談合により公正取引委員会から「排除措置と課徴金納付命令」の行政処分を受けている富士通との随意契約の問題は9月市議会の焦点の一つとなっています。
随意契約は7件、1億1500万円余
7月12日の公正取引委員会の富士通に対する処分決定後に、計7件、1億1,500万円余の随意契約を富士通と結んでいた問題です。
内1件「国民健康保険のシステム改修」にかかる契約が市長の専決処分で決済され、この議会に承認を求める「承認議案」として提出されたことに伴い、小泉一真議員の指摘で発覚したものです。
議会初日の状況は9月1日付のブログを参照ください。
➡160901ブログ「9月市議会定例会始まる…専決処分で初日即決見送りに」
*専決処分とは?
本来、議会の議決・決定を経なければならない事柄について、地方公共団体の長が地方自治法の規定に基づいて、議会の議決・決定の前に自ら処理すること。専決処分には2種類あって、今回の専決処分は地方自治法179条の「議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき」に基づいて行われている。直近の議会で承認を求めることとなっている。なお、「議会で不承認とされても専決処分の効力は失われない」と解されている。
駆け込み専決処分を疑わせる不透明な経過
長野市は8月1日付で富士通に対し「2か月間の指名停止処分」を市長決済していますが、業者の指名停止処分を審査する「請負工事審査委員会・物品等供給業者審査委員会」が開かれたのは7月28日、この前日27日に市長は国保特別会計 補正予算を専決し、処分の市長決済までの1営業日である7月29日に富士通と随意契約を行っています。
この経過が極めて不透明です。
指名停止処分内定の前日に補正予算を専決し、指名停止処分の発効前の1営業日に随意契約が締結されていることになります。
何か意図があったのではと疑いたくなるような経過となっています。
締め切りに追われる事務執行…理解はするのだが
国民健康保険課では、➊国保の県域化に伴い国保データを厳守とされた締切日8月10日まで県に提出するのに必要なシステム改修であったこと、➋「MICJET(ミックジェット)」と言われる国保システムの改修となりますが、このシステムが住民基本台帳や印鑑、年金等とのパッケージシステムで社外秘情報を含むし捨て家であることから開発事業者以外の他社が改修を行うことができないこと、➌システム改修費は全額国庫負担ですが、その内示が7月26日までずれ込んでいたことなどから、富士通との随意契約はやむを得なかったとします。
担当課において、県の締め切りに迫られる中で、その対応に追われていたという状況は理解できます。
しかしながら、談合で公取委から行政処分を受けている富士通との随意契約がやむを得ないことについての説明責任は残されています。
「やむを得ないとしても、本当にいいのだろうか」との問い返しはなかったのでしょうか。
市長…「適切さを欠いた説明でお詫び」
本会議最終日、市長は今回の専決処分にかかる対応について、「議員への説明に適切さを欠き、また議会の進行にも混乱を招いたことをお詫び申し上げる」と述べ、「今後は議員への説明についてはより丁寧に行うよう心掛けるので、理解をお願いしたい」と「幕引き」の姿勢を滲ませました。
しかも、最大会派・新友会の議員の最後の質問に答える形での“演出”です。
それでは、「欠いたとされる適切な説明」の中身が、議会に対して、市民に対してきちんと開示できているのかと問いたくなります。
演出にも内容にも釈然としません。
問題の本質がどこにあるのかを全く理解していない市長答弁といわなければなりません。
「お詫び」で済む問題ではありません。
市長発言撤回の顛末
この市長の答弁の前日8日、小泉一真議員の「反省すべき点はないのか」との質問に対し「様々な課題があったというふうには認識した。ただ、担当部局においては、状況を的確に判断して、私に進言したという風に信じている」と答弁。
さらに「(国保データの照会について)国は期限後ろ倒しの相談には応じていたのに、その相談をせず、議会の権能を犯していることも適当な判断ということでよいのか」との質問に対しては「そういうことだ」と開き直りともとれるとんでもない答弁をする顛末も。
さすがに、休憩再開後に「今回の富士通の契約に関し、議会の権能を侵したのではないかとの趣旨を十分くみ取らず、これを認めるような答弁の表現をしたものであるが、これを撤回し、そのような意思は全くなく、あくまでも地方自治法に認められた市長の権限の一つとして専決処分を行ったもの」と、一部発言を撤回し再答弁しました。
首長の「専決処分」は、議会の権能を制限するが故に「緊急の場合」(地方自治法179条)という条件を付しています。いろんな評価・見解がありますが、地方自治法で認められている緊急避難的措置であり権能であることは事実ですから、市長の答弁は一連の富士通との随意契約の問題とは別に地方自治法を理解していない間違った恥ずかしい答弁です。
もっとも、「国と相談していないことも適当とする」部分は要チェックなのですが…。
休憩中に黒田副市長に「あの答弁のままで理事者の皆さんは良しとするのか、撤回するなり修正するなりの対応が必要なのでは。あれでは職員のモチベーションが持たない」と申し上げた経過があります。
私的には「職員のモチベーション」が気がかりだったのですが…、説明責任が果たされていないという点においては議会の権能をなめているといわなければなりません。
公務員の毅然たる倫理観が問われる
今回の問題は、談合という企業の不正・不法行為に如何なる見識をもって対応するのか、公務員の倫理観、緊張感が問われている問題であると考えています。
不正・不法行為に対する毅然たる姿勢が見えないということです。本当に正しい契約行為足り得るのかという問い返しが、必要な事務執行に追われる中で欠落していたのではないかということです。
「まずいのでは」との問題意識があれば、例えば、「請負工事審査委員会」を前倒しで開き迅速に対応するとか、県に対し国保データ提出期限の相談をしたりとか、富士通に対し事務の中断・停滞による損害賠償が可能かを検討したりとか、様々な対応が考えられたはずです。
議会前の議案説明の際に、富士通の談合問題が一切触れられなかったことが、厳しい言い方をすれば、事務執行を正当化するため、むしろ隠蔽していたのではないかとの疑惑すら浮かび上がってくる重大な問題であるということです。
その根っこに、やはり問題意識が希薄であった、或いは欠落していたということがあったのではないかと思わざるを得ません。
少なくとも、契約課における「指名停止」の検討・決定と、それぞれの担当課における事務執行が、きちんと連動していないが故に、後追い説明に追われることになっていると思います。
市の「物品等入札参加者指名停止等措置基準」の「第6項」は、「市長は指名停止の期間中の有資格者を競争入札に参加させ、または随意契約の相手方としないものとする。ただし、やむを得ない事由があると認めるときはこの限りではない」と規定しています。
「指名停止処分中であっても随意契約できる」ということになるのですが、この規定の説明も、後付け・後追いの釈明の感が否めません。
システムがパッケージで、本体契約している富士通との随意契約で対応せざるを得ないとしても、「なぜ、不法行為を犯している企業と随意契約を結ばざるを得なかったのか」、反省を込めた説明責任、談合企業との随意契約に対する道義的責任が問われているのです。
「長野市の指名停止処分が決定していない段階だから」という言い訳は通用しません。
今の状況では「承認できない」…委員会審査も見極めるが
私としては、承認できる状況には全くないと考えています。
会派内で検討・協議を重ねています。
さらに、富士通との随意契約に伴う対応は、専決処分の1承認案件だけでなく、情報政策課等とのシステム改修契約にも及び一般会計補正予算案にも含まれますから、それぞれ検討する必要があると考えています。
週明け、12日の総務委員会、13日の福祉環境委員会で審議されることになります。市側がどんな姿勢を見せるのか、見極めたいとは思います。
私が所属する総務委員会は、福祉環境委員会に付託されている専決処分承認案件に関連し、委員会の前段に「協議会」を開くとの連絡がありました。
「協議会」は議事録に残りません。何故、協議会なのか、この点も含めて対応が必要でしょう。
そもそも富士通の談合事件とは?
朝日新聞デジタル版(7月12日付)から引用します。
「東京電力が発注した通信設備の納入で談合を繰り返したとして、公正取引委員会は12日、電機大手の富士通と大井電気に独占禁止法違反(不当な取引制限)で計約4億円の課徴金納付命令を出した(富士通に対しては2億8千万円)。NECも談合に参加していたが、違反を事前に申告したため命令を免れた。 発表によると、談合があったのは、発電所や変電所の異常を本社に伝えたり、落雷などの際に遠隔操作で送電ルートを変えたりする保安通信設備。東電が指名した数社のうち、最安値の見積業者と契約する方式で、3社は自分たちだけが指名された場合に限り談合をしていたという。 少なくとも2011年4月~14年12月に240件(総額約154億円)の発注があり、このうち200件超で談合があったという。」既に5月段階で、「公取委が富士通に対し課徴金納付命令を出す方針を固めた」と報じられていました。