16日、市役所第一庁舎・長野市民会館に関する市民会議が開かれた。市民会館建て替えをめぐる公開討論会として開かれたもので、市の施策に市民が直接意見を述べる場として注目された。感想を一言で言うと、「時期は別として、こうした市民会議が開かれたことは評価するが、時間の制約、進め方から断片的な議論で消化不良気味では。単なる通過点にしてはならないな」といったところだ。討論の最中、私の前に座っていた参加者の方が「議会ではどんな議論をしてるんだろうね。全然見えてこない」と隣人にささやいている声が耳に届く。身を縮めながらも、議員・議会の責任なるものに想いを馳せる自分がいた…。以下が「徒然日記」の続報・詳報。
市長は冒頭、「老朽化した公共施設をどうするのかは避けて通れない問題。意見を聞く一環として市民会議を開くことにしたもの。今日の意見、市民会館建設検討委員会の意見を聴き、最終的には市議会と相談して決めたい」とし、「個人としては“白紙”である」ことを強調した。
■市長あいさつ(要旨)…長野市ホームページより
■当日の配布資料[検討経過]…長野市ホームページより
32人(賛成22人・反対10人)が意見を応募した市民会議では、総務部長の検討経過の説明の後、意見発表応募した13人から抽選で選ばれた10人が意見を表明。建て替えに賛成で5人、反対で5人が発言。また会場からの自由発言もあった。
賛成の立場からは「芸術文化の拠点施設として必要」「市民が利用しやすい新しい施設を」「音楽専用ホールとして必要」「市民の芸術文化のメセナ活動を守ることができる」などと発言。全体的に合唱団や吹奏楽団に参加している市民の発言となったことが特徴だろう。
反対の立場からは「建て替えありき、耐震補強で対応すればよい」「使い続けることが文化の価値を高める」「合併特例債は合併地区に活用を。合併で広くなる市全体を考えるべき」「稼働率の評価は厳格にすべき」「情報提供が極めて不十分。市民アンケートを取るべき」「箱モノはいらない。公園や野外施設を」などの意見が出された。
市民会議の目的は、第一庁舎・市民会館を建て替えるか否かの根本問題について意見を聴くことにおかれていたのだが、市民会館が中心で規模・機能を含めた意見となった点はやむを得ないことだろう。賛成の意見では音楽専用或いは演劇専用といった機能面に着目した意見が多く、反対の意見でも「300人規模の演劇ホールが必要では」「運営の仕組みをもっと考えるべき」と規模・機能をめぐる発言が混在したことに表れている。
そもそも、第一庁舎と市民会館を一体で是非を考えるというのはそもそも無理があったのではないだろうか。行政組織の拠点と文化芸術の拠点を一緒に議論するのはかなり乱暴ともいえる。少なくとも、運営・進め方に工夫をすれば、もっと論点は整理できたかもしれない。第一庁舎と市民会館の建設地が「ところてん式」になっているがゆえに、行政の都合で一体の議論にしてしまったのではないかと穿ってしまう。「建て替えありきでは」との疑念と批判を生む要因の一つがここにある。
ただし、全体的には、第一庁舎の建て替えへの異論は少なく、現在の市民会館的な公共施設はいらないとする意見もなかったように思う。あえて整理すれば、第一庁舎・市民会館ともに耐震改修でしのぐのか、両施設を建て替えるのかが論点となる。さらに言えば、財政が厳しいと言いながら「施設」に100億円を超える税金を投入することが本当に必要なのか、税金を余りかけないで施設の維持はできないのかという根本問題が横たわっている。
「情報提供が少ない」との指摘に「情報提供は十分に行っている」と市長は答えたが、もっと真摯さが求められる。免震工法による耐震改修に必要な期間と費用、建て替えの場合の経費などは、市民会議で提出された「検討経過」で初めて明らかにされた事柄である。議会にも断片的にしか明らかにされてこなかったことが、まとまった形で、ある程度体系的に示されたのは、今回が初めてだ。
「県庁は耐震改修、市役所はなぜ建て替えなのか」「耐震改修に伴うリニューアル経費の根拠は?」との疑問にも、説得力を持ってこたえる責任があろう。さらに「市民会館的な公共施設はこれからも必要か」「必要とするならばどんな規模・機能のものにするのか」「場所をどうするのか」「コストは」など論点整理をして市民の関心と理解、合意を求めていく姿勢が問われている。
コストに関して言うと、建て替えの場合の経費試算として「第一庁舎に50億円、市民会館に50億円、合計で100億円」との数字が示されているのだが、場所や規模が決まっていないから確定ではないということは理解するとしても、市長が「実際に100億円でできるとは思っていない」と発言したことは重大だ。青天井に跳ね上がるとは考えていないが、100億円の試算でいろんなケースのコスト比較がされているのだから、無責任な発言とのそしりは免れない。少なくともマックスに近い試算値を公表すべきである。
こうした公開討論会的な市民会議は、タイミングも重要である。できるならば「在り方懇話会」の報告書が提出された昨年12月から建設検討委員会が立ち上げられた今年8月までの間に行われることがベターであった。これには議会の責任もあるのだが、市長選挙を控える中で、市長及び行政側に「プレ」が生じたことで、設定された市民会議との感は否めない。検討委員会では建て替えを前提に「建設場所、規模、機能」の検討に既に入っているのだから尚更である。10月28日に開かれた第5回市民会館建設検討委員会では「800~1000席くらいの音楽ホールと300席くらいの演劇ホールということで検討していく」との意見集約が行われている。市長自身が「白紙」というには、かなり無理があるプロセスを既に辿っているのではないだろうか。市行政サイドの検討段階と市民の受け止めとの間にあるギャップをいかに縮めていくのかということが重要である。政策・施策形成段階からの十分な情報開示と市民の意見集約、合意形成という点で今なお課題を残しているといえよう。
私自身は、第一庁舎及び市民会館の建て替えは安全性の観点から必要であると考えている。税金の有効な使い方をはじめ、課題は当然にしてある。第一庁舎については、職場環境の改善とワンストップサービスなど市民から見たサービス向上、さらにエコという観点からどんな機能を新たに持たせていくのかということ。市民会館については「場所」の問題に加え、「規模・機能」について広く市民合意を得ながら最終案を取りまとめていくことだと考えている。検討プロセスとして「建て替えありき」「場所ありき」にしてはならないことも重要だ。こうした視点から9月議会で質問を行ったつもりである。
市民会館問題は、12月3日から始まる12月議会の大きな焦点となる。12月議会は市民ネットとして同僚議員が一般質問する予定だが、論点整理を強めたい。
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