会津若松市議会(11月15日議会運営委員会視察より)
福島県会津盆地の東南に位置する旧会津松平藩の城下町、白虎隊や戊辰戦争に象徴される歴史ある都市。面積383.03㎢に4.78万世帯、人口約12.5万人。財政規模は437億円。
市議会定数は30人。会派は3人から最大で9人、ある程度ばらついている点が特徴といえる。
会津若松市議会の視察テーマは➊議会運営・議会の活性化、➋市民との意見交換会、➌政策討論会、の3点。 【写真は会津若松市庁舎】
会津若松市議会における議会改革等のポイント
(1)議決責任を重視する議会基本条例
①H19年、議会制度検討委員会(任意の委員会)を設置し、議会基本条例と政治倫理条例の制定を検討。理論研究として北海学園大学・神原勝教授、福島大学・松野光伸教授を委員会の学識経験者・外部委員とする他、公募市民委員も委員としている。
②議会基本条例の定義として「自治体の政府制度である二元代表民主制を首長と対等に担う議会が、主権者市民の負託にこたえて優れたまちをつくるために、議会運営の理念、理念を具体化する制度、制度を作動させる原則などを定めた条例で、当該自治体レベルの議会運営に関する最高規範として位置づけたもの」(神原勝教授)から、「市民にとっての新たな価値創造に向け、市民参加を基軸とした政策形成サイクルの確立と実践によって、積極的な政策形成を行い、まちづくりに貢献していく、そのためのツール」と再定義。
③政策形成の主要3ツールとして、市民との意見交換会(第5条)、広報広聴委員会(第6条)、政策討論会(第13条)と位置づける。
【下図は「議決責任からの流れ」…『議会からの政策形成』(ぎょうせい出版)より】
④第8条で「議会は、議決責任を深く認識するとともに、議案等を議決し、自治体としての意思決定または政策決定したときはね市民に対して説明する責務を有する」と規定。議決責任を重視し、そのために、市民との意見交換会で問題発見し、広報広聴委員会で課題を設定、政策討論会で問題を分析し、議員間討議を通じて政策立案につなげ、説明責任を果たしつつ議決に責任を負うという政策形成サイクルをツールとしてシステム化している。
*会津若松市議会基本条例
【下図は「政策形成サイクル」と「ツール」について…『議会からの政策形成』(ぎょうせい出版)より】
(2)政策形成サイクルにおける政策研究と政策立案・決定・評価の位置づけ
①政策研究という位置づけで、「問題発見⇒課題設定⇒問題分析」につなぐ
*市民との意見交換会で市民から「意見を聴取」
*多様・多数の「意見を整理」し、「問題を発見」
*発見した問題を一般化・抽象化することで「課題設定」へ
*設定された課題について、優先順位・重要性・緊急性等を考察・
評価する「問題分析」
②政策立案・政策決定・政策評価
*上記の政策研究に基づき、政策討論会などを通して、調査研究を
行い、具体的な政策(条例化・議案の修正・政策提言等)として
立案・決定に結び付ける。
*合わせて、政策執行による地域振興と市民福祉向上への成果を市議会全体の価値尺度で評価し、説明・報告する。 【写真は会津若松市議会議場で、基本条例の意義を熱く語る議長】
(3)市民との意見交換会…意見聴取で問題発見し、課題設定につなぐ
①第5条(市民と議会との関係)の6項で「議会は、市民に対し、議会で行われた議案等の審議の経過及び結果について報告するとともに、政策形成に関する意見交換を行うため、市民との意見交換会を開催しなければならない」と規定。
②意見交換会は地区別と分野別に実施。地区別は市内15地区(6人・5班編成)で開催、1地区あたり前後期1回ずつ開催。分野別は政策立案等の必要に応じてまたは各種団体等の要請に応じて開催。
③議会に設置した「広報広聴委員会」で、各班から報告された意見等を整理・検討し、課題を設定する。
④意見交換会は当初、議員定数や議員報酬の話、地域課題の陳情や要望が主であったが、回を重ねる中で、市の重要政策・施策に関する要望へと変化しているとされる。市民の意見を市長に伝達するだけでは議会は単なる[使者]にすぎず、その意味では意見交換会は議会活動ではないと解説する。市民の意見を、議会内に「政策情報」として蓄積することが「議会活動」というための必要条件とする。
⑤会津若松市では、長野市における「元気なまちづくり市民会議」のように市長サイドからの直接的な市民との意見交換会が組織されていない。こうした行政側の取り組みが背景の一つになっていると思われる。こうした事情から、議会サイドの意見交換会が市民の要望や意見の把握の「場」になっているといえる。首長サイドの意見交換会と議会サイドの意見交換会は、自ずと性格・目的が異なることから、長野市議会における実施を考えた場合、位置づけを整理する必要があろう。
⑥市民の参加は1回につき全体で200人~300人。会場毎では20人前後(区や団体、地域の役員)で減少傾向にあるとのこと。高齢者が中心で、主婦層・若年層の参加が課題とされる。
(4)政策討論会
①第13条で「議会は、市政に関する重要な政策及び課題に対して、共通認識及び合意形成を図り、もって政策立案、政策提案及び政策提言を推進するため、政策討論会を開催するものとする」と規定し、政策討論会に関する事項は「規定」して定めている。前条12条の「議員間の討議による合意形成」の具体化を図るものと位置づけ。
②討論テーマは、議員・会派・広報広聴委員会が提案し各派代表者会議で決定。全体会と分科会をもつ。全体会は議員全員により構成し、議長が主宰。分科会は常任委員会に相当する第1~第4の分科会で構成し、委員長が主宰する。常任委がスライドし、委員会とは別ステージでの討論の場とされている。
③常任委員会での議員間討議は、定例会招集後に「委員会としての論点の抽出」を行うための事前打ち合わせを経て、議案ごとの抽出論点を「一覧表」として取りまとめ、市当局と質疑。その後、委員だけで論点ごとに争点を確認し、議員間討議の有無を確認、採決するという流れだ。
参考にすべき事項として
(1)市民との意見交換会や政策討論会の取り組みは大いに参考にしたい課題である。議会基本条例を制定した多くの議会で取り組む「議会報告会」を「市民との意見交換会」と位置づけている点は、中核市的な中規模自治体にあっては、現実的な対応となるのではないか。長野市議会における市民説明会を発展的に位置づけ、市民の意見の把握に重点を置く取り組みとして実現を図りたいところである。
(2)議員間討議・政策討論会は、実際の具体例をみると、長野市議会における委員会審議等においても行われているものといえる。議会内の合意形成を図るにあたり、論点・争点として目的意識的に取り組まれている点に意義があるといえよう。
(3)全体的に政策形成サイクルとしてシステム化されている点が大きな特徴である。学識委員・外部委員の問題意識によるところが大きいと思われるが、二元性における議会としての一元が、市民の意見に基づき、政策形成を担い、説明責任を果たしつつ市民との合意により市民の負託に応える流れを論理的に整理しようとする試みは学ぶところが大きい。
(4)議長は効果として、議員が事前学習をするようになったこと、会派の垣根が低くなったこと、政策づくりが芽生えてきているとした。政策・施策の論点が明確になる一方、議員間討議は個々の議員の主張に留まり、討論になりきっていないことも課題とした。発展途上の課題といえよう。始めることが大切だということであろう。
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