先週16日~18日、市議会経済文教委員会で須賀川市、高崎市、金沢市を行政視察で訪問しました。
まずは須賀川市の視察報告です。
須賀川市
福島県の中央部、中通りで郡山市の南に位置する面積279.43㎢、人口77,458人の須賀川市。
3.11東日本大震災で甚大な被害を被り、被災から6年目にして市庁舎が再建される。5月8日にオープンした新庁舎は“復興のシンボル”である。
ウルトラマンの生みの親で特撮の神様とされる円谷英二監督の出身地で、ウルトラマンの故郷「M78星雲 光の国」と姉妹都市(WEB上の仮想都市)を結ぶ。駅前や街中でウルトラヒーローたちのモニュメントが展示され、庁舎前では4メートルの“ウルトラの父”が出迎える。ユニークなまち起こしだ。
須賀川市の視察テーマは「小中一貫教育・須賀川モデル」
H26年度から、子ども一人ひとりが豊かな人間性を育み、可能性を伸ばし、これからの社会を生き抜く力を身に着けることができるよう、9年間の義務教育を一貫したものとしてとらえ、教育活動を展開している。
教育委員会の正木義輝・学校教育課長(教員)、教育主事から説明を受ける。
中1ギャップへの対応、6・3制と子どもの発達段階のずれ、自尊感情・自己肯定感の醸成などの課題解決のため、9年間で目指す児童生徒像や解決すべき教育課題を教職員及び保護者や地域住民で共有し、学習指導要領の目標・内容に基づいた系統的な教育課程の編成、学習・生活の9年間一貫した指導等をそれぞれの専門性を活かし、力を合わせて実施するとされる。
➡須賀川市HP…「小中一貫教育」須賀川モデルの推進
三つの施設類型に分けた一貫教育
市内の16小学校、10中学校を、立地条件等をもとにして中学校区ごとに「施設一体型」「施設隣接型」「施設分離型」の3つの形態に分類、それぞれの中学校区で「小中一貫教育グランドデザイン」を作成する。
◆施設一体型…稲田中学校区。稲田小と新校舎による一貫教育。H30年度開校を目指す。義務教育学校への移行を視野に入れる。
◆施設隣接型…第三中学校区。第三小との一貫教育。
◆施設分離型…8つの中学校区。複数の小学校との一貫教育。
6-3制を4-3-2制に
中1ギャップの解消し、子どもの発達段階とのずれがある「6-3制」を改め、小学校1年~4年(前期)、小学校5年~中学校1年(中期)、中学校2年~3年(後期)の「4-3-2制」で区切る。
「須賀川スタンダードカリキュラム」として、9年間を見据えたキャリア教育、ふるさと学習にウェイトを置いた教育課程が位置づけられる。
中学校の教員が小学校で指導する「乗り入れ授業」、小学校高学年での「教科担任制」の導入、小・中学校の教員が協力して指導にあたる「チーム・ティーチング」などが具体的に展開されている。
これらを可能にするため、教育委員会として小・中学校教員の「兼務発令」がなされている他、小中一貫教育アドバイザーに青森中央学院大学の高橋興教授を選任、小中一貫教育交付金事業(年間400万円)、小中を兼任する学校司書の配置などが進められている。
施設一体型一貫校に位置付けられる稲田小中学校の新たな取り組みとして、小学5年生の音楽の授業と中学1年生の数学の授業があげられる。
小学5年生の音楽の授業には1年を通して中学校の音楽担当教員が指導。中学1年生の数学の授業には中学校と小学校の教員2人が協力する「チーム・ティーチング方式」が導入されているもの。生徒からは取り組みが効果的との声が聴かれるとする。
また、教職員、保護者、地域が一体となった学校づくりを進めるため、「小中一貫地域運営協議会」を設置し、定期的な意見交換が行われている。
H29年度では、全中学校区への学校支所の配置、小中一貫教育担当指導主事の配置、地域人材バンク設立の検討が進められる。
学力は上がるか、不登校は減るか
これまでの取り組みの課題としては、計画と実践において、「計画通りにいかない」⇒「重点化を図ることが不可欠」、小中の協働では「小中の時間のすり合わせが難しい」⇒「校種を超えた意識改革の必要性」、連携・協同では、「保護者の意識が高まっていない」「PTAどうしの連携の機会の確保」「公民館の活用」等が挙げられている。
学力向上はこれからとされるが、小4~中3の市独自の学力調査の経年比較によれば学力は上がっているとされる。
また、不登校も減っているとされる。
教員の負担増と意識改革
小・中の交流を促進することから、教員の負担は増えているが、一貫教育の成果が見え、やりがいが実感される中で意識改革が進んでいるとされる。
教育システムとして素晴らしい小中一貫教育の形ができて、「自尊意識は高まるか?」「学力は上がるか?「不登校は減るか?」。
この課題解決のカギは、「日々の授業の質を問い、教員一人一人の力を上げること」=「教員の質の向上と意識改革」だと強調される。
教員は県人事であることから、指導の持続性・系統性が課題になると思われるが、「須賀川市として教員を育てる効果かある」とされる。
須賀川市の取り組みに学ぶ点
義務教育学校も視野に入れた施設一体型の一貫校を軸に、施設分離型の小中連携を柱とする一貫教育が須賀川モデルの特徴と言えよう。
今のところ、義務教育学校ありきではなく、「4-3-2」制の区切りを導入するものの、学習指導要領に基づき9年間の一貫教育を位置づける(須賀川スタンダードカリキュラム)もので、学習指導要領の許容範囲内で可能な限り教育目標や教育課程を統一し、運営体制や指導体制を一体化して行おうとするもののように見受けられる。
中1ギャップの解消に向けて、中学教員の小学校への「乗り入れ授業」、小学校高学年での「教科担任制」、小・中の教員が協力して指導にあたる「チーム・ティーチング」の展開を拡大していくことで小中一貫教区の目標達成を図ろうとするものと言えよう。
学習指導要領等によらず学年を前倒しし先取り学習が認められる「教育課程特例校制度」の活用を見据えているとも考えられる。
この点に関し、須賀川市の学校教育課長が、「既存の小中学校のまま、義務教育学校に準じた形で一貫教育を行う形態も認められた」(例えば、先取り学習など)と指摘された点は要チェックである。
また、小規模小学校の統廃合ありきで進んでいない点もポイントといえるが、少子化が進む中で持続可能な仕組みとなり得るのか、今後の課題となるのではないかと思われる。
「小中一貫教育・須賀川モデル」は、ある意味、オーソドックスな取り組みといえるのではないか。スタンダードカリキュラムの特徴・意義をさらに調査する必要がある。
小中一貫校の仕組み・形式もさることながら、中1ギャップへの対応、6・3制と子どもの発達段階のずれ、自尊感情・自己肯定感の醸成、学力の向上など目的意識を明確にした取り組みは、視点として重要である。
特に教員の質の向上、意識改革が重要とする点も押さえておきたい課題である。
長野市の小中連携・一貫教育の「今」
少子化に対応した新たな学校づくりの在り方、学校の規模や配置、通学区域を検討する「活力ある学校づくり検討委員会」(諮問機関)が設置され、H30年7月の答申に向け、検討協議が本格化している。
義務教育9年間のスパンで子どもの学び・育ちを支える長野市版の小中連携・小中一貫教育の基本的なあり方をまとめるものである。
長野市教育委員会では、24中学校区で小中学校の接続タイプを4類型化している。
1.完結ネットワーク型…複数の小学校児童が一つの中学校に進学する完結型(3中学校区 松代・若穂・豊野)
2.複線ネットワーク型…複数の小学校から複数の中学校に分かれて進学する型(14中学校区 櫻ヶ岡・東部・東北・裾花・川中島・篠ノ井東・川中島など)
3.分離型(縦連携型)…同一地域内にあるが小中の校舎が離れている分離型(4中学校区 信更・戸隠・信州新町・中条)
4.併設型…同一敷地内に小中が隣接する併設型(3中学校区 七二会・鬼無里・大岡)
*下線中学校が連携推進ディレクターの配置校
市街地の中学校区は「複線ネットワーク型」で、中山間地域で「完結ネットワーク型」「分離型」「併設型」の3パターンに分かれる格好だ。
H27年度から「連携推進ディレクター」を11中学校区に8人配置し、地域とともに「地域発スクールモデル」を構築するモデル事業を実施している。
この連携推進ディレクターによるモデル事業(地域を交えた小中の交流事業)を基盤にして、小中連携、小中一貫の集団で学び合える豊かな教育環境の構築と学力向上を目指すとされる。
公共施設マネジメント指針に基づく小学校・中学校の施設の在り方の視点も交えながら、検討が進むことになる。
学校教育法の改正により、9年間の義務教育学校が創設され、また研究開発学校制度や教育課程特例校制度を設けたこと等により、小中一貫教育は自治体ごとに多様な展開を見せている。
それぞれと特異な歴史と伝統を持つ地域性を踏まえながら、小中連携・小中一貫教育の在り方の慎重な検討が求められるところである。
学校が“地域コミュニティの核”であることを踏まえ、保護者や地域住民の参画を求めつつ、十分な理解と協力を得ていくことが不可欠であろう。
いずれにしても、9年間の子どもの学びと育ちを支える教員の質の向上、意識改革は、今から取り組まなければならない必須課題である。
発祥から250年の須賀川牡丹園を案内いただく
庁舎で行政視察の後、須賀川牡丹園をご案内いただきました。
東京ドームの約3倍の10ヘクタールの園内に290種類、7000株ものぼたんの大輪の花々が咲き誇る国指定の名勝です。250年の歴史だそうです。
ピークは過ぎているとのことでしたが、大輪の牡丹を愛でさせていただきました。