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2010年11月17日
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市議会公共交通対策特別委員会・視察報告…茨城県「ひたちなか海浜鉄道」

11月13日にはひたちなか海浜鉄道を視察。茨城県ひたちなか市は、94年(H6年)の勝田市と那珂湊市の合併により誕生した新市で、面積は99.04?、人口は15万8千人。水戸市に隣接し、県中央の東部に広がる平坦な台地に位置する。東側には13㎞の海外線を有し、海岸沿いには国営ひたち海浜公園や重要港湾「茨城港常陸那珂港区」を擁し、工業団地を含め1182㌶に及ぶ「ひたちなか地区開発」が進む。工業と水産加工業を基幹産業とし、国内外の物流拠点ともなっている。

 鉄道はJR常磐線を主軸に水戸線・水郡線が接続し、勝田駅など4つのJR駅が存在、上野-勝田間の所要時間は特急で70分。2008年(H20年)4月に、第三セクターとして開業した「ひたちなか海浜鉄道湊線」が勝田駅を起点に那珂湊駅から阿字ヶ浦駅を結んでいる。また、生活交通としては、市内における公共交通の空白地解消を目的にコミュニティバスを5コース運行している。

茨城交通が利用者減から廃止を表明
  視察目的は、鉄道事業者である茨城交通㈱が営業する湊線(9駅・全長14.3㎞・全線単線非電化)の廃線申し入れに対し、官民一体となった存続運動により、市が50%出資する第三セクター鉄道会社の立ち上げで、鉄路の存続を図っている「ひたちなか海浜鉄道湊線」の再生の取り組み状況である。【写真上は那珂湊駅】

まず、ひたちなか市役所で、企画部企画調整課・福地佳子課長補佐、神永明同課企画員から、存続までの経緯、湊線存続支援策、ひたちなか海浜鉄道の現状と利用促進策などの説明を受けた後、湊線の那珂湊駅から勝田駅間に乗車、那珂湊駅では吉田千秋社長からもお話しを伺った。

地域をあげての鉄道存続への取り組みのモデル

  茨城交通湊線の再生は、地域をあげての鉄道存続への取り組みの一つのモデルとされ、また第三セクター方式による存続として注目されている。H17年12月、事業者からの廃止の申し出を受け、「湊鉄道対策協議会」や「おらが湊鐡道応援団」などが中心となり、市をはじめ自治会や商工会議所、沿線高校を巻き込み、市民レベルの存続運動の取り組みが進展。この運動が事業者に廃止届の見送りを決断させ、茨城交通と市が共同出資する第三セクター方式の「市民鉄道」として存続させたもので、H20年4月の新会社による運行開始から3年目を迎えている。また、新会社設立にあたり、社長を公募、当時、富山県高岡市の万葉線の再生・経営に取り組んでいた吉田千秋氏を社長に迎え入れたことでも注目されている。吉田社長には、屋代線活性化協議会が開いた須坂市でのシンポジウムに講師として参加してもらっている。

 1965年(S40年)の350万人の利用をピークに、2005年(H17年)には70万人台にまで減少していたが、市民の利用促進運動で2007年(H19年)以降、利用者は増加に転じ、昨年度は77万人台にまで回復。今年度も昨年同期を上回る状況だ。

存続のカギとなった「おらが湊鐡道応援団」

 市が関係団体と設置した「湊鉄道対策協議会」もカギの一つ、ポイントは沿線高校が参画している点であろう。市内の高校6校のうち3校が沿線にあり、1割が鉄道を利用、その5割の高校生が「鉄道以外に交通手段がない」状況で通学の足として不可欠な鉄道であることが背景としてある。また市民アンケートでは「何らかの手段で湊線を存続すべき」が過半数を超え、「県や市の支援だけでなく住民も支援し維持する」とした人も約24%に上っている。

 こうした住民意識を背景に存続運動をリードしたのがH19年1月に結成された「おらが湊鐡道応援団」という市民組織だ。地域住民自らがノーマイカーデーを設定して利用促進を図ったり、観光ブースを開設したり貸し自転車サービスを運営したりと乗客を集める取り組みも行われた。また「マイレール」とするため寄附金活動にも取り組み、1,200万円を超えるカンパを集めてもいる。

 また、教育委員会の取り組みとなるが、茨城県と筑波大学の協力のもとに「交通すごろく」を用いたモビリティ・マネジメント教育(小6対象)も実践されている。写真上は、那珂湊駅待合室の応援団ブースに立つ吉田社長

県・市をあげての支援スキーム

①第三セクター会社のスタートにあたり、ひたちなか市は2008年度(H20年)では合計1億9,950万円を支出(内訳は出資金9,000万円、貸付金4,000万円、鉄道近代化等補助金5,700万円、基金積立金1,100万円)。出資金に対し県は2,000万円を補助。

②施設設備に対する補助は、H20年度から24年度の5年間で約5.4億円。鉄道軌道輸送高度化事業補助制度(国県・市・事業者、補助率1/3にかさ上げ)を活用し、事業者負担分は県と市で補助する。市の補助金は5年間で1億8,700万円となる。

③運営に対する補助では、5年間で約1.2億円の経営支援が必要とされ、県・市が支援する。市は固定資産税相当額の補助、県・市は路線維持費・電路維持費等の修繕費を補助する。市の補助金は5年間で約1億200万円余となる。

④この他、市は自治会や企業、個人からの寄附金を「湊鉄道線振興基金」に積立、駅舎などの環境整備や利用促進事業に活用。市は3年間で3,000万円を積み立てる。

3セク会社「ひたちなか海浜鉄道」としての利用促進策
 ①年間通学定期券の導入(120日分の往復運賃で1年間利用)
 ②自治会割引回数券(自治会員を対象に11枚綴りの回数券を9枚分の価格で販売)
 ③駅へのレンタサイクルの配置
 ④夏休み1日フリー乗車券のプレゼント(市内の小学3年生1,700人に配布)
 ⑤那珂湊駅に無料駐車場を整備
などの通年策に、イベント列車や古い車両や駅舎を活用した鉄道ファンの来訪にも力を入れる。

 特に印象に残る点は、沿線の観光資源やレトロな車両コレクションを鉄道会社として情報発信していることだ。「湊線・沿線さんぽ」「時間旅行・那珂湊駅編」といった沿線観光情報をパンフ化し発行している。また、国営ひたちなか海浜公園で行われる音楽の祭典「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」に合わせ「ロック饅頭」を販売したり、駅舎に居つくネコを駅長・駅助役に見立てアピールもしている。また、会社が発行する「乗車証明書」を見せれば、沿線商店街でソフトドのサービスなどが受けられる仕掛けも作っている。商店街は持ち出しだそうだ。デザイン化された駅名標も面白い。みなとメディアミュージアムに参加した慶応大学生のデザインを購入したものだ。

今日的な経営は運賃収入1.7億円に対し、支出は2.1億円で約4,000万円の赤字だそうだ。再生をめざす全国の地方ローカル鉄道と連携し、工夫しあいながら、H24年度での黒字をめざしたいと社長は熱く語る。「できることは何でもやってみる」…そんな社長の想いが随所に見られ、市民と一体で再生に取り組む事業者の熱意を感じる。

総括的なまとめとして

ひたちなか海浜鉄道湊線は、合併前の役所所在地、勝田市・勝田駅と那珂湊市・那珂湊駅の2都市間交通を基軸とし、阿字ヶ浦まで伸びている路線で、通学路線であり観光路線である点が特徴と思われる。H20年度で通学定期は29.1万人(38.5%)、通勤定期は12.7万人(16.9%)、定期外が33.7万人(44.6%)。また営業係数は115.9である。しかも全線非電化路線である。

 長野電鉄屋代線とは条件が違うのだが、沿線のみならず全市的な存続運動の進展、市民運動への行政の関わり、市民意識の醸成、県の積極的な関与、そして3セク方式の採用と社長公募への行政の政治英断には、学ぶところが大きい。
【上段の写真は、列車のキーホルダーと「縁起のいい切符」、下段はPRチラシ】

ひたちなか市のタウン・ミニコミ誌より。那珂湊駅で吉田社長からもらいました。3年目を迎えたひたちなか海浜鉄道湊線の『今』がわかります。参考までに掲載します。クリックすると拡大します。
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