先週になりますが、27日、市議会経済文教委員会で岐阜県可児市の文化創造センターalaを視察して来ました。
5月の委員会の視察地の候補として日程調整しましたが叶わなかったもので、全国から注目される文化芸術政策事業の実践例として是非学んでおきたいとの強い想いを委員会で共有し実現したものです。
可児市=愛知県との県境、岐阜県の南部に位置し、名古屋市のベッドタウンとして発展。面積87.57㎢、人口99,141人。人口密度1,130人/㎢。市の中心駅であるJR可児駅と隣接する名鉄新可児駅、JR多治見駅から太多線で約20分。
視察テーマは、可児市文化創造センターalaを拠点とする文化芸術施策の取り組みです。長野市芸術館(市文化芸術振興財団)のあり方や施設運営に活かすことが目的です。
刺激的かつ示唆に富んだ視察となりました。
まずは公共文化芸術施設である文化創造センターalaの位置づけ、コンセプトについてまとめました。
H14年(2002)3月にオープンした文化創造センターalaは、1,019席の主劇場(宇宙のホール)、315席の小劇場(虹のホール)、100人収容の映像シアター、150人収容のレセプションホールを軸に、演劇練習室・音楽練習室、ワークショップルーム、美術・演劇・音楽のロフト等を施設内容とします。
指定管理者制度により公益財団法人可児市文化芸術振興財団が管理運営を行なっています。
H23年(2011年)に文化庁から「地域の中核劇場音楽堂」として認定され、H25年(2013年)には、文化庁の「特別支援劇場音楽堂」の認定を受け、5年間の補助を受けています。初年度では4,777万円の補助。
文化庁の特別支援制度は、H24年6月の劇場法(劇場,音楽堂等の活性化に関する法律)の成立を受けてスタートしたもので、全国15施設を対象としています。優れた舞台芸術の創造や発信に取り組む劇場や音楽堂を支援するもので、埼玉県の彩の国さいたま芸術劇場、東京都の世田谷パブリックシアター、サントリーホールなど全国有数の施設と肩を並べて認定されたものです。
市民を巻き込んだアウトリーチ(出張)活動やワークショップ、全国から実力派の演出家や俳優を招いての演劇創作など、ユニークで精力的な取り組みが認められたものとされます。
人口10万人規模の文化芸術施設が、国から大きな評価を得るに至ったキーマンが、H19年(2007年)に文化創造センターalaの館長兼劇場総監督に就任した衛紀生(えい・きせい)氏です。
演劇評論家として活動し、1993年には地域演劇の振興と演劇環境の整備を目的に舞台芸術環境フォーラムを設立。早稲田大学文学部講師、県立宮城大学事業構想学部・大学院事業構想学研究科客員教授を経て現職。
H28年度には芸術選奨文部科学大臣賞(芸術振興部門)を受賞されました。地域劇場では初めてだそうです。
衛館長は、長野市芸術館(市文化芸術振興財団)の第三者評価委員会の委員に就かれています。
衛館長・総監督から、可児市文化創造センターを拠点とした文化創造活動の運営理念や具体的な取り組みを直接お聴きすることを目的に日程調整し視察訪問したものです。
衛館長からは、「共有価値創造=創客経営の全体像~積極的な福祉政策としての劇場経営」と題するパワーポイント資料をいただき、氏の社会包摂型劇場経営の理念と実践をお聴きすることができました。
「刺激的かつ示唆的な問題提起!」というのが全体の印象です。
氏は「地域の公共文化施設は政策目的ではなく政策手段でなければならない。社会機関としての地域文化施設であり、戦略的投資が必要である」とし、キーワードとして次の7点を強調します。
◆包摂的な社会
◆戦略的な投資
◆社会貢献型マーケティング
◆社会的責任経営
◆社会的処方箋
◆悲しみの分かち合い
◆社会的共通資本としての劇場音楽堂
氏の提起からポイントを抜粋します。
◆「チケットの購入者は人口の1.7%に過ぎず、公共空間としての役割を担っていない。98%の普通の庶民が使える施設にしなればならない」
◆「芸術は崇高なものでマーケティングは関係ないとする意見があるが、間違っている」
◆「地域との縁をどう結ぶか?優れた芸術の鑑賞の場であると同時に地域の課題解決の場でなければならない。社会包摂機能が問われる。孤立させない=必要とされること、愛されることを実践する場である」
◆「愛好者にとっては芸術鑑賞の場であるが、全ての市民にとって居心地の良い居場所にしたい。文化芸術は承認欲求を満たす“触媒”である」
◆「アーラに一番遠いところにいる人にアーラの成果を届ける。集客から創客へ。すべての人にアクセスし社会に貢献する事業でなければならない」
◆「文化政策は野心あるアーティストに任せてはいけない。金を使うことしか考えていない。芸術監督には経営感覚が不可欠。そもそも芸術監督という手法は廃れてきている」
…文化芸術の箱物に如何なる魂を込めるのか!ということです。
長野市芸術館の運営についても厳しい意見をいただきました。
「芸術館の運営は心配、大変問題が大きいと考える。庁舎との合築を活かすマネジメントがない。フロアーの価値を創る人材が不可欠。芸術好き・音楽好きが集まっているだけではダメ。アーティストと市民との関係を創れる人材が必要である」
長野市芸術館の第三者評価委員会委員としての厳しい問題提起をどうクリアーしていくか、市議会の役割も問われます。
可児市文化創造センターalaでは、社会包摂(社会貢献)型劇場として、市民が元気なまちをつくるための「alaまち元気プロジェクト」、市民参加によるミュージカルや演劇、第一線で活躍する俳優・スタッフが可児市に滞在して制作する「ala collectionシリーズ」、日本を代表する「文学座」と「新日本フィルハーモニー交響楽団」の2団体と地域拠点契約を結んだ活動などを展開しています。
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