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2010年5月16日
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長野電鉄屋代線の存続・再生に向けて[レポート]

★5月15日の地域公共交通の明日をつくる県民集会で事例報告した内容です。
 新聞スクラップなどの添付資料は省略しています。
 すべての報告資料はPDF版を参照してください。

1.長野電鉄屋代線の現状


(1)屋代線とは?

 長野電鉄で最も歴史の古い発祥の路線。1922(大正11)年6月、河東鉄道として屋代~須坂間(24・4キロ)が開業。26年、同社が長野電気鉄道と合併して長野電鉄が発足したのに伴い、河東線の一部となる。2002年、河東線の信州中野~木島間(通称木島線、12・9キロ)廃止に伴い、屋代須坂間を屋代線と名称変更。
 単線で駅は13(須坂市2駅/長野8駅/千曲市3駅)。長野市の外縁部を運行し、屋代でしなの鉄道と接続する。

(2)年間利用者数は48万人、ピーク時の15%に激減
 屋代線の利用者はS48年の330万人をピークに、H19年度は48.5万人に減少、ピーク時の15%に。H10年度の78.5万人と比較しても約60%にまで落ち込む。

(3)年間1.8億円の赤字、累積赤字は50億円超
 利用者の減少により、長野電鉄の経常損益は1.6億円(H19年度)の赤字で、屋代線単体では1.8億円の赤字に。さらに、屋代線の累積赤字は50億円を超え、また、今後10年間に必要な投資額(車両更新や施設整備)は30億円を超えるとされ、非常に厳しい経営状況となっている。
(4)屋代線の営業係数は276.6
 長野線は、営業係数が94.4で黒字となっている。しかし、屋代線に着目すると、屋代線の営業係数は276.6で赤字となっており、他の中小民鉄と比較しても高い数値であるとされる。

【屋代線の輸送人員の推移(出典:総合連携計画)】


全線

昭和40年度

平成17年度

平成18年度

平成19年度

輸送人員

19,970,172

8,669,278

8,489,468

8,404,472

昭和40年度比

100

43.4

42.5

42.1

屋代線

昭和40年度

平成17年度

平成18年度

平成19年度

輸送人員

3,302,405

487,845

490,584

484,503

昭和40年度比

100

14.8

14.9

14.7


【屋代線:H19年11月13日の乗降人員】

















【長野線・屋代線・長野電鉄の経常収支(平成19年度)】

全線

項目

昭和40年度

平成17年度

平成18年度

平成19年度

営業収入

810,981

2,218,892

2,186,861

2,189,067

営業費

765,181

2,248,237

2,128,268

2,240,461

営業損益

45,800

-29,345

58,593

-51,394

経常損益

25,711

-131,080

-66,027

-161,626

営業係数

94

101

97

102

*全線の累積損益は▲46億6619万5千円

屋代線

項目

昭和40年度

平成17年度

平成18年度

平成19年度

営業収入

188,837

96,667

97,667

9,4874

営業費

156,117

238,150

252,513

262,482

営業損益

32,720

-141,483

-154,846

-167,608

経常損益

30,396

-155,048

-173,320

-184,095

営業係数

83

246

259

277

*屋代線の累積損益は▲51億7484万2千円

【長野線・屋代線・長野電鉄の経常収支(平成19年度)】


2.屋代線の役割と存続の課題

(1)通勤・通学の不可欠な足

 「屋代線は、長野市・須坂市・千曲市を結ぶ都市交通軸を形成し、沿線の通勤・通学や交通弱者の交通手段として重要な役割を担っており、必ずしも経済効率性だけで屋代線を評価するのは適切でない」(総合連携計画より)

(2)鉄道は貴重な社会資本

「このような背景のもと、市民のみならず来訪者にも利用しやすい鉄道として再生するための活性化策、効率的な鉄道経営に係る施策、地域が一体となって鉄道を支える仕組みや施策の検討により、貴重な社会資本である屋代線を持続可能な鉄道として、次世代に継承できるような方策を検討」(総合連携計画より)

(3)「乗って残す、乗って活かす」沿線住民の利用促進…マイ・レールへ

(4)鉄路として存続するには、上限分離など新しい経営スキームの導入検討が不可避


3.「単独運営は困難」~法定協議会~総合連携計画策定~実証運行へ

(1)09年2月17日…長野電鉄、事業者として単独運営は困難」と県及び沿線3市(長野市・須坂市・千曲市)に存続に向けた協議を申し入れ。
(2)09年2月20日…県及び沿線3市、長野電鉄は「経営状況は深刻で、長野電鉄単独での存続は大変厳しいが、地域十未婚にとって貴重な生活路線」との認識で一致。「3市と長野電鉄が連携して活性化・再生をめざし、県も支援する」ことを確認。
(3)09年5月…地域公共交通活性化再生法に基づく法定協議会「長野電鉄活性化協議会」が発足。
(4)10年3月…沿線住民アンケート・観光アンケートなどへ経て「長野電鉄屋代線総合連携計画」(H22年度からH24年度までの3カ年)及び「事業計画」を策定。
(5)10年7月…総合連携計画事業27事業のうち、実証運行、利用促進策など18事業を10年度(H22)に具体化する計画。
(6)10年11月…実証運行の評価分析調査結果を踏まえ「新たな運行形態への移行」について案をまとめる予定。

4.「長野電鉄屋代線総合連携計画」の概要…《連携計画概要版より抜粋》

(1)《屋代線の課題》

課題1:屋代線の利用者の減少

●利用者が減少し続けている要因は、現状の屋代線のサービス水準では他の交通手段との競争力がないことや、屋代線沿線を目的地にする人が少ないためである。
住民アンケートでは、半数以上の人がサービス水準の改善がなされれば頻繁に利用する・時々利用すると考えており、まずは屋代線を利用してもらえる環境づくりと、屋代線を利用する人の動き、住民の積極的な利用を心がける意識向上が必要である。

●観光客は、利便性が高く魅力がある観光地には立ち寄る可能性があり、現在、屋代線沿線以外に来ている観光客をうまく沿線に呼び込むことが必要である。

課題2:経常収支の大幅赤字

●今後、少子高齢化が進む中で、このまま推移した場合の将来の収入は大きく減少すると見通され、安全運行に必要な設備投資を踏まえた将来の収支では、屋代線は更なる赤字拡大となり、長野電鉄単独での屋代線運営は限界である。
しかし、交通弱者の交通手段の確保、鉄道が存在することによる安心感など屋代線の社会的価値は大きく、屋代線の存続には、長野電鉄の努力だけに頼らない運営の仕組みが必要である。

(2)《基本方針と取り組むべき施策》


(3)総事業費は5870万円

 2010年度の実施事業は限定され、また新しい運行形態への移行の検討が先送りされたため、3年間の総事業費を5870万円と見込んでいる。内、国の補助対象事業費は5270万円。2分の1の国補助を見込む。2010年度分は全額で5360万円。

5.長野地区公共交通対策会議の取り組み

(1)長野地区公共交通対策会議とは

アルピコグループの事業再建による川中島バスの不採算路線の見直しをはじめ、地域公共交通の維持・再生が喫緊の課題となる中、「乗って残そう、乗って活かそう公共交通」を合言葉にバスや鉄道、タクシーなど公共交通機関の再構築と利用促進を目的に発足。長野地区労組会議や交通運輸に携わる労働組合、自治体議員などで構成する。

(2)屋代線現地調査、三岐鉄道・北勢線や福井鉄道・福武線の現地調査

  屋代線の現地調査を行うとともに、廃線の危機から再生に取り組んでいる事例として三岐鉄道・北勢線(近畿日本鉄道の廃止表明を受け、三重県と沿線自治体による鉄道施設整備と赤字補てんを前提に民間の三岐鉄道が路線を継承・再生)や福井鉄道・福武線(地域公共交通活性化再生法に基づく「鉄道事業再構築実施計画」認定第1号の路線)の現地調査を実施。

(3)沿線住民アンケート(資料:スクラップ)

  沿線住民と一緒に屋代線の存続の課題を模索するために実施。沿線の1万世帯にアンケート用紙を配布し1000枚を回収。沿線の9割が存続を希望している実態が判明。サービス水準について「満足度」や「改善重要度」を聞く中では、「運行本数」や「運賃」、パーク・アンド・レールライド等の改善が重要であることも明らかに。

(4)屋代線の将来を考えるシンポジウム(資料:スクラップ)

  09年7月4日、茅野實・県環境保全協会長を実行委員長に「公共交通を考える市民の集い~屋代線の将来を考える~」を松代文化ホールで開催。沿線住民をはじめ、予想を越える420人の市民が参加。

(5)長野市・長野電鉄・県への要請活動(資料)

(6)総合連携計画素案に対する意見書の提出(資料)

(7)沿線住民との連携

6.沿線住民…イベントや集いを重ね「屋代線の未来をつくる会」発足へ

(1)若穂地区住民自治協議会では、まず昨年4月29日に「電車にゆられてたっぷりと古代の旅」と銘打ったイベントを企画し272人が参加。また今年3月3日には松代住民自治協議会との共催で「屋代線を残そう!市民の集い」が開催され、千曲市、須坂市、長野市松代地区、同市若穂地区の代表がそれぞれの取り組みや今後の活動を報告し情報交換した。240人が参加。若穂地区では住民による存続運動を担うため「屋代線の未来をつくる会」を発足させている。「乗って残そう!屋代線」ののぼり旗を作成し、沿線に掲出、利用促進を訴えている。(資料:スクラップ)
(2)しかしながら、長野市内沿線と須坂市や千曲市との住民の関心度には温度差があることも事実。沿線全体で存続への機運をいかに盛り上げていくかが課題となっている。

7.今日的な課題…屋代線を鉄路として残すために

(1)総合連携計画そのものの課題
①全体の27事業の内、実験として実施されるのは17事業のみで、しなの鉄道や長野電鉄長野線との乗り継ぎ改善やと駅舎トイレや夜間照明の改良などは先送りされていること。
②車両不足から、バスによる増便が盛り込まれたこと。電車による増便は1日3往復増と最終便の繰り下げ1往復(須坂~松代間)で1カ月の実施。バスによる増便は大型6台で1日14往復、2ヶ月間の実施となる。行政側は「バスによる代替運行とするものではない」とするが、廃線・代替バスの運行につながりかねない問題点を内包していること。
③運行サービスの改善につながる実証運行や割引回数券(2300円を2000円に割引)は3カ月間の実施にとどまり、実証運行としての検証に問題を残していること。
④限定的な実証運行の評価分析を踏まえ検討される「新しい運行形態への移行」は、自ずと限定的になりかねない危険性をはらみ、依然として廃線の危機が払拭されていないこと。
(2)計画に対する国支援の見通しが不透明
①屋代線の総合連携計画の総事業費は約5600万円とされたが、国の支援が十分に受けられるかどうかが不透明なこと。

②国の40億円という当初予算の補正増額、地域公共交通再生に関する一括交付金の創設、交通基本法の制定に向けた取り組みが求められること。
(3)実証実験運行を成功させる…廃止ありきにしないために
①いろいろな課題があるとはいえ、7月から始まる実証運行を成功させ、新しい経営形態への移行にプラスとなる条件を沿線住民の利用促進によってつくりだすことが最大の課題。

②法定協議会が意識啓発のために計画する地域シンポジウム(千曲市・6月下旬、須坂市・7月上旬、長野市11月)を存続に向けた住民の熱意が結実するように成功させること。

③地区公共交通対策会としても、実証運行計画の周知と利用促進を働きかける取り組みを計画。

(4)新しい経営スキームの具体化の展望を
①新しい経営形態の検討は法定協議会で行われるが、上限分離方式、第三セクター方式などシュミレーションと沿線住民及び長野市民の負担について情報を開示し、沿線住民及び市民が選択する手法を実現すること。

②単に屋代線の存続にとどまらず、長野市域・北信地域の鉄道を含む公共交通ネットワークの維持・再生には公的支援が不可欠であることを共通認識とした取り組みが強く求められること。
(5)マイカーとの共存に向けた政策誘導の展開へ
①総合連携計画は、まずは便利な電車を実現しようとする試みであるが、計画の最大の課題は、マイカーだけに頼らず、バスや電車を利用してみようと思う動機づくりにある。「乗って残す」意識改革の醸成が必要であることは間違いないが、将来にわたって公共交通を維持再生するには、地球温暖化防止への参加意識とともに公共交通利用によるエコポイント制度の創設や、企業等に対し税制優遇措置を講じてエコ通勤を推進するといった政策誘導策が不可欠である。

   公共交通優先のまちづくりへ!鉄道・バスのネットワークを活かして!


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