中一貫教育モデル中学校区の様々な取り組みを全中学校区へ広げるなどの準備を進め、H27年度4月から全面実施している。
*77小学校で34中学校区
*小中一貫教育の推進方針や教育内容を検討する「福山市小中一貫教育推進懇話会」を設置。
*小中一貫教育を推進するうえで望ましい学校教育環境のあり方を検討するため「福山市学校教育環境検討委員会」を設置。
福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針を策定
➋「懇話会」の意見や「学校教育環境検討委員会」の提言に基づき、「福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針」をH27年6月に策定。
めざす子ども像=「福山に愛着と誇りを持ち、変化の激しい社会をたくましく生きる子ども」を育成するため、子どもたちにとっての教育効果をより高めていくことを基本に、小中一貫教育の推進と学校教育環境の整備を実現するための基本方針と位置付けられる。
教育環境の整備については、「児童生徒の健全育成のためには、必ずしも快適であることが最適とは限らない」との考え方に常に立ち返りながら導き出したものとされる。
➡「福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針」[福山市サイト]
福山100NEN教育宣言
➌教育長宣言=「福山100NEN教育」と「第二次福山市教育振興基本計画」
福山市ではH28年1月に「福山100NEN教育の推進」を教育長が宣言。これを基本理念として「第二次教育振興基本計画」が策定される。
「小中一貫教育1・2・3」に「ESD観点2」を持った取り組みを「福山100NEN教育」と命名し、その教育の目的は「変化の激しい社会をたくましく生きる力=“21世紀型スキルと倫理観”」の育成にあるとする。
福山市教育長は宣言の中で、その趣旨を次のように示している。一部を引用する。
…目的は,「変化の激しい社会をたくましく生きる子どもを育てる」ことです。福山に愛着と誇りを持つことも,ESDも,小中一貫教育も,全て,そのための手段です。
『福山100NEN教育』のPointは,「変化の激しい社会をたくましく生きる力=“21世紀型スキルと倫理観”」の育成に向けて, “小中一貫教育1・2・3”に “ESD2観点”を持って,関連する様々な分野や取組を,「つなぎ,継続・積上げること」です。
言い換えれば,変化の激しい社会をたくましく生きる力を確かに付けていくために,これまでの取組を“ESD2観点”を持って整理し, 45分・50分の日々の授業を中心に,全ての教育活動を,“21世紀型スキルと倫理観”でつなぎ,“21世紀型スキルと倫理観”の育成に向かった取組にして,継続・積上げていこうとするものです。…
「福山100NEN教育宣言」は、「基本方針」と相まって、福山市教育の基本理念と教育実践の「バイブル」的位置付けとなっているものと思われる。福山市教育体系のエッセンスともいえよう。
福山市小中一貫教育のポイント
➊「すべては子どもたちのために」⇒「小中一貫教育1・2・3」
《1》は小中一貫教育カリキュラム=4-3-2制
義務教育過程9年間を、子どもの発達段階に応じて、【前期】(小1から小4の4年間)、【中期】(小5~中1の3年間)、【後期】(中2~中3の2年間)に区分。「4-3-2制」をとる。
カリキュラムに基づく「自ら考え学ぶ授業」を定着させ、子どもたちが元気で、知(確かな学力)、徳(豊かな人間性)、体(健康体力)をバランスよく身につけることを目標とする。
【前期】=基礎・基本の習得期…学習と生活にかかる基礎・基本を確実に習得
【中期】=学びの活用・充実期…習得した知識・技能を活用し、思考力・判断力・表現力等を育み、学ぶ意欲を高める
課題を解決する学習を力点に置き、中学校教員の小学生への乗り入れ授業や小学校での一部教科担任制を実施。小学校外国語活動とのつながりを持たせた中学1年での英語授業、小中学生の交流活動の実施
【後期】=進路実現期…希望する進路の実現に向けた学習
【中期】における乗り入れ授業では、教員の移動時間等の課題があるが、推進補助員(中学校での)が穴埋めするなどの善後策が取られるとともに、中学校長が小学校に入るなり、或いは定期テスト時に小学校に入る工夫がなされているということ。
また、中学校課程で理解できず困る単元で、小学校の乗り入れで遡って対策を講じるなどの対応が行われている。
《2》は大好き!福山=ふるさと学習
副読本を活用して全教科での学習を実施。故郷への愛着と誇りを育てることで、たくましく生きていく拠り所をつくるための学習。
小学校版と中学校版が作成され、有効的に活用されているとのことだ。
故郷への愛着と誇りを醸成する教育課程の実践として注目に値する。
《3》は市民一丸、「すべては子どもたちのために」を合言葉にした取り組み
家庭、学校、地域が一丸となって子どもを育てる。スクールサポートボランティアには9781人が登録。平均で120人、中15人。
また、小中一貫教育を推進するため、一貫教育推進補助員(小学校への乗り入れ授業に伴う補充員)を全中学校区に1~3人配置。Web会議システムの導入等が進められている。
さらに、県事業として、業務改善に係る教務事務支援員の配置(H29年で55人)が進められる。
➋ESDの2つの観点の実践
視察時には触れられなかったが、ユネスコ憲章の理想を実現する「ユネスコスクール」への加盟に取り組む。ESD(Education for Sustainable Development)=持続可能な社会づくりの担い手を育む教育の2つの観点が位置づけられる。
一つは人格の発達や自立心、判断力、責任感等の人間性を育む、二つは「他人・社会・自然環境」との関係性を認識し、「関わり」、「つながり」を尊重できる個人を育むこととされる。
教育の都市ブランド化を図るという問題意識が背景にある。
➌21世紀型スキルと倫理観
福山教育の目標である「変化の激しい社会をたくましく生きる力」を「21世紀型スキルと倫理観」と表現する。
この「たくましく生きる力」の育成に向けて、「小中一貫教育1・2・3」に「ESD2観点」を持って、関連する様々な分野や取組を「つなぎ、継続、積上げること」がポイントとされる。
➍小中一貫教育の効果・成果と課題
福山市における2000年代当初の教育課題は、全国水準より低い学力、暴力行為・不登校の発生率の高さ、全国水準より低い体力などであったようだ。
2003年(H15)からの学校教育ビジョン等の取り組みにより、全国水準を概ね達成することができ、一方、同じ教科領域における固定化した学力や暴力行為・不登校の低年齢化、中1での不登校が急増する中1ギャップなどが課題として残る中、H27年から全面実施に移行した小中一貫教育の取り組みにより、全国学力・学習状況調査において全国水準と同程度、或いは上回る水準となり、中学校の暴力行為、不登校が減少してきているとされる。
そのうえで取り組みの成果を
「知」…基礎的・基本的知識・技能はおおむね定着
「徳」…中学校の暴力行為、不登校が減少
「体」…体力テストの県平均以上の種目率が向上
とする。
そのうえで、「習得した知識・技能を活用する力に課題」があり、「授業での学びが、日々の様々な場面で行動化できていない」と総括、克服課題としている。
また、教員の意識改革として、小中の教員のつながりが強くなる、9年間の学習を通し高校進学への問題意識を共有できるようになってきたとされる。
➎教職員の授業力向上に向けた取り組み
小中一貫教育を支える教職員の授業力向上に向けた「教員研修」体制の充実に取り組む。
H28年度から「原則、毎月第3木曜日を市内一斉研修」に取り組む。
偶数月は、中学校で学校の枠を超えた、同じ教科の教員が集まり、教科の専門性を高める研修を行う。9割以上の参加率。「自分の授業の工夫・改善に役立っていると」とされる。
奇数月は、中学校区の小中学校教員が集まり合同研修。「理論研修・部会中心から研究授業中心に」。これも9割以上の参加率で「小中9年間を見通し、他学年の学習内容との関連を意識して授業を行う」意識改革が進んでいるとされる。
教員の資質向上、授業力の向上は、いつの時代にも求められる課題であるが、小中一貫教育を推進していくうえで、中学専科教員の年6回の研修、中学校区単位での小中合同の年6回研修という制度化は極めて重要といえる。
長野市の小中学生も基礎的知識・技能の活用力・応用力が課題とされる。課題解決の糸口は教員の授業力に他ならない。市教育委員会でも様々な研修に取り組まれているが、中学校区単位の合同研修はモデル的取り組みがあるものの、制度化されていない(はずである)。
学校規模・学校配置の適正化の取り組み
小中一貫教育の効果を高めるために「望ましい学校教育環境」を実現するとし、学校規模・学校配置の適正化を進めている。
➊施設一体型と連携型の2類型で小中一貫教育を推進
小中一貫教育を推進する上では、施設一体型の小中一貫教育校が望ましいとし、施設一体型モデル実践校を整備する。
現在、施設一体型の義務教育学校として、H31年度開校を目指す「鞆の浦(とものうら)学園」(=鞆小+鞆中)、H34年度開校を準備する「(仮称)千年小中一貫校」(=3小学校+2中学校)が計画されている。
34中学校区の内、その多くが「連携型」となる。「施設が離れていることや組織・運営が一本化されていないなどの課題はあるが、一貫教育カリキュラムの充実を通して、効果的、効率的に教育実践を進める」とされる。
担当者は「思いは義務教育学校だが、地域の合意がカギ。34中学校区で1000人以下を基準に再編を検討する」と述べる。
➋学校規模の適正化=適正規模の基準
「集団の中で多様な人間関係を学ぶ機会の充実」と、専科教員の配置・経験年数や専門性などを考慮した多様な教員配置による「指導体制の充実」の教育効果を得るため、学校規模の適正化を図るとする。
そのために小中学校の適正規模の基準を設け、3段階にわけて、順次適正化を図る。
【適正規模基準】
過小規模校(1学級から5学級)及び小規模校(小学校は6学級から11学級まで、中学校は6学級から8学級まで)では、一人ひとりへのきめ細やかな指導を行いやすいが「集団の中で自己主張したり、多様な考えに触れる機会が少ない」「協働的な学びの実現が困難」などの課題があるとする。
また、国基準で大規模校とされる25学級以上の学校では、「一人ひとりの資質や能力を伸ばしやすい」メリットがある一方、「きめ細やかな指導が難しい」「子ども一人あたりの校舎面積、運動場面積が著しく狭くなった場合、教育活動の展開に支障が生じる」などの課題があるとする。
➌複式学級の解消を図る第1要件=第一段階
第1要件は、「小学校で1~5学級、中学校で1~3学級かつすべての学級で1学級当たりの人数が19人以下」と定める。
第1要件に該当する小中学校は6小学校・3中学校で、2020(H32)年度までの早い時期の開校を目指すとする。
第一要件に該当する小学校は、いずれも中山間地域の小学校で、児童数5人から46人規模の学校である。
★再編対象校と再編後の学校規模(作成=布目)
再編対象校 | 児童数 | 再編後の学校の位置 | 再編後の学級数 | 中学校区 | |
小学校6校 | 東山小学校 | 46人 | 今津小学校 | 12学級 | 大成館中学校区 |
山野小学校 | 5人 | 加茂小学校 | 19学級 | 加茂中学校区 | |
広瀬小学校 | 28人 | ||||
服部小学校 | 46人 | 駅家東小学校 | 12学級 | 駅家中学校区 | |
内浦小学校 | 15人 | 千年小学校 | 12学級 | 千年中学校区 | |
内海小学校 | 46人 | ||||
中学校3校 | 山野中学校 | 8人 | 加茂中学校 | 9学級 | |
広瀬中学校 | 22人 | ||||
内海中学校 | 16人 | 千年中学校 | 9学級 |
★地図
➍再編=統廃合にあたっての「考慮すべき事項」
➀通学支援策の検討
➁通学上の安全確保
➂新しい学校生活に向けての教育環境づくり
➃障害があるは児童生徒への支援
➄廃校となる学校施設の利活用
行政主導で進む学校規模・学校配置の適正化
「学校再編は地域活性化のためではない」「まちづくりと教育は別」
教育委員会は、学校再編=統廃合は、子どもたちにたくましく生きる力をつけるためのものであり、地域の活性化のためではない」と言い切る。教育とまちづくりは別物との割り切りである。
こうした政策判断は、ある意味「衝撃的」である。
学校が地域コミュニティの核であることを否定するものではないだろうが、教育委員会で方針化した「福山市小中一貫教育と学校教育環境に関する基本方針」に盛り込まれた小中学校の統廃合の進め方に基づき、地域説明会を開催し合意形成を図るとするスタンスである。
集団の中での学びを保障するためには学校の統廃合は不可避であるとの政策判断で、行政が方針を決めて地域の合意形成を図る手法をとる。「再編統合の公表の後に地域との合意形成」(基本方針より)という段取りに象徴される。
後に触れるが、京都府福知山市の教育委員会は「地域からの合意・提案がない限り、統廃合は検討しない」とのスタンスで、福山市とは対照的である。
それぞれの自治体のスタンスの問題ではあるが、私的には、政策・施策決定プロセスにおける市民合意・市民との協働による政策決定という観点から、学校再編は考えたいものである。
福山市が取り組む小中一貫教育や学校再編に対する市民の受け止めは「言葉は認知されているが、全面的な評価はこれから」とする。
福山市の学校再編は、第1要件とされる中山間地域を中心に進められている段階で、今後、市街地における学校再編(第2要件・第3要件)の今後の成り行きに注目したいところである。
エアコンよりトイレの洋式化を優先
学校教育環境の充実、「健全育成のための教育環境の整備」(基本方針)において、学校トイレの洋式化を計画的に進めるとし、文科省の「児童生徒数に応じた適正便器数」を算定し、全て洋式化するとする。
一方、空調設備については「慎重に検討していく必要がある」とする。エアコン整備により快適な学習環境を提供する一方で、エネルギー消費量の増大や温室効果ガスの排出・ヒートアイランド現象など環境に負荷を与える側面もあるとし、グリーンカーテンなど、地球環境への負荷を少しでも低減する教育的視点をもって取り組みを進める必要、児童生徒の体温調節能力・適応能力を育むという視点からも検討する必要がある」とする。ユネスコスクールのESDの観点からということなのであろう。
長野市では、議会としても小中学校へのエアコンの早期整備を求めてきているところであるが、学校施設のトイレの改修・洋式化も待ったなしの課題である。
福山市の方針は「ウ~ン、そうか!?」ってところである。
体系化された小中一貫教育路線
まずは所感として…
ソフト面から考えると、小中一貫教育のあり方に関し、「福島100NEN教育宣言」に象徴されるように、「すべての子どもたちのために」という理念で貫かれ、教員研修を含めて体系化されている点は学ぶところが多い。
子どもの発達段階に応じ、「4-3-2制」で9年間の教育課程を区分している点は、私的には妥当であると感じている。しかし、長野市教育委員会では「6-3-3制」を維持しつつ、小から中への接続を重視する考えで検討されており、深堀して検証する必要があろう。
また、ユネスコスクールのESD教育の導入という点も興味深い取り組みである。教育環境の整備に関する基本的な考え方にもつながっており、参考にしつつ、長野市の学校教育環境の整備に対する基本的考えを再整理する必要も感じるところである。
ハード面での学校の適正規模、学校再編=統廃合は、前述したように、中山間地域を中心に検討が進められている段階で、今後の少子化にどこまで耐えられるのかという視点から、もう少し調査する必要がある。
また、地域合意の形成の手法についても、他自治体の取り組みと合わせ、慎重に評価すべきであろう。
詳細は別途となります。