3月19日に、「3月議会質問より➊…庁舎・芸術館に686箇所のひび割れ 第三者の専門機関による検証を」をアップしました。
【関連】1703193月議会質問より➊…庁舎・芸術館に686箇所のひび割れ 第三者の専門機関による検証を
その際に『日経アーキテクチュア』(日経BP社の建築専門誌)の特集記事を紹介しましたが、掲載誌である3月23日号を送っていただいたので、内容を掲載します。
後半は、日経BP社のネット速報からです。
「免震ゴム交換が原因」の報道に構造家が反論
『長野市庁舎のRC外壁にひび割れ 「免震ゴム交換が原因」の報道に構造家が反論』といった、なかなか”刺激的”な見出しの特集です。
庁舎・芸術館の構造設計者である梅沢建築構造研究所の梅沢良三代表に取材した内容がポイントです。
PDF版を分割でアップします。
➡3月23日付日経アーキテクチュア特集記事【その1】PDF版
➡3月23日付日経アーキテクチュア特集記事【その2】PDF版
取材を受けた日経BP社の記者から転載を承諾いただいています。
工事施工者との見解の相違…どう評価するのか
記事は、免震ゴム交換工事のジャッキアップが適切だったかを疑う声が上がっていることに対し、構造専門家の梅沢良三氏の「コンクリートの乾燥収縮が原因」とする反論を掲載したものです。
「ひび割れの発生率の高さは壁面の大きさが反映」、「限られたジャッキで建物に生ずる歪みを最小限に抑える工事手法をシミュレーションした」とし、『「ジャッキアップすると壁にひび割れが入る」と世間が疑心暗鬼になる事態は放置できない』とします。
1000基のジャッキが必要な工事を500基でジャッキアップしたが、建物にひずみが生じないようコントロールされた交換工事であったと強調しているわけです。
しかし、工事施工者側の「免震ゴム交換のためのジャッキアップ、ダウンを繰り返したことにより、乾燥収縮に伴うひび割れの発生が助長された可能性は否定できない」とする説明とは整合がとれません。
『「ジャッキアップすると壁にひび割れが入る」と世間が疑心暗鬼になる事態は放置できない』と強調しますが、ジャッキアップ一般論を問題視しているのでなく、必要なジャッキの半分で行わざるを得なかった変則的な交換工事の適正を問うているのです。
外壁のひび割れの補修工事の費用は、免震ゴム偽装を行った東洋ゴム㈱が負担しています。免震ゴム交換工事に起因するひび割れ補修であるからこそ、原因者として費用負担しているわけです。「免震ゴム交換が原因ではない」とする梅沢氏の反論では、瑕疵担保責任を誰が負うのかという問題を新たに派生させます。その意味でも根拠希薄と言わなければなりません。
専門的な知見があるわけではありませんが、素人感覚、市民感覚に応えられる反論とは言い難いと感じます。
求められる第三者機関による”お墨付き”
梅沢氏は、庁舎・芸術館の構造設計者ですから、庁舎・芸術館の建物構造に熟知されているとは思いますが、工事関係者です。しかも、施工者側との見解の相違は看過できません。
やはり、第三者による”お墨付き”が求められるのではないでしょうか。
独自に意見を求めた福岡大学の高山教授の意見も聴いてみたいと考えます。
以下は、3月15日付で日経アーキテクチュアのネット速報版で掲載された内容です。
長野市庁舎のRC外壁にひび割れ
「免震ゴム交換が原因」の報道に構造家が反論
[写真1]ひび割れ補修のためシートで覆われた外壁。長野市第一庁舎・芸術館は、地下2階・地上8階建ての鉄筋コンクリート(RC)造。打ち放しコンクリートの外壁が特徴だ。現在はひび割れの補修工事のため、工事用のシートで覆われている(写真:日経アーキテクチュア)
2015年11月に完成した長野市第一庁舎・芸術館は、打ち放しコンクリートの壁面を基調としたデザインが特徴だ。しかし17年3月3日現在では、その大部分が工事用のシートで覆われている。外壁に発生したひび割れを補修するためだ。
長野市総務部は2月18日、「免震装置交換後ひび」と毎日新聞が報じたことを受けて「コンクリートの外壁に幅0.3㎜のひびが11カ所で確認された」と市議会議員に報告書を配布した。しかし、2月21日付の施工者による調査報告書で、0.2㎜以上0.3㎜未満のひび割れが674本、0.3㎜以上が12本見つかったことが明らかになった。
[写真2]外壁補修の様子。幅0.2㎜以上のひび割れには樹脂を注入する。それ以下の幅のひび割れにははっ水剤を塗布した(写真:布目 裕喜雄)
長野市は3月2日の市議会で、ひび割れの発生について、「現在までのところ、不正常な事態、異常な事態とは考えていない」と説明している。
外壁のひび割れは、隙間に樹脂を注入する補修で対応している。ひび割れ幅が比較的小さな箇所は、はっ水剤を塗布するなどの手立てを打った。外壁を目視した限りでは、補修跡は目立たない。
しかし、ひび割れの発生と免震ゴム交換には因果関係を追及する声が上がっている。
ジャッキアップは適切だったか
地下2階・地上8階建ての複合施設である市第一庁舎・芸術館は、槇総合計画事務所・長野設計協同組合共同企業体(JV)が設計を手掛けた。東洋ゴム工業が不正に大臣認定を取得していた高減衰積層ゴム支承を90基使用していた。免震偽装問題の発覚後、全てをブリヂストン製に取り換えた。
地下1階、2階に建物を支える90基の免震ゴム支承を設置。免震ゴム支承は全てブリヂストン製に交換した。90基のうち10基は交換品の高さが高かったため、コンクリートの土台をつくり直してから交換した(資料:長野市の資料をもとに日経アーキテクチュアが作成)
交換工事は第1工区(芸術館側)の建築工事を手掛けた前田建設工業・飯島建設JVが担当した。15年8月に開始して16年3月に終了した。同年6月の市議会総務委員会では、「0.3㎜のひび割れが5カ所」と説明されていた。
市議会では社会民主党の布目裕喜雄議員などが「免震ゴム交換時のジャッキアップの工事方法が適正であったか」と市に質問している。複合施設は地下1階と地下2階を免震ゴムで支える複雑な構造となっている。この建物が大地震発生時には水平方向に約40㎝動く。免震ゴムの交換は当初、1000基のジャッキを調達して建物全体を持ち上げる計画だった。
免震ゴムの交換作業の様子。青色の機材がジャッキ。工事最中に地震が発生する場合を想定し、ジャッキ底面には免震ゴムの動きに追従する機能(すべり支承)を持たせた(写真:長野市)
免震ゴムの交換工事は地震発生を想定して、施工時の構造安全性を担保しなければならない。そのため、ジャッキ底面には免震ゴムの変形に追従するすべり支承が必要になる。
しかし、1000基を集めるには時間がかかり過ぎた。市総務部の担当者は「ジャッキを集め終わるまで、不正免震ゴムを装着したまま待つことになる。早い時期から交換するため、約500基で安全に実行できる工法を、建築構造の専門家に考案してもらった」と説明する。
市が依頼した専門家とは、同複合施設の構造設計者である梅沢建築構造研究所の梅沢良三代表だ。
ひび割れは「乾燥収縮が原因」
「ひび割れは構造安全上、問題ない」と説明する梅沢良三氏(写真:日経アーキテクチュア)
梅沢代表は外壁のひび割れの要因を「乾燥収縮」であるとし、「構造安全上の問題はない」と断言する。その理由は以下だ。
「ひび割れはコンクリートを打設した階ごとの打ち継ぎ目地を境目として、繰り返し現れている。打ち継ぎ目地の直下階と直上階の外壁では、打設したコンクリートが乾く時間に差が生じる。この差が収縮亀裂を発生させる」
「今回のひび割れは、この亀裂パターンと一致する。ジャッキアップなどで構造体に外部応力が加わった場合のひび割れは、力学的つり合いが集中する壁面の中央部に現れるため、乾燥収縮によるひび割れとは顕著な差がある」(梅沢代表)
免震ゴム交換の手順を記した資料。建物全体を持ち上げるだけのジャッキがないため、免震ゴムの交換を8つのステップに分けて、第一庁舎側から順にジャッキアップした。オレンジ色の部分は本誌が加筆。(資料:梅沢建築構造研究所)
建物を無理やりジャッキアップすれば、上部構造に損傷を与えかねない。梅沢代表は限られたジャッキで建物に生じるひずみを最小限に抑える工事手法をシミュレーションした。そこで考案したのが、免震ゴムを8列に分け、第一庁舎側から芸術館に向かって順に建物を持ち上げながら、交換していく手順だ〔図2〕。
免震ゴムを交換する列は9㎜ジャッキアップ。隣り合う2つ先の列までジャッキを設置して軸力に相当する上向きの力を加える。交換位置にある1列だけを持ち上げると、構造部材に過度の力が加わってしまう恐れがあるためだ。梅沢代表は「周囲の軸力を開放することで、部材の変位は2㎜ほどに抑えた」と話す。
一方、施工者側は市に対して、「免震ゴム交換のためのジャッキアップ、ダウンを繰り返したことにより、乾燥収縮に伴うひび割れの発生が助長された可能性が否定できない」と説明している。市によると、ひび割れの補修工事については、東洋ゴム工業が自費での工事実施を申し出ているという。
<訂正> 2ページ目5行目を「交換工事は第1工区(芸術館側)の建築工事を手掛けた前田建設工業・飯島建設JVが担当した」に訂正しました。(2017年3月15日午後1時)