10日、長野地区公共交通対策会議のメンバーで、新潟市内の北陸信越運輸局に出かけ、屋代線復活の展望等について意見交換してきました。運輸局では企画観光部交通企画課、鉄道部計画課から専門官や課長、課長補佐の皆さんら7人に対応いただきました。忙しい折に快く引き受けていただき、ありがとうございました。
■国交省…「屋代線の廃止・バス代替は望ましい結果ではない」
特筆すべきことは、屋代線の活性化・再生を目的とする長野電鉄活性化協議会が住民合意のないまま多数決で「バス代替」を決めたことについて、地域公共交通活性化再生法の目的趣旨を逸脱するのではないかとの問いに、計画課長が「沿線住民も加わり決めたことで、止むを得ない結果、尊重せざるを得ない」とする一方、「望ましい結果ではない」とするともに「(全国への波及を考えたときに)好ましい事例ではない」との認識を示したことです。
今日的に、こうした国交省の認識が示されたとはいえ、来年3月の「廃止」は既定事実であり、バス代替運行計画づくりが粛々と進んでいくことを転換させる力には残念ながらなりません。しかしながら、屋代線の再生において「望ましい方向がある」ということは間違いないということでしょう。
■屋代線の復活の可能性に関する意見交換のポイント
意見交換では、国交省の「地域公共交通確保維持改善事業」における鉄道再生事業の支援スキームについてレクを受けた後に、私たちからお願いしたテーマについてやり取りしました。全部を網羅できませんが、簡単にポイントを5点、整理してみました。
➊一旦廃止決定された鉄道を復活させる道は二つ。一つは鉄道事業者である長野電鉄が「廃止届」を取り下げるか、廃止時期の繰り下げを届け出る道。二つは法定協議会の総合連携計画を見直し、鉄道再生実施計画をまとめ新規事業として申請する道。この場合、再生計画では採算や経営を分析し、10年間で黒字にする計画が必要となる。運行会社の存在と黒字再生計画の策定がハードルとはなるが、いずれの場合も「鉄路を残す」といった沿線市の方針転換が不可欠ということだ。言わずもがなではあるが、これが最大の課題である。
➋地域公共交通確保維持改善事業の鉄道事業への支援スキームは、バリアフリーとLRT化、安全輸送設備整備の三つ。バリアフリー化設備等整備では、3000人以上の利用者がある場合にエレベータの設置を必須とし、段差解消、転落防止設備、駅舎・待合施設の環境整備を支援する。LRTシステムの整備では、低床式車両の導入、停留施設整備、制振軌道整備、変電所整備、車庫整備などを支援する。地域鉄道の安全性の向上のためには、設備投資工事(機能向上、老朽更新)に加え、車両の整備や線路設備(橋梁やトンネル)の修繕工事も対象とし、補助対象経費の3分の1を国が補助する。安全設備整備であることから自治体の協調補助を要件としない。いずれも、任意の地域協議会で「生活交通ネットワーク計画」または「生活交通改善事業計画」を策定することが前提とされ、補助金は協議会ではなく事業者に対し交付されるスキームである。基本的に鉄道事業への支援は安全設備整備にウェイトがおかれ、利便性の向上、利用促進に向けた支援メニューが薄いことが欠点といえよう。
➌LRT化への支援は確保維持改善事業におけるスキームの他、地方整備局の都市再生整備事業、路面電車空間確保整備事業などがあり、複合的に支援を活用することが可能となる。ただし、鉄道事業法と軌道法の根拠法に照らし、新規事業として国交省の「許可」が必要となる。屋代線の場合、直ちに「許可」される見通しは厳しいのではないかとの認識が示される。この場合も総合連携計画の見直し、または河東地域における新規のLRT敷設事業の決定が必須となるということであろう。
➍地域公共交通活性化再生法を根拠法とする「鉄道事業再構築事業」(上下分離方式等を支援するスキーム、国補助3分の1)は確保維持改善事業と併存し残っている。
➎地域公共交通確保維持改善事業は、地域における任意の協議会による協議を前提としているが、協議会の構成団体に尊重遵守義務が課されていないが、これは安全性などハード面の整備支援にウェイトがおかれているためだとする。また、労働者代表が構成要件とされていない点では、同様の理由により「最小限の構成で足りる」との認識を示す一方、「(労働者代表の構成は)協議会で検討すべき課題」とする。因みに長野電鉄長野線の活性化を協議する協議会には労働者代表は入っていない。
■事業仕分けに端を発する「確保維持改善事業」の限界と課題
全体を通じての感想です。 「地域公共交通確保維持改善事業」は、事後補填から事前算定への方式変更など効果的・効率的な支援策とされ、陸上交通(バスや鉄道)と離島交通をまとめ、バリアフリー化の一体的促進を図ることが柱となっています。交通モードごとの個別支援から、公共交通ネットワークを視野に入れた一体的支援という意味では前進したものと思いますが、制度が何とも複雑です。しかも、予算では305億円で従来を大きく上回るものの、支援事業は、自治体との協調補助を要件とせず、事業者に直接補助することが基本とされ、事業者にとっては都合が良く、悪く言えば自治体も手を抜けるようなスキームになってしまっていると感じます。ハード面が主であることから事業に対する事前評価・事後評価が制度化されておらず、補助金の垂れ流しを助長する危険性が拭えないところもあります。
活性化再生法では、地域公共交通の活性化・再生に向け、事業者・行政・利用者が三位一体で取り組み、利便性の向上、利用促進を図ることを主眼としていましたが、国の事業仕分けで「自治体及び住民の課題」とされたことに端を発し、しかし、地域公共交通の活性化は喫緊の課題とする認識の間で、一つの“妥協的知恵”として生まれたのが「確保維持改善事業」といえるのではないでしょうか。国交省担当者の苦しい胸の内を覗かせていただいたような気がします。
いわば強制力のあった地域公共交通活性化・再生法の目的を薄める事業化になっていることが課題です。交通基本法の制定をにらみ、改めて公共交通の活性化・再生を主眼とする仕組みに改革・改善していくことが必要です。
■さて、屋代線の将来は?
運輸局での意見交換で、正直に言ってなかなかの難問であることを改めて痛感はしました。しかし、交通基本法の制定等を見据えながら、鉄道復活を改めて俎上にあげ、補助メニューを活用しながら鉄路再生を具体化していく可能性が残っていることも事実です。可能性にかける取り組みを粘り強く進めたいと思います。
11月1日のブログで、鉄路復活を展望する際のハードルとして、一つに鉄道資産の沿線市への無償譲渡、二つに上下分離方式の導入を含め鉄路存続への沿線3市の構え・方針転換、三つに運行を受託する鉄道会社、そして四つに沿線住民の存続運動と全市的な合意形成、4つあるとし、最大のハードルは長野市の方針転換であると書きましたが、ここを突破する道を切り開かなければなりません。
屋代線鉄道用地の無償譲渡の提案を受け入れ、有効活用の中に鉄路として活用し直す道を位置づけることがまず必要だと思います。その上で、ディーゼル化、あるいはLRT化、DMVの導入など、運行形態、運行方法、運行会社及び経営計画を沿線住民の「屋代線復活の案」として取りまとめ市民合意を得ることです。そして、こうした取り組みを支える沿線住民の一体となった熱意ある運動の広がりを作ることです。
こうした観点から、議会内の議論も作り、長野市をはじめとする沿線3市の方針転換を迫る包囲網を形成していきたいと考えます。