◆倉敷市(05.10.31)…新しい指定管理者制度の導入、情報開示と市民参加に先進的な事例
(1)人口467,009人、世帯数173,763、面積354.29Ku、人口密度1,318人/Ku。岡山県南西部、瀬戸内海に面する。67年に旧倉敷・児島・玉島の3市が合併。水島コンビナートに代表される工業都市。白壁の蔵屋敷が建ち並ぶ美観地区や倉敷チボリ公園を中心に、年間600万人以上の観光客が訪れる観光都市でもある。倉敷駅周辺の高次都市機能集積と鉄道高架化や再開発事業により、都市の顔づくりを推進。広域高速交通網の結節都市としての優位性を生かし、瀬戸内圏の中核都市として新たな飛躍を図る。05年8月1日、船穂町・真備町を編入。特産として鉄鋼、石油・石油化学、自動車、ジーンズ、学生服、い草製品、倉敷はりこ、倉敷ガラス、倉敷緞通、備中和紙、桃、れんこん、ぶどう、たこ、マスカット(加温)など。視察テーマは倉敷市における指定管理者制度導入の取り組みと観光アクションプランの策定と実施状況。(写真は、倉敷市総務局行財政改革推進室・渡邉主任からパワーポイントで説明を受けている様子)
(2)倉敷市における指定管理者制度の導入は、「倉敷方式」といわれる独自な取り組みが進んでいる。制度の導入と制度の適用に焦点をあて、行財政改革推進室の主任から説明を受ける。倉敷市の公の施設の状況は直営229、管理委託117、すでにH16年から指定管理者を導入している施設7の合計353施設(H17年1月段階)。倉敷市における制度適用の流れは、行革推進室を中心に各所管課毎に公の施設について存続か統廃合かのあり方を検討し、その上で「指定管理者」とするか「直営」とするか、「公募」とするか「指定」とするかの管理運営体制を検討し、「所管施設別管理運営方針(案)」を作成、設置条例をH17年2月議会で議決。これに平行して「取扱要領(案)」をまとめパブリックコメント(25の意見)、さらに「指定管理者制度適用方針(案)」についてパブリックコメント(220人の意見)を求めている。こうした経過を踏まえて、H17年4月に「管理運営方針」を決定し公表。公募を進めるにあたり、事前に公募条件等について市民意見・提案等を募集する「サウンディング(市場調査)」を実施し、その上で募集要綱をまとめ公募実施へと移る。6月議会ではサウンディングの結果を踏まえて設計金額を算定し債務負担行為を設定。7月以降、公募を開始し選定委員会(4部局ごとに束ねて5人で構成、外部委員は4人、利用者代表を含む)で選定、「優先交渉権者」を決定、10月以降、優先交渉権者との協議を進め「協定の締結」を経て12月議会で指定管理者の決定を行うものだ。
(3)指定管理者制度の活用方針では、指定期間は原則5年とし、「利用料金制」(指定管理者が公の施設の利用料を自らの収入として収受する制度、これにより利用料金は公金でないこととなる)を明示、また指定管理者制度における発注を性能発注(詳細な仕様は定めず必要な性能項目[サービス]を満足することを条件に発注するもの)と位置付け、請負の考え方に従い協定(契約)することを原則(結果債務を負わせ、指定管理料の精算は行わない)とすること、倒産等による債務不履行のリスクを避けるため「契約保証金の納付」(指定管理料の月額換算で4か月分以上)を原則(確実な担保がある場合は免除)とすること、指定管理者の業務範囲として設備危機の更新及び施設の修繕、飲食物や物品の販売、利便性向上のための開館日等の変更などを明示している。
(4)倉敷市の取り組み全体を通して、新しい制度の導入だからこそ、市当局として市民・事業者に説明責任を果たし市民サービスの向上を図りたいとする姿勢が明確に伺えることに感心させられた。特徴を整理すると、一つは独自の「サウンディング」を含め3回のパブリックコメント・意見募集を実施していること、二つに市民・利用者の立場で管理運営条件を検討することを第一とし統一的な「指定管理者適用方針」をまとめ、パブリックコメントを経て公開していること。三つにサウンディングという独自の事前市場調査を行い、公募するであろう事業者(事前に業界に投げかけ)とサービス向上や経費削減に向けた具体的提案を事前把握していること、四つに選定の透明性が図られていること、具体的には、委員会は過半数が外部委員であることを定め、実際に5人の内4人が外部、利用者代表を1〜2名を組み込み、市当局の誘導等を防いでいること、選定基準に基づく選考結果が「点数表」として公開されていること。五つに選定の結果、「優先交渉権者」という考え方に基づき、協定締結までに第二候補、第三候補の参入に道を開いていることなどがあげられよう。
(5)長野市の場合、指定管理者制度の導入は「行革推進審議会」における「市有施設検討部会」の審議により、経費削減・サービスの向上を目的に「市有施設のあり方(提言)」をまとめ、これをベースに庁内における議を経て手続きが進められてきた。この方法を否定するものではないが、施設の管理運営方針などは庁議で決定しており、市民意見・市民参加の手法が取られてきていないことは課題として残る。また、9月議会での指定議案の審議にあたり、選考経過・選考結果に関する十分な情報開示がされず、本当に利用者サービスの向上が図られるのか、経費の効率化が図られるのかという観点から十分な審議が残念ながら保障されえなかったことも今後の大きな課題である。指定管理者制度の導入・活用にあたり、説明責任、情報公開、市民参加という視点から、倉敷方式を一つの事例として参考にしながら、長野市の取り組みの再検証が問われていることを痛感した。また、担当者から「制度適用による効果・不安・課題」が率直に語られた点が印象に残る。効果として○民間企業等が保有するノウハウの活用○開館日の拡大・開館時間の延長○競争原理の導入(コスト削減)○適切なリスク分担、不安として○サービス水準の低下(今後の監視のあり方)○倒産・債務不履行等(新たなリスク)の発生、課題として○制度の周知徹底○受託者等の情報不足○選定事務の効率化などが指摘されている。
*参考 倉敷市「指定管理者制度」HP
http://www.city.kurashiki.okayama.jp/kaikaku/siteikanri/index101.html
(6)倉敷市は「美観地区」や「倉敷チボリ公園」を中心とする観光都市の一つ、長野市における1200万観光都市構想に照らして倉敷市の「観光アクションプラン」も調査した。倉敷市の観光入り込み客数は、瀬戸大橋が開通したS63年には1000万人近くにまで達したが、その後減少、H9年のチボリ公園の開業で一時増加したものの、H11年以降は減少傾向が続きH15年では646万人となった。課題として来訪経験者より来訪未経験者からの評価が高い「イメージ先行型」の都市であること(日本交通公社の調査による)、滞在時間が平均2時間ときわめて短いこと、一人当たり観光消費額が減少していること、多様な観光資源が生かされていないことなどを掲げ、これらの課題を克服するため、H16年12月に「観光都市くらしきの復活をめざして…滞在型観光推進に向けた感動体験のまち・くらしきづくり」を目指すアクションプランを策定。夜型観光として美観地区の夜間照明、観光地めぐりをするループバスの運行や鷲羽山の夕日鑑賞バスの運行、ホスピタリティの向上としてお荷物預かりサービス・お荷物チェックイン…手ぶら観光の推進、水島コンビナートや児島繊維産業などにスポットをあてる産業観光の開発などに取り組む。手ぶら観光や産業観光は参考となる取り組みである。夜間照明が始まったばかりの美観地区を夜に視察した。淡い光に浮かぶ蔵屋敷は魅力的だったが、お店が開いていないこともあってか、まだ閑散とした状況だったのが印象的。
◆高知市(05.11.01)…灰溶融設備も完全直営方式、工場長のプロ意識に脱帽
(1)人口329,731人、世帯数146,800、面積264.26Ku、人口密度1,248人/Ku。土佐24万石の城下町として県の中央部、四国山脈を背景に南は太平洋に面する。山内一豊の入国以来、土佐の政治・文化・経済の中心として発展。幕末・明治期には、坂本龍馬や板垣退助など偉人を多く輩出した歴史豊かなまち。05年1月1日に土佐郡鏡村・土佐山村を編入。高知自動車道など高速交通網のインパクトを活かし「ひと・まち・みどりが輝くふれあい元気都市」をめざす。都心部では中枢的な業務機能および商業・文化・遊び等の機能が融合した魅力ある都心整備を推進。都心へのアクセス条件の改善も図る。自由民権運動の発祥の地、坂本龍馬・板垣退助・後藤象二郎(政治家)、武市瑞山(勤王志士)、中江兆民・植木枝盛(自由民権家)を輩出、寺田寅彦(物理学者)、大町桂月(文人)、宮尾登美子(作家)、広末涼子(女優)の出身地でもある。
(2)高知市の視察テーマはごみ焼却処理施設(清掃工場)における灰溶融炉の運転状況とした。長野広域連合で進められる長野市への新しい焼却場の規模・内容を検証するためである。清掃工場現地を視察。(写真は柴工場長)
(3)高知市の新しい清掃工場はH14年3月に完成(市内1箇所)、4月から稼動。処理能力はごみ焼却炉200t/24時間×3炉、灰溶融路40t/24時間×2系列、可燃性粗大ごみ粉砕機40t/5時間をもつ。焼却炉は全連続焼却方式でストーカ式焼却炉、灰溶融は三菱製の黒鉛電極プラズマアーク方式。余熱の有効利用として、発電や余熱利用施設への電気・冷温水の供給を行い、サーマルリサイクルに取り組まれている。発電は最大容量が9000kw(現在7000kw)、80kw/1hを四国電力に売電し年間1.2億円の収益となっている。余熱利用施設「ヨネッツ高知」は工場に隣接して設置、プールや温浴施設・浴室、トレーニング施設をもつ。
(4)まず驚いたのは、この清掃工場が64人の職員により、灰溶融路を含めて完全直営で運営されていることだ。説明をした柴工場長は、電気関係の技術者で民間から市役所へ、H47年の旧工場建設にかかわり、今回の新工場建設・管理の責任者となった人である。工場長の情熱のなせる業か。焼却場と火力発電施設を持つだけに安全の確保とコストの削減のために勉強と研究を重ねたという。いわく「安全は自分たちで判断するもの」。大手プラント企業への業務委託では安全性の確保、コスト削減に不安が残るということだ。因みにごみ焼却場の完全直営は全国に二つ、高知市と豊橋市とのこと。灰溶融炉は3年間の瑕疵担保期間が設定(H14〜16)、改良・改善が進行中でH18年度中まで無償でメーカーが行う契約となっている。炉の耐火物は6ヶ月ごとに交換しなければならず、年8千万の維持管理費を要している。(写真は灰溶融炉、1月に視察した広島清掃工場のものと比べ巨大な炉である)
(5)ごみの総収集量は14万9千トン(H15年度)、焼却が12万3千トン、埋立1万トン、再資源化2万3400トン、水銀処理150トン。灰溶融によりスラグが7000トン、重金属メタルが295トン、溶融飛灰が1000トン発生する。スラグは「結晶質スラグ骨材」として1300トンを舗装コンクリート用骨材にして公共工事にリサイクル、残りは最終処分場の覆土剤にまわされる。最終処分場も限界に近づきつつあり、再資源化が求められている。全国的にはスラグのJIS化の動きがあり、リサイクルに期待を寄せているそうだ。重金属メタルは三菱マテリアルに2500円/tで売却、銅が10%以上含まれていることが条件だそうだが、金銀が10グラム以上/t含有する場合もあるそうだ。可燃ごみから金や銀という話は以外。溶融飛灰はキレートとセメントで固化処理し(1000tが1800tに)安定化物として埋立処分としてきている。11月からは溶融飛灰を三菱マテリアルで精製し再資源化をテストしているとのこと、33000円/tの費用がかかる。これら研究を重ね、最終処分場にいくものがないようにしたいと工場長は語る。年に1回は工場を訪問し再資源化の追跡調査をしているそうだ。
(6)高知市のごみ処理経費は7000円/tと極めて低い。直営故に「発注段階から性能や耐久性について業者としっかりつめてきた(工場長)」成果なのだろうか。より検証が必要である。灰溶融の安全性については突っ込んだ検証ができなかったが、灰溶融により再資源化がより進められていることを学んだ。なお、新工場は旧工場の隣接地で、ちょうど旧工場の解体が進められていた。解体費用は約3億円とのことであった。これも安い。(柴工場長と、市民ネット議員団)
◆高松市(05.11.02)…「住民自治協議会」のあり方を考えさせられる取り組み
(1)人口338,341人、世帯数139,693、面積274.44Ku、人口密度1,233人/Ku。讃岐平野の中央部に位置する県庁所在地。古くから高松藩の城下町として発展し、風光明媚な自然と街のたたずまいがほどよく調和する全国有数の美観都市。明治以降は四国の玄関口として栄え、国の出先機関や大企業の支店が集中している。四国の中枢都市として高速道路の開通や香川インテリジェントパークの整備、サンポート高松のグランドオープン等により、四国を代表する高次都市機能や都市資源の整備が進行中。防災対策の強化も急務となっている都市のひとつ。日本一に最長のアーケード商店街があげられる。
(2)高松市の視察テーマは「地域みずからのまちづくり」をめざし取り組まれている地域コミュニティ事業である。中央省庁による縦割りの画一的なシステムから地域主導の主体的なシステムを作ろうとするもので、小学校単位で連合自治会をはじめ、地域の各種団体、企業、NPOなどとの連携を強める地域コミュニティ組織の構築が進んでいる。H14年9月に高松市連合自治会連絡協議会(長野市でいう区長会連合会)が「各種団体の連携組織を育成・強化し、地域コミュニティ構築にかかる支援事業を実施すること」「地区公民館に地域コミュニティの活動拠点としての位置づけを図ること」を要望したことから、早速「高松市地域コミュニティ作り推進本部」を設置、当面の取り組みとして@地域コミュニティの組織化(各種団体の連携・強化)A活動拠点の確保B職員の意識改革、地域活動への参加を掲げ、具体化が図られている。市民部市民生活課・長尾真弘課長補佐から説明を受けた。
(3)高松市では1500の単位自治会(長野市の区にあたる組織)、35学校区単位の連合自治会(地区区長会)が組織され、公民館は41、内32の公民館に支所・出張所が併設されている。まず《地域コミュニティの組織化》では、35校区の内34校区で「地区コミュニティ協議会」がすでに発足。コミュニティ協議会は既存の各種団体と連携を図りながらも、地区単位に各種団体を横断的に束ねながら、青少年育成部会・福祉部会・環境・安全部会など部会制をしきながら地区のまちづくりプラン=コミュニティプランを作り上げ、まちづくりを推進しようとする組織として位置付けられる。H19年度から、これまでの各種団体への補助金を統合し、コミュニティ協議会への交付金とするそうだ。既に地区の各種団体をすべて解散し、部会長が縦割りの各種団体に対応する地区組織がでているという。この点は、縦割りから横断的・総合的な地区自治組織のあり方という点で注目に値する。《活動拠点の確保》では公民館を教育委員会から市長部局に所管を替え、コミュニティセンターと位置付け、地域コミュニティの拠点とすることが取り組まれている。H17年12月議会に「コミュニティセンター条例」を制定、条例によって所管替えをするという。この所管替えについて、文科省・生涯学習課は「生涯学習の機能を低下させないことを条件」に認める方向で、市条例の中でコミュニティセンターを「まちづくりと生涯学習を目的とする施設」に位置付けることでクリアーできているそうだ。センターの管理はH18年度では業務委託とし、H19年度から指定管理者に移行させる計画。支所を併設しているセンターは、支所が間借りする形で併設を維持。またセンターには地域雇用で2人の職員(センター長1人、職員1人)を配置していく方向を打ち出している。このセンター職員は、地域コミュニティによる公募採用を原則とし、市の標準報酬額以下の雇用・処遇とすることを定めている。従来の公民館長・公民館主事の処遇については未確認、地域職員として再雇用されていくのだろうか(確認が必要)。生涯学習の拠点施設である地区公民館を地域コミュニティ活動の拠点施設としてコミュニティセンター化していく方向は、縦割りを廃し総合的な活動拠点にしていく意味で重要な試みである。《職員の意識改革》では、地域まちづくりサポーター制度を発足させている。この制度は職員の中から公募により地域まちづくりサポーターを認定するもので、地域コミュニティの組織作りやコミュニティプランの策定作業などに参加し、市民との協働作業、関係化との連絡調整にあたるとされている。現在、3300人の職員中、79人が登録されている。完全なボランティア方式である。
(4)市の地域コミュニティに対する支援事業では、「地域コミュニティ構築支援事業補助金」として年間20万円以内で2年間、「地域コミュニティまちづくり活動支援事業補助金」として年間20万円以内で3年間などの補助金事業を位置付けている。組織の立ち上げと地域コミュニティを運営しまちづくり活動を進めるための補助金で、計5年間で100万円の補助となる。また、市民と行政が協同して取り組むパートナーシップによるまちづくりを進める観点から、「地域コミュニティ人材養成事業」(H17年度新規)が始まっている。まちづくりをサポートする人材を地域から養成していく発想で「まちづくり活動専門講座」などを用意している。また、窓口となる市民生活課地域振興係では、地域コミュニティ組織の立ち上げ編として「まちづくりの進め方ハンドブック」を作成し、市民に提供していた。
(5)市民の参加と自治による地域コミュニティづくりは全国で取り組まれている。高松市では先進市といわれる宝塚市や宗像市の取り組みに学びながら取り組みを進めているという。地域の連帯感やふれあいが薄れつつある中、また自治会への加入率が課題となってている中、自治組織のあり方に関する試みは、長野市における都市内分権、地域住民協議会のあり方を検討する上で、示唆に富むものがある。高松市の取り組みでは、各種団体を地区で横断的に統合しまちづくり総体の中で位置付け直していること、公民館を総合的なまちづくりの拠点とすること、地区コミュニティセンター職員の地域雇用という考えなどについて学ぶことができたといえよう。市民の発想でまとめられたコミュニティプランの市政への反映や、地区事業としての予算化、地域コミュニティが何をどこまで担うのかという点で、今後の取り組みに注目したい。
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