住民合意無き「廃止」は有効か?!…公共交通の存廃、住民合意は絶対必要条件
「厳粛に受け止める」…市長、廃止決定受け入れを表明
3月議会初日の2月25日、市長は、施政方針で「(協議会の廃止決定は)利用者にとっては大変厳しいものと感じるが、厳粛に受け止めたい。地元と十分協議し、沿線住民の移動手段としての公共交通の確保に責任をもって対応する」と述べ、廃止決定を受け入れる方針を明らかにしました。
また市長は、「(24日の協議会では)代替運行に関する基本的な考え方が示された」としましたが、これは間違いです。提案され確認されたのは「代替運行バス運行に関する検討項目」であり、長電作成の「基本的な考え方」はあくまでも参考資料に過ぎないとされました。こうした認識の間違いは、どこから生まれてくるのでしょうか。行政の描いたシナリオ通りにならなかった事実を真摯に反省することが求められています。
市長も協議会長である副市長も、この間、「できることなら残したい」と自らの想いを率直に語る場面が多々ありました。鉄道は一旦廃止すれば復活が困難であるだけに、出発点は「できるならば残したい。残そう」との意欲にほかなりません。できることを全て誠実にやりきったのだろうか…市長、副市長に真摯に振り返ってもらいたいと思います。
3月議会に臨むにあたり、改めて屋代線の存廃問題を考えてみたいと思います。『市政直行便NO.24』で報告した内容を少し補強してまとめて見ました。余り、整理はできていませんが…。
廃止を多数決で決めた法定協議会の問題点
利用者の減少から赤字が続き、「独自の運行は困難」(長野電鉄)としていた長野電鉄屋代線の活性化・再生を協議してきた「長野電鉄活性化協議会」は2月2日、「鉄道を廃止しバス代替運行に転換する」方針を多数決でまとめました。「廃止」と「存続」は14対11、僅か3票差です。しかも14票は協議会規約に定める過半数ギリギリでした。
協議会は今後、屋代線の替わりに走らせるバスのコースなどについて話し合い、協議が整った後に、長野電鉄は国に屋代線の廃止届を提出することになります。2月24日の協議会でも長電社長は「3月までに廃止届」を公式に表明しましたが、その前提となるバス代替運行の協議は「白紙から検討」することとになり、「3月までに廃止届」を正当化できる根拠はなくなったといわなければなりません。
沿線の住民の皆さんは「実証実験の継続」を求め、屋代線存続に期待をつなごうと真剣な取り組みを始めていますが、顧みられることがありませんでした。住民合意無き「廃止」決定は、公共交通の活性化・再生に大きな禍根を残す決定といわなければなりません。鉄道はいったん廃止すれば、復活が困難。これで終わりにすることはできません。
廃止決定がはらむ重大な誤り
私は、多数決で「廃止」とした決定は「協議会の総意とはいえない」と考えます。地域公共交通活性化再生法に照らして、三つの重大な誤りがあると考えるからです。
➊鉄道再生の目的を逸脱
一つは、そもそも屋代線の再生が目的である協議会が「鉄道の廃止」を結論付けることは、協議会の目的を逸脱していることです。「活性化協議会」は、「貴重な社会資本である屋代線を持続可能な鉄道として、次世代に継承できるような方策を検討する」ために設置されました。屋代線を廃止しバス代替とする結論を導き出すために「活性化協議会」が設置されたわけではありません。
根拠法令にさかのぼれば、協議会について定める地域公共交通活性化再生法第6条は、「総合連携計画に作成に関する協議」と「総合連携計画の実施にかかる連絡調整」を行うための組織が協議会であると規定しています。鉄道の再生を協議するために発足した協議会が、鉄道を廃止する決定を行うことは権限外であるということです。総合連携計画で定めた「新しい運営形態への移行の検討」では、上下分離方式や第三セクター方式、またディーゼルへの転換などについて、充分な議論がないまま、費用対効果から「バス代替が優位」との方向性を導きだし、協議会の議論をリードしました。本来は、費用面ではバス代替が優位であっても、鉄道の社会的意義を捉え、新しい運営形態のスキームについて優先順位をつけ、公的支援を真剣に検討し、方向性を出すこと協議会の仕事だったのです。「廃止ありき」の議論になっていると批判される所以です。
➋住民合意は絶対必要条件
二つは、沿線住民との合意がないことです。協議会の根拠である地域公共交通活性化再生法の趣旨は、「事業者まかせ」から利用者・住民、事業者、行政の連携・協働で国・自治体の公的支援=税金の投入をもって公共交通の再生を図ることにあります。従って、沿線住民との合意は絶対必要条件なのです。
協議会事務局は、「沿線代表も加わる中で客観的に議論し民主主義のルールに基づいて出された結論である」と強調しますが、利用者の位置づけが余りに軽んじられているといわなければなりません。
肝心の利用者を代表する沿線の住民自治協議会は、総合連携計画の完全実施=「実証実験の継続」を求める「廃止」に合意していません。住民との合意無き決定は、法の想定外です。ましてや、昨年の実証実験では、利用者・収入ともに1割程度増加するという効果を上げることができました。総合連携計画で定める「3年間で60万人」の利用者増の達成に向け、利用しやすいサービスを盛り込んだ実証実験を継続し、存続の可能性を探ることこそが求められる結論なのです。
しかも、2月22日に開かれた「住民自治協議会連絡会」では、屋代線の存廃問題を全市的な課題として議論することが必要だ」との意見が出されています。市民的な議論と合意という意味でも、不十なまま「廃止」決定がされていることの証です。
都市内分権という形で、新しい住民自治の仕組みの構築を支援しようとする市行政の取り組みから考えても、これに逆行するものです。
➌委員構成にも疑義
三つは、協議会の委員構成の問題です。沿線住民代表に「千曲市地域公共交通会議」(これもまた法に基づき設置されたもの)の代表として千曲市行政の理事者(市民生活部長)が選任されていたことは看過できません。公正・公平な委員の選任となっていないということです。また、利害関係者である当事者が少ないことも課題であるといわなければなりません。
協議会規約に現れる「廃止ありき」の意図
屋代線の廃止決定は出席委員の過半数の多数決で決められました。過半数という議決方法を定めた規約にも疑義があります。長野電鉄活性協議会の規約は第8条の4で「協議会の会議の議事は、委員の過半数により決定し、可否同数のときは議長の決するところによる」と定めています。
しかし、生活バス交通の再生を協議する公共交通活性化・再生協議会の規約は第6条の3で「協議会の議決方法は、全会一致を原則とする。ただし意見が分かれた場合において、議長がやむを得ないと認めるときは、出席委員の3分の2以上の賛成で決するものとする」とされています。
どちらがより民主的かは一目瞭然です。問題は、協議する交通モードの違いがあれ、また長野市単独の協議会か沿線3市にまたがる協議会かの違いがあろうと、事務局を担当する長野市行政のスタンスとして、ダブルスタンダードが明白であることです。
地域公共交通活性化再生法という同じ法律のもとで、多数議決の基準が異なって設定されていることに、当初から「ある意図」が隠されていたと疑うのは私だけでしょうか。「屋代線の再生問題はもめる。廃止に持っていくためには多数議決の基準を下げておこう」との意図が最初からあったのではと言わざるを得ません。
納得できる説明責任を果たしてもらうことが必要です。
「費用便益分析は一つの指標でしかない」…多角的に検討されたのか
2月24日の公共交通対策特別委員会では、バス代替が優位とする費用便益分析を行ったパシフィックコンサルタンツ㈱(略=パシコン)を参考人に招き、便益分析について検討しました。
私は①費用便益分析は、屋代線の利用者数予測(H53年28.8万に減少)を前提に行われている。総合連携計画における60万人達成の際の評価が行われ、比較検証されるべきで、用促進による社会便益の増加が織り込まれる必要がある、②バス代替による転換率は40%。これはアンケート結果から導き出されたものであるが、6割の利用者がマイカー利用に転換することによる「道路渋滞・混雑」への影響が見えない。代替バス運行の費用は必要車両数や車両更新費、維持修繕費、バス運賃の段階的値上げが適正にカウントされているのか、③鉄道利用者への効果として、「移動時間の定時性向上効果」「移動の快適性向上効果」が、効果計測から除外されている理由は何か、④供給者への効果において、当該事業者だけで、競合・補完事業者収益が除外されているのはなぜか。屋代駅でのしなの鉄道への乗り換え、あるいは須坂駅における長野本線への乗り換の効果を評価することで、供給者への効果の「マイナス」が縮減されるのでは、などを質問しました。
パシコンからは「前提条件の捉え方で結果は異なってはくるが、バス代替の優位性には変化はない」と述べるとともに「法定協・事務局からオーダーのない検討は行っていない」としました。そもそも行政からの分析項目のオーダーの仕方に疑問が残ります。またパシコン側は「費用便益分析は一つの指標に過ぎない。どう評価するかは法定協の議論」と指摘しました。
法定協の議論において、バス代替が優位との結果を導いた費用便益分析結果が「廃止」へのターニングポイントになったことを振り返ると、費用便益を「一つの指標」として多角的に屋代線の再生が議論・検討されたのかが改めて問われることになります。コンサルの指摘によれば、費用便益分析結果は、廃止を結論付ける根拠にはならないということでしょう。
活性化協議会は原点に返り、議論し直しを
屋代線は貴重な社会資本、だから継承をめざしたのでは?
3年間の「長野電鉄屋代線総合連携計画」は、屋代線を「必ずしも経済効率性だけで評価するのは適切ではない」との位置付けのもとに、「貴重な社会資本である屋代線を持続可能な鉄道として、次世代に継承できるような方策を検討する」(計画より引用)ために策定された計画です。屋代線を廃止しバス代替とする結論を導き出すために策定された計画ではありません。計画の原点に戻るべきです。
実証実験の道半ばでの結論は時期尚早
行政側は「市民アンケートや実証実験の結果を踏まえて協議会が客観的に判断した結果。委員の皆さんが決めたこと」と協議会の決定に責任を委ねる姿勢に終始しています。「客観的な判断が重要」というのであれば、屋代線活性化のために総合連携計画に盛り込んだ27事業全ての利用促進策を実験した上で、結果を検証し、客観的な判断がされるべき。実証実験半ばでの結論は、余りに拙速で無責任です。
交通ネットワーク崩れ、まちの衰退が懸念
鉄路を廃止しバスで代替させることは、マイカーへの乗り換えを助長し、地域公共交通の衰退を加速させ、ひいては駅がランドマークになっている河東地域のまちづくりを減退させることにつながりかねません。
受け入れ難い「廃止」
活性化協議会は原点に返って議論のやり直しをすべきです。住民の求めに応え、後1年、実証実験の継続に活路を見出す再検討をなお強く迫りたいと考えています。
「線路は続くよ、どこまでも」…鉄道に生活があり文化があります。だから、つなげたい!
屋代線の存廃は全市的な課題
厳しい経営は事実だが…
累積赤字50億円、毎年1億8千万円の赤字、設備投資に30億必要…こんな数字が並ぶと、「廃止も仕方がないのでは」と考える市民は多いでしょう。新たな税金の投入は必要になります。でも、屋代線は今でも46万人の欠かせない足であることに眼を向けたいと思うのです。鉄道と生活路線バス、コミュニティバス、デマンドバス、タクシーそれぞれの持つ交通モードの役割を活かし、公共交通ネットワークを再構築することが、待ったなしの地域社会の課題だからです。そして、地球温暖化防止を具現化するライフスタイルの転換に公共交通の活用が不可欠となるからです。超高齢社会を迎える中、社会問題となる「買い物難民」の課題にも応えることになるでしょう。
どうやって屋代線という鉄道を残すことができるのか…
県や市が鉄道施設を保有する上下分離によって、ディーゼルに転換させるしかないと考えます。そして、運行は長電ではなく、違った会社(3セクを含め新しい運行会社)に委託することだと思います。この新しい運行スキームについて、初期投資と維持管理にどれだけの費用がかかるのか、県や市、市民でどのように負担を分かち合うのかを徹底的に議論・検討することではないでしょうか。
可能性をもっと検証すべき
少なくとも、この可能性を真剣に検証することが求められています。「実証実験の継続」を求める意見は、存続を自己目的化するものではなく、存続の可能性を真剣に探ることにあります。今日的段階で、可能性の模索に軌道修正させる活路は、広く市民に呼びかけ、60万人の利用者を達成するとともに、実証実験継続を求める10万人市民署名を実現することだと私は考えています。沿線自治協に「役立てて」と寄せられるカンパも大きな応援団です。「屋代線存続ファンド」を地域でつくることも一つの手立てです。鉄道の社会的意義を活かした公共交通ネットワークの確立をめざし、利用者と連携し、議会としての責任を果たしたいと思います。
【長野電鉄屋代線とは?】
長野電鉄の発祥の路線だが、利用者数は1965(昭和40)年度の約330万人をピークに減少、09年度は約46万人に減少。単年度赤字は約1億7000万円、累積赤字は50億円を超え、今後、約31億円の設備投資が必要とされる。活性化協議会は昨年5月、地域公共交通活性化再生法に基づき、長野、須坂、千曲3市や住民代表、長野電鉄などで設立。本年度、電車の増便、終電時間の繰り下げの実証実験など18事業を実施。3か月の取り組みだが利用者は約1割増加している。46万人の「足」、大事にしたい
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