1.屋代線総合連携計画は「屋代線の役割は必ずしも経済的効率性だけで評価するのは適切でない」とし「貴重な社会資本である屋代線を持続可能な鉄道として次世代に継承できる方策を導き出す」ために、①日常の生活行動で抵抗なく使えるサービス水準の向上、②屋代線を活用した人の動き、③地域が一体となった鉄道を支える仕組みづくり、④新たな運行形態への移行の検討の4つを基本方針に据え、まずは利用者の増加を図るために、実証運行をはじめとする、当面27の具体的施策を展開するとしている。しかしながら、経常収支の大幅赤字を対応するための公的支援による屋代線運営の新たな仕組みづくりは、実証運行等の検証を通じた「検討」課題に先送りされた。
2.これでは、利用者増が図れなければ、公的支援による新たな運行形態への移行は検討するに値しないと言っているのに等しい。地域と一体となって鉄路を残し、河東地域の生活と文化を守り育むという熱意と意欲が極めて乏しいものと言わざるを得ない。総合連携計画の目標は、3年間で13万人の利用者の増、H24年には60万人と設定されているが、「この目標を達成しても赤字がなくなるわけではない」「経常収支を黒字にするためには現状の利用者の約3倍にあたる約130万人/年の利用が必要」とされ、極めて厳しい数値をあえて強調していることにも、存続に向けた消極性をうかがわせている。また、実証運行にバス代替輸送をメニューにあげたことからも、廃線に向けた準備と受け取られかねない問題を内包し、沿線住民の運動に水を差すものとなっていることは極めて遺憾である。
3.そもそも「長野電鉄単独での運行継続は困難であり沿線自治体に存続に向け支援を求める」ことが出発点であることを考えると、存続させることを前提とした運行及び財政支援スキームを検討し、沿線住民には赤字分のこれだけを利用者増で補う、自治体はこれだけの支援を行う、交通事業者にはこれだけは負担してもらうとする役割分担を示した上で、実証運行をはじめとするサービス向上による利用者増と沿線住民が主体的に担う利用増を位置付けるべきである。
4.したがって、総合連携計画においては、存続の選択肢として上下分離方式を含む公的支援スキーム案を早期に構築し屋代線存続案として提起すること、その上で、計画に具体化されている屋代線利用増による活性化案と合わせて、沿線住民及び関係自治体のすべての市民に存続の可否と乗って残す取り組みを問うべきであると考える。屋代線は電車による運行を前提としているが、富山市におけるライトレールの先進事例をはじめ、ここ数年のうちにもハイブリッド電車やバッテリー電車など電車をめぐる技術革新が大きく進展することをも見据え、市街地鉄道ネットワークを展望することが重要と考える。
5.協議会では、バス代替輸送実験について「廃線を意図するものではない」としたが、この点を改めて明確にすべきである。長野電鉄木島線が廃止されバス代替運行に切り替えられたが、バス利用は伸び悩みマイカーに切り替わってしまっていること、全国的にバス代替運行は成功していないことをしっかり押さえることが必要である。「バス代替でも仕方がない」という方向性を導き出すような取り組みではないということを計画に盛り込むことが必要である。
6.その上で、実証運行の期間が3カ月と極めて短期に設定されていることも問題である。マイカーから電車への利用転換は、ライフスタイルの転換と環境問題への意識変革が問われる時代的転換となるものであり、このことを僅か3カ月で実証すること自体に無理がある。少なくとも計画期間3年間をスパンとした実験と位置付ける必要がある。
7.屋代線の存在意義及び屋代線沿線の「駅」の存在意義を、河東地域の大動脈であるとともに、長野市域の、また北信エリア地域の公共交通ネットワークの維持に求めることが必要である。その上で、長野電鉄沿線に立地する厚生連松代病院、同若穂病院、長野市民病院、県立須坂病院、厚生連北信病院といった総合病院等への通院の足として、長野電鉄の鉄路をその核に位置づけ、バスやタクシーなどデマンド交通等の他の交通手段とのネットワーク化により、通院の足として鉄路を再構築するプランを検討する。高齢者などの通院の手段は、運行ダイヤや駐車場の問題から、マイカーが主となっている現状から、快速列車の投入、P&Rの徹底、車内での優先席の確保、割引切符など、通院の手段として鉄道を疎外している要因を解決し、「長電医療ライン」(仮称)を構想するもの。高齢社会に対応する交通ネットワークに「医療ライン」の新しい付加価値をつくり、通院手段としての鉄道を再構築するものである。
8.利用増を図るための具体的な施策事業、営業収益を改善するための施策などとして、次の事柄を補強し、具体化を検討されたい。先進成功事例に学び、まねることから始めることも重要である。
?長電バスガイドが屋代線に車掌として乗車し、観光名所案内をはじめアテンダント・アピールを行う。イベント列車の運行時に企画することを検討する。
?和歌山鉄道貴志川線の「タマ駅長」、上田電鉄別所線の「ハーモニカ車掌」をヒントに、「ウリボウ駅長」「サル駅長」などや、「沿線写真展車両」「沿線ガイド車掌」などの導入。
?サイクルトレインの実施が昼間時間だけとされていることから、朝夕の利便性を向上させるため、駅ごとに無料レンタル自転車を配置し、自宅から駅まで、駅から目的地まで自転車を利用できる移動環境を構築する。
?「松代イヤー」と連動した、屋代線観光規格列車の運行。屋代・松代・綿内・須坂などの主要駅における松代観光ガイドの設置。
?信州ディスティネーションキャンペーンと連動し、北信濃エリアでの屋代線の利用案内キャンペーン。HPの「信州レールトレイル」にようやく屋代線がアップされているが、上田から小布施を結ぶ中間地点として、松代大本営地下壕跡や海津城跡地なども地域情報として発信する。JRと長電屋代線の連動企画切符の発行。
?ラッピング車両による広告収入の増
9.最後に、交通事業者である長野電鉄自身の取り組みについて、改善を求めたい。「単独で運行維持は困難」の表明から1年余、事業者として住民に乗ってもらう努力をどれだけしてきたのか、沿線の高校をはじめとする教育機関や病院、さらに企業に対し、具体的に乗ってもらうアクションが見えていないのである。経営危機を示したのだから、あとは法定協議会にお任せ、沿線住民にお任せとなってはいないのか。例えば、「乗ってくださいキャンペーン」として事業者自身がチラシ配布から始まり、企業・学校訪問などできることがあると思うのである。できてなければ直ちに始めてもらいたい。河東地域における公共交通の担い手としての社会的責任に向き合い、より真摯な姿勢と取り組みを強く求めたい。同時に行政側からも、協働の相手として交通事業者に対して意欲を引き出す取り組みが求められるところである。沿線住民の存続に向けた取り組みが意欲とる熱意をもって取り組まれ始めていることからも尚更問われることである。鉄路を鉄路として残し沿線の生活と文化を守る…鉄道ネットワークの意義を捉え返し、沿線住民の期待と希望がつながる計画となることを強く願う。
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