県が進める市町村消防の広域化について、東北信地域では、消防救急無線のデジタル化は東北信エリアで一本化し整備するものの、東北信で一つの消防本部体制については将来的な課題にこれを事実上棚上げし、当面(H24年度末まで)は段階的な消防の広域化を推進するとし、現在、今年の10月を目途に一定の結論が得られるよう、北信地域の5消防本部の一本化・広域化の検討が進められています。
私は、東北信エリア一本化ではなく、せめて東北信で2消防本部体制とすべきと主張してきた一人です。しかしながら、2008年6月に原案が発覚した長野市内の中山間地域3消防分署(七二会・飯綱・鬼無里)の人員削減計画による市民サービスの低下・安全の格差の問題は、棚上げされているものの、計画を中止する方向性は確定していません。広域化により、こうした安全の格差がますます広がることも懸念されます。市町村消防の広域化で住民サービスの向上が図れるのか、課題や問題点を探ってみました。
急ピッチで進む「北信地域消防広域化検討会」…8月には方向性の確認へ
1月段階での東北信地域消防広域化研究協議会の「消防広域化の枠組み等の方向性」に基づき、4月に北信地域の5消防本部が参加する「北信地域消防広域化検討会」が設置された。検討会では?出動体制等を含め、住民サービスの向上が図れる広域化をめざす、?将来を見据え、住民の理解が得られる広域化をめざす、?職員の士気の高揚が図れる広域化をめざすとする「基本的な考え方」を確認、5月から6月には各消防本部・署所の機能と人員、勤務体制や運営方式など広域化に伴う組織体制と消防費の試算を調査・検討し、7月には検討結果をまとめ、8月には北信地域の広域化について方向性を確認するとしている。
【下図は広域化研究協議会の資料より。クリックするとPDF版が開きます】
「来る者は拒まず、しかし条件あり」の長野市
北信地域の拠点である長野市の基本姿勢は「来る者は拒まず」とされる。しかし、広域化にあたっては、広域連合や一部事務組合方式ではなく、構成市町村との「受委託方式」、勤務体制は「2交代制」(長野市以外は3交代制)をいわば条件とし、「受け入れられないのなら独自でどうぞ」とばかりの権威的、強気な姿勢で臨んでいるとされる。長野市消防局が行った職員アンケートで、広域化のエリアでは55%が北信を選択し、運営方式では83.8%が受託方式、勤務体制では76.2%が2交代制を望んでいるとの結果が大きな根拠となっているようだ。このアンケート結果はなぜか開示されていない。
長野市消防局と飯山市を拠点とする岳北消防本部、中野市を拠点とする岳南広域消防本部は、それぞれ北信エリアの統合を、須坂市消防本部は長野市との統合、千曲坂城消防本部は地域性からか隣接する地域との統合を意向として示している。現状として消防本部毎に運営方式や勤務体制が異なることから北信地域での広域化といっても温度差があるのが実情だ。
「広域化で住民サービスの向上」には異論も!?
先に示した北信地域の消防広域化の「基本的考え方」では「出動体制等を含め住民サービスの向上を図れる広域化」を打ち出しているが、実は長野市消防局は「住民サービスを低下させない広域化」を主張したとされる。長野市の考え方は、中山間地域を多く抱えるエリアで消防力の現在の水準を低下させないことが現実的な課題だとする。確かに、中山間地域3分署の消防職員の削減=消防と救急の兼務によるサービスの低下問題が、未だに解決の出口が示されていないことを考えると、問題意識は理解できる。
因みに消防と救急の専任体制をとっているのは長野市だけで、あとの4つの消防本部は兼務体制になっているという。広域化で消防と救急の兼務で一本化すれば、住民サービスの低下は避けられない大問題となる。
消防本部の境界地域では、広域化により消防車・救急車の到達時間の短縮というメリットが生まれることは想定されるが、職員の削減、消防と救急の兼務が進めば、デメリットが広がることも想定される。「住民サービスの向上」を謳っている以上、住民サービスが、どこに住んでいようと、どのように、どれだけ向上するのか、具体的に示される必要がある。
「受委託ありき」で進む運営方式…多角的な検討を求めたい
受委託方式は、長野市消防局以外の消防本部の職員はすべて長野市の職員に身分移管し、構成する市町村から消防事務を受託し、市町村の負担金で一元的に消防体制を構築することになる。例えば、制服一つとっても、広域連合や事務組合の場合に816人全員の制服を新しくする必要があるのに対し、受託では半分以下の職員の制服の新調で済むというコストの効率化が図れる利点はあろう。しかし、住民の生命と財産の安全を守る消防の仕事をコスト論ありきで論じるのは拙速である。
それぞれの市町村の負担金がどのようになるのか、分署等の増改築、新しい消防装備を配備する場合の市町村負担に耐えられるのか、負担を維持継続できるのかが論点になると思われる。広域連合や事務組合方式の場合それぞれの比較検討がまずは必要だ。
受委託方式の課題としては、市町村の負担金の他に、職員の賃金・労働条件の統一、広域配転による職員へのケア―、消防資機材の再配置、消防と救急の兼務、各消防本部の消防戦術の違いの克服などがあげられよう。
職員の士気高揚につながる広域化議論を
消防の職場はより規律が重視される職場だけに、「命令一下」になりがちで、現場第一線の意見や声が反映されにくい体質をもっている。ましてや団結権が認められていない消防職場では尚更である。長野市では市長が消防職員と直接対話を行い、また職員アンケートを実施しているとのことだが、それで十分とは言い難い。賃金のあり方や、2交代制か3交代制か、日勤と当直の年間勤務時間数の是正など労働条件の違いをどのように解決していくのか、結論ありきではない十分な検証と検討を求めたい。また、他の消防本部はどうなのかということも気かがりである。「職員の士気高揚が図れる広域化」をめざす以上、現場第一線の職員の意見を第一義に尊重する取り組みが不可欠である。モノが言える雰囲気、意見に耳を傾ける雰囲気を仕組みとして再構築することも必要である。それにも増して問題なのは、住民の関心事にされていないことだ。情報提供すら行われていない現状は、早急に打開される必要がある。
9月議会における焦点の一つに
6月議会では市民ネットの同僚である池田清議員が消防広域化問題を取り上げましたが、全議会的に検討していくのはまさにこれからです。8月中には広域化の方向性の確認がされることから、9月議会では遅い位なのですが、焦点の一つになります。8月中には消防広域化を北信レベルで考える議員交流を準備したいと考えています。住民サービスの向上、住民理解、職員の士気高揚という観点から多角的に検証し、議会に臨みたいと思います。
|